第6話  素材集め 3

 次は花屋「フローム」。アンナマリーの家だ。

「ダーーン!!」

 6歳のアンナマリーは、いつも明るく朗らかだ。人なつっこいからダンにも良くしがみついてくる。

「またお泊まりに行ってもいい?!」

 アンナマリーの家とダンの家は、特に親しいので、良く昔から泊まりっこをしている。

「もちろん、いいよ」

 ダンもアンナマリーを可愛がっている。ちなみにアンナマリーは、1番目にブリュックと結婚して、2番目にダンと結婚するそうだ。そして、5番まで決まっているという事だ。

「ダン。エラにこれ渡しておいて」

 アンナマリーの母親が、ダンの母親にと、花束をダンに渡す。

 ダンの母親とは同じ年の幼馴染みだそうだが、言ったら悪いが、同じ年に見えないくらいアンナマリーの母親は若く見える。

 父親同士も同学年で、これは逆にダンの父の方が若干若く見える。



 

 最後に寄るのは、パインパイン魔具店だ。

「パイン?!パン持ってきたよ」

 店に入り、声を掛けると、ギイにぶら下げられてパインが置くからやって来た。

「ちゃんと自分で歩きなよ」

 ダンが呆れていうが、パインは面倒くさそうに目を逸らす。

「今日はクリームのパンが残ってたよ」

 ダンがそう言うと、とたんにダンの方を見てギイを伸ばしてくる。

「こら、パイン。ギイを使わない!」

 ダンがたしなめると、こっそりとアイが両腕を伸ばしてくる。

「いや、アイじゃ無くって自分の手で受け取りなよ」

 そう言うと、パインは頬を膨らませる。

「ダンはマイネーに似てきた・・・・・・」

 マイネーは獣人国の大族長なのに、パインを気にしてはるばるやって来たり、市長に命令して世話を見させている。

 ダンも、マイネーに頼まれたからにはパインを色々助けないといけない。

 それは友達として以上に気に掛ける必要があった。

「でも、アイとギイを見たら、慣れていない人はビックリしちゃうんだぞ」

 ダンがそう言うと、パインは「う・・・・・・」と唸って、床に降りて自分の手でパンを受け取った。

「勿論、僕はアイとギイは好きだから、隠さなくって良いけど、お客さんとかは驚かさないようにしないといけないから、自分で色々やるクセを付けるといいよ」

 ダンが諭すが、パインは客商売とは思えない事を呟く。

「客なんて面倒だから来ない方が良い・・・・・・」

 魔具師についてダンが調べたところに寄ると、パインの才能は史上類を見ない。

 只でさえ希少で、客を選べる魔具師である。

 パインなら、「客が来ない方が良い」なんていう台詞も、充分許されるのだろう。



「ねえ、パイン」

 ダンはいつも通り、パインと少しおしゃべりをしてから家に帰る。

 今日はさっき思ったことを尋ねてみる。

「お肉とか、食材が悪くならないような方法って無いのかな?」

 すると、パインは即答する。

「ある」

 そして、いつもパインが食べている固形の何かを取り出す。

 栄養はばっちりなのだが檄マズだそうだ。

「いや、そう言うんじゃ無くって・・・・・・」

 保存が利けば何でも良いわけではないのだ。素材そのものをおいしく新鮮に保存したいのだ。

「よく分からんな」

 そう言うや、パインが額の目の封印を解く。

「うへぇ。あれ、頭がヌルッとして嫌なんだよな~」

 ダンは思わず舌を出す。それに構わず、ダンの額に赤い光が突き刺さる。

 多分、頭の中のイメージとかを読み取って、最適な形で抽出、分析しているのだろう。そして、それに必要な魔法道具の製法と必要な素材も、どう言う仕組みかは知らないが、分析しているのだろう。


 光が納まると、パインは手を打った。

「ああ。そう言う事か」

 ダンの思った事が正確に伝わったようだ。

「どう?出来そう?」

「造作も無い」

 当たり前の様に言う。

「素材とかはどうなるの?」

 尋ねると、容赦なく光を頭に刺された。勿論痛みは無いが、頭の中をヌルヌルと撫でられるような気持ち悪さが襲ってくる。

 浮かんでくる素材は、中々多い。ちょっと大変そうだ。


「むむ?」

 光を当てながら、パインが唸った。

「ダン。お前、こんな事も考えているのか?」

 次に送られてきた素材は、冷却魔道具よりは簡単に集められそうだった。

「こ、これは?」

 ダンが尋ねると、パインはつまらなそうに言う。

「今度の祭りでマイネーがやった魔法みたいなのがやりたいのだろう?」

 明らかにむくれた様子だ。

 だが、ダンは喜色を浮かべる。

「そう!そうなんだよ!夏祭りでは市場広場では山車を燃やすだろ?だから、ゾウ広場では踊りの最後にあの魔法をもう一回打ち上げたらきっと素敵だろうと思ったんだ!」

 空に打ち上がる炎の花。あれが夜だったら、更に美しく見えるだろうなぁと思っていた。

「いまの素材で作れるの?」

 ダンが尋ねる。

「うむ。出来る」

 パインは即答する。

「じゃ、じゃあさ・・・・・・」

 「作ってよ」と言いかけて、ダンは踏みとどまった。

 代金を支払う必要がある。それは冷却魔道具にしてもそうだ。

 素材の量だけで考えると、多分「打ち上げ花火」とでも呼ぶべき魔導具の値段は2000ペルナー程度としておく。相当値下げしてその価格設定だ。それでもダンに支払い能力は無い。

 冷却魔道具となれば、それこそ1万ペルナーと設定したとしても、タダ同然の値段なのだろう。

 下手をしたら大きな屋敷が買えるぐらいはするのだろう。

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