第6話  素材集め 2

 あれからダンは、魔法道具の適正価格を調べた。

 冒険者ギルドに行って、図書室を使わせて貰ったのだ。本来は、冒険者が利用するのだが、閲覧する分には、一般の人も見ることが出来る。


 そして、1つの資料にあった魔法道具の値段を見た時、ダンは驚きのあまり、目玉が飛び出てしまった。しかも転がり落ちた目玉を手探りで探さなければいけなかった。

 これは比喩だが、それくらい驚いたのだ。

 例えば、ダンが貰った火付け棒。これに似た効果のある魔法道具は、1万ペルナー。ダンの家のパン屋の売り上げ4ヶ月分に相当する。

 魔法道具の治療薬も、パインが作った物ほど即効性が無くても、5万ペルナーにもなる。

 おいそれと作って貰って良い物でも無い。

 パインは頼めばお金に関係せず作ってくれるだろうが、それだと他の魔具師とのバランスという物もある。

 パインの店の売り上げも大切だし、良いように利用するのは良くないだろう。

『でも、相談だけなら・・・・・・』




 次に向かったのは、水を司る第一級神のウテナ神殿だ。一本先の通りにある神殿で、リオとその姉も住み込んでいる。孤児を引き取ったりしているので、今は確か10人ほど住んでいる。

 神殿に行くと、ちょうど礼拝堂の床を、小さな子どもたちと磨いていたリオがいた。


「ああ、ダンさん。お疲れ様です」

 リオは青い光沢のある鱗に覆われたドラゴンの様な姿をしている。年は11歳で年下だが、ドラゴニュートは首が長い分身長は高い。

 背中にある羽根は、実際にはほとんど役には立っていない。暑い日にうちわ代わりに使ったりするそうだ。

 髪はあるのだけど、人間族と違って、かなり太く、一見固い棘のように見える。しかし、触ってみるとしなやかでひんやりして手触りが良い。

 見た目は強そうだが、性格的にも能力的にも戦いには向かないので、ドラゴニュートの冒険者や兵士はほとんどいない。

 リオの両親は、船でグレンネックから移住のために移動してきた時に、海賊に襲われ、恐らく今は生きていないだろう。

 小舟で脱出したリオと、姉のエミさんだけが助かり、身寄りが無いので、ウテナ神殿で保護され、そのまま神官になるために住み込みで働いているのだ。


「あら、ダン君。今日もありがとうね」

 姉のエミもやって来た。

 エミはドラゴニュートだが、見た感じ綺麗な人だとダンは思う。薄紫色の鱗に、長い髪の毛。優しさが前面に出ているような顔立ち。

 ルッツの言う、美人の基準がこれぐらいわかりやすければ、人間族のダンにも理解できるのだが・・・・・・。

「いいえ。みんなお掃除頑張ってるね」

 ウテナ神殿で預かっている子どもたちは、いまはみんな小さくて、2歳~5歳くらいだそうだ。

 いずれ養子や、もっと大きな神殿で引き取られて行くのだろう。


 ウテナ神殿には子どもも多いため、いつも配るパンを多めにしている。というか、わざわざウテナ神殿用に父親はパンを作り置きをしている。

「ダンさん。夏祭りの山車はどうするか聞いてますか?」

 リオが尋ねてくる。

 だが、ダンはニヤリと笑う。

「リオ。ウテナ神殿は中立だとは言っても、地区的には敵だぜ。教えるわけ無いじゃん」

「そ、そんなつもりはないですよ。ただ知りたかっただけで・・・・・・」

 リオが抗弁するが、羽根がパタパタ動いている。

「大方レオンに聞き出せって言われたんだろ?」

「ち、違い・・・・・・ますよ」

 良いながらリオは首をうな垂れる。

 それを見て、ダンとエミが笑った。


 通りを隔てたレオンハルトやアンナマリーは緑地区。ダンやエド、ネルケたちは赤地区だ。それぞれどこかで隠しながら山車を作っている。

 赤地区は、造船所の端の倉庫で作っている。



 そして、次がレオンハルトの家になる。

「こんばんは」

 ダンが声を掛けると、ムスッとした顔の父親が出てくる。

 レオンハルトの父親は職人気質の大工だ。

 エルフらしく、気むずかしい性格で、同じ職人とも、よく喧嘩をしている。

「む・・・・・・」 

 そして、いつも口数が極端に少ない。

「あら、ダンね」

 奥からテレーゼの声がして、ダンはドキリとする。

 父に代わり、テレーゼが対応する。

「いつもありがとうね」

 テレーゼが柔らかく微笑む。

「いえ!」

 ダンが緊張していると、レオンハルトがチラリと顔を覗かせる。

「やあ、ダン」

 そして、奥に引っ込んでいく父親と姉のテレーゼに小さくため息を付く。

「父さんも姉さんも、素敵なエプロンだと思うけど、エプロンは腰に巻いた方が良いよ。首から下げる物じゃ無いと思うんだ」

 テレーゼだけで無く、職人気質で気むずかしい父親エトムントも、姉同様、レオンハルトのために、家ではわざわざボケた事をする。

 レオンハルトの母は、レオンハルトが物心つく前に、事故で亡くなったため、少しでも和ませるためにそうしているのだと、レオンハルト自身がこっそりダンに教えてくれた。

 方向性はともかく、その気持ちがありがたいので、レオンハルトは毎度優しくツッコミを入れている。


「ダンは夏祭りにネルケを踊りに誘うのかい?それともパイン?」

 レオンハルトが自然な様子で尋ねた。

 ダンとしては、テレーゼの前でその話題はして欲しくなかった。出来ればテレーゼと踊りたい。

「別にどうでもいいだろ?!それこそレオンはどうするんだよ?!」

 ダンがそう言うと、レオンハルトは事も無げに言う。

「ボクは、何だか沢山声かけられちゃってるから、順番に踊ることになってるんだよ」

 鼻に掛けてはいないが、しれっと自慢になる事を言う。本人がそう言う事を全く自慢しない天然なので、何も考えずに女の子たちと約束しているのだろうし、女の子たちも、踊れるなら順番でも構わないという事だ。

 ダンとしては、ネルケとは踊る約束をしているが、パインにはまだ声を掛けていない。

 少しずつ近所の人たちには受け入れて貰っているが、まだ、外には積極的には出掛けたりしていない。

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