第6話  素材集め 8

 16時にはダンとネルケは裏庭にたどり着いた。

 2人が帰ってくると、エドとブリュックがすぐに気づいてやって来る。

「おう、お疲れ!!」

「ああ。お疲れ。エドは大丈夫だった?」

 ダンの言葉にエドが笑う。

「大丈夫だからこうしているんだろうが?!」

「あははは。確かに」

 ブリュックはネルケに声を掛ける。

「ネルケはどうだった?」

 ブリュックの言葉に、ネルケはニヤリと笑う。

「まあね。楽しかったは、楽しかったよ」

 ネルケの言葉に、ブリュックがため息をつきながらダンを横目で見る。

「ダンさんは、相変わらずダンさんだったんだね」

「良くも悪くもね~」

 2人でクスクス笑い合う。


 少しすると、レオンハルトがやって来た。

「お帰り」

 その様子では、ダンたちよりも早く帰っていたようだ。

「釣れたの?」

「ああ。今はゲンさんのお店で預かって貰っているよ」

 ゲンさんは、レオンハルトたちの家のある坂沿いの魚屋だ。

 ルッツ同様、嫁さん募集中の無口なアズマ人だ。

「・・・・・・それで、髪の毛は?」

 ダンが恐る恐る尋ねた。

「うん。貰ったよ」

 レオンハルトは、あっさりと髪の一房を袋から取り出す。

「ダンが『欲しいから』って言って貰ってきたんだ」

 レオンハルトがさらりと言う。

 ダンは真っ赤になりながら髪の毛を受け取った。ダンは、変に思われなかっただろうかとか、何でそれで髪を切ってくれるのだろうかなどと頭がグルグル回る。

「『魔法道具作るのね』って、すぐに理解してくれたんだよ」

 とたんに、上気した頬が元に戻る。

「・・・・・・さすがテレーゼは察しがいいね」

 ダンが何とかそれだけ言うと、レオンハルトは誇らしげに頷いた。

「だろう?」



 

 それからしばらく経ったが、アンナマリーとリオは帰ってこなかった。

 次第に空が赤くなっていく。

 ヘルネ市の太陽は海に沈むので、陽が沈むまでは時間がある。だが、暗くなり始めると、あっという間に暗くなる。

「2人はどうしたんだろう?」

「大丈夫かな?」

 みんな心配になり始めた。

「あれかな・・・・・・?」

 そう呟いたのはネルケだ。

 みんな灯台の怪談を思い出す。それぞれに知っている怪談の数が違う。


「ちょっと行ってみようぜ!」

 心配顔でエドが提案した。

「そうだね。カンテラを持って行こう」

 ダンがすぐに準備をする。

「あ、あたし・・・・・・。ちょっとさぁ」

 ネルケが震えて泣きそうな顔をする。

「ネルケは行かないで待っていた方が良いよ。入れ違いになったら困るしね」

 レオンハルトがネルケをフォローする。

「ブリュックも危ないから待っていて」

 エルフは夜目が利く。レオンハルトは怪談を特に怖いとも思っていないので落ち着いている。

 怖いのは事故だ。レオンハルトは事故で母親を失っているからだ。

 2人が何らかの事故に遭っていないかを恐れている。


 すぐに準備を整えた、年長組であるダンとエド、レオンハルトは、灯台に向かって走り出した。






「ねえ。暗くなってきちゃったよ!」

 夢中になって2人でキンモクセイの花を採っていたアンナマリーとリオは、ふと顔を上げると、空が赤みがかってきていた。


 ヘルネ市の北側にある灯台の、更に少し先にキンモクセイがいくつか並んでいるところがあった。

 一度岬を降りて、海の近くに行く必要があった。

 道は茂みに挟まれた、細い一本道だけだった。


 細い道を下っていくと、辺りには、爽やかな甘い匂いが立ちこめていた。

 それで、2人はキンモクセイのオレンジ色の花を集めていた。

 小さい花なので、瓶に一杯集めるのは思ったよりも時間が掛かってしまったのだ。

 

「ここから街までは遠いから、早く帰りましょう」

 リオも怯えた様に言う。

 ひとまずは丘を登って灯台に行かなければ帰り道は無い。

 だが、夕方になってから灯台に近づくのは恐ろしい。

 いくつもの怪談が、再び2人の脳裏によぎった。

 それでも灯台に向かわなければいけない。


 急いで丘を駆け上ろうとしたその時だった。



 ズルズル。

 ベチャベチャ。

 

 濡れた物を引きずるような音が、登り道の先からした。



「ひいい!」

 リオが小さく叫ぶ。アンナマリーは声も出ない。

 

 2人が固まっていると、道の脇から、びしょびしょに濡れた、髪の長い女の人が、地面を這って出て来た。

 そして、這いずりながら、2人の方に迫って来るのだ。


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