第7話 海の子 1
ダンたちは、灯台方面目指して、表通りを走る。
まだ日は沈み始める前だ。
表通りは、グラーダ国にまで続く大街道「リア街道」だ。
この通りは夜になっても人がいなくならない。商隊や、旅人、冒険者などもよく利用している。
ダンたちが人通りの多い表通りを走っていると、前に循環中の兵士3人が現れた。
兵士の隊長がダンたちに気づく。
「おい!貴様等、止まれ!!」
厳つい顔に、厚ぼったい唇の、高圧的な兵士だ。
「ゲッ。ゴリラ隊長!?」
呻いたのはエド。この辺りの警備担当の3人組で、子どもたちからは「ゴリラ隊長」と呼ばれている。
「おい!貴様、誰がゴリラだ?!」
ゴリラ隊長がムキになって、ダンたちを止める。
「・・・・・・エド」
余計な一言を言って睨まれてしまった。エドはペロリと舌を出す。
「ごめんなさい。急いでいるんです」
レオンハルトが穏やかな様子で言う。
レオンハルトに対してニコニコ手を振るのは、兵士の1人「タラシ」だ。テレーゼにも声を掛けているが、こちらも歯牙にも掛けられていない。
そして、もう1人ボンヤリしているのは通称「おむすび」だ。自分から何かしようという意識はほとんど無く、ただそこにいる。
「そこのパン屋の小僧!また何かやらかそうとしてるんじゃ無いだろうな?!」
ダンは、ゴリラ隊長に目を付けられていた。
エドを見返すために、無茶な事を沢山やってきて、周囲の人にも沢山迷惑を掛けていた自覚がある。
「そんなんじゃ無いです!友達が灯台から帰ってこないから心配して見に行く所なんです!」
ダンは訴える。ゴリラ隊長は鼻の穴を膨らませて唸る。
「何でそんなところに行ったんだ?!」
あくまでも詰問口調だし、ダンたちを疑って掛かっている。職業的にはそれでも良いのだろうが、これはゴリラ隊長自身の性格でもある。
「キンモクセイの花を採りに行ったんです」
レオンハルトが答える。
するとゴリラ隊長は首を傾げる。
「花?」
多分ゴリラ隊長は、キンモクセイの花と聞いても、全くイメージが出来ていないのだろう。
「いやいや、少年。キンモクセイの花は、今は咲いていないんじゃ無いかな?」
知識があったのは「タラシ」だ。
「それが・・・・・・。灯台の辺りには咲いている木があるって聞いたから」
「ふ~~~ん。じゃあ、行っといでよ」
狐目のたらしは、あっさりダンたちの前から身を引く。
「おい!アウラ!何勝手にっ!?おい、貴様等、待て!!」
ゴリラ隊長が叫んだが、ダンたちはタラシの横をすり抜けて走り出す。
「トット!ガキ共を捕まえんか!!」
「ええ~~?」
言われたおむすびは、のんびりしたように動き始めたが、ダンたちは、既にその横を走り抜けていた。
「おい!貴様等何をしておるか!!」
ダンたちの後方でゴリラ隊長の怒声が響く。
「だって、もうすぐ勤務終了じゃないっすか。早くエリザちゃんに会いにいきたいっすもん」
「おなかへった~~~」
「・・・・・・ダン。お前、結構ワルだよな」
エドがクスクス笑う。
ダンは赤面する。
「反省しているよ」
いつもゴリラ隊長には絡まれていた。またウチにまで来るかも知れない。
「大人に来て貰った方が良かったんじゃないかな?」
レオンハルトの指摘に、2人とも唸る。
確かに兵士が捜索に協力して貰った方が気持ち的にも助かる。
ただ、ダンとエドはゴリラ隊長との相性が悪い。2人とも何かしらでもめ事を起こして目を付けられている。
「うん。ボクが残って説明するよ」
察して、レオンハルトが言ってくれた。
「よろしく!」
「悪い!」
軽く手を上げるレオンハルトに託して、2人は灯台に向かって急いだ。
ただ、ダンは長く走り続けられない。だから、途中で脱落してエドだけが先に走っていった。
「ハア、ハア。僕は、何て、体力が・・・・・・ないんだ」
ダンは自分が情けなくて仕方が無かった。
太陽の端が、水平線に触れる。
空は赤紫色に染まる。
アンナマリーは声を上げる事も出来ないまま泣き出し、リオも失神寸前だった。
ただ、年上として、アンナマリーだけでも助けなければという意志で、なんとか耐えていた。
濡れた女は、乱れた髪の隙間から2人を見ながら、ずりずりと灯台への道を這ってくる。
このまま道を下れば、海に出て道は途切れてしまう。
「茂みを突っ切るしか無い!アンナは僕の背中にしがみついて下さい」
リオがアンナマリーに囁いて、小さな羽根をパタパタさせる。羽根は掴むにはちょうど良い。
アンナマリーが、尻尾を踏み台にして、羽根の間に納まり、いざリオが走り出そうとした時だ。
這い寄って来る女がうめき声をあげる。
『まあぁぁぁってぇぇぇ~~~~』
「うわあああああああっっ!!」
「きゃあああああああああああぁぁぁ~~~!!」
2人は叫び声を上げる。
リオが背の低い木々が生い茂った茂みに飛び込む。
枝が張っていて、人間だったら傷だらけになるが、ドラゴニュートの肌は硬い。
バキバキ、ドスドスと、音を立てて、女のいるところを迂回する。
女はそれを見て、道の上で方向を変えた。
迂回して、道に戻ったリオは、必死で丘を駆け上ろうとする。しかし、ドラゴニュートの足は遅い。
女も、ゆっくりながら、這って追いかけてくる。
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