第5話 初夏祭り 5
「あの・・・・・・あなたは『歌う旅団』のランネル・マイネーさんですか?」
ダンはずっと気になっていた事を尋ねた。
すると、大男はニヤリと笑った。
「確かにオレ様はランネル・マイネーだ!だが、今は『旅団』じゃねぇ。ちょっと抜けて、獣人国の大族長をしている」
やはりこの男は最強の冒険者パーティーの「火炎魔獣」ランネル・マイネーだったのだ。子どもたちのあこがれの英雄だ。
「あの。大族長って?」
獣人国の仕組みはよく知らない。
「まあ、期間限定の王様って事だ!尊敬していいぞ!」
マイネーは巨大に盛り上がった胸を張った。
ダンは胸が熱くなる。マイネーの言う通りに尊敬の念が溢れて止まらない。
「すごい・・・・・・。すごい!!」
嬉しくなって、叫んで飛び上がった。
その時、エドが息を切らしながら、坂を駆け下りてきた。
「ダ~~~ン!大丈夫だったかぁ~~~?!」
ダンは振り返ってエドに手を振った。
ダンの無事な様子に、エドは安堵のため息を付くと、すぐに駆け寄ってきた。そして、マイネーを見て驚く。
「すごいぞ、エド!この人、あのランネル・マイネーさんだ!!火炎魔獣の!!」
「ええ?!」
言われて、エドもダンの様に輝く目でマイネーを見つめる。
「『さん』はいらねぇ。だが、オレ様を尊敬しながら『マイネー』と呼べ!」
2人は興奮してうなずき合う。
「それと、ダンと、エドだったか?2人にはマースが世話になったな!礼を言う」
マイネーが、パインの小さな背を、しゃがんで叩きながら笑う。
「『マース』と呼んでいいのはクララーだけだ」
パインがマイネーに抗議する。
クララーとは、「歌う旅団」のリーダーである、美形の青年だ。神と人間のハーフだそうだ。
「おいおい。マースって呼び始めたのオレ様が最初だぞ!?」
マイネーもパインに抗議をするが、プイッとそっぽを向かれてしまう。
マイネーは、そんなパインに苦笑を浮かべてから、ダンとエドの方に向き直る。
「こいつ、まだガキで、何も分かってねぇから、オレ様心配でな。クララーが勝手に店を出させる方向で話が進んじまったから、仕方なく許可したんだ。それで、悪いんだが、2人には、これからもこいつと仲良くしてやってくれ」
マイネーの言葉に「ガキじゃ無い」とかパインが抗議していたが、ダンとエドは張り切って頷いた。
「勿論です、マイネー!!」
2人の返事に、マイネーは満足そうに頷く。
「マースも、初めて友達が出来たって、夕べ嬉しそうに話していたからな!がっはっはっはっはっ!!!」
マイネーが豪快に笑う下で、パインが顔を真っ赤にしてマイネーの足を叩いていた。
その様子に、ダンとエドは互いに顔を見合わせて笑った。
そうこうしている内に、ネルケや、レオンハルトたちも坂の上から駆け下りてきた。
「マイネーは歌う旅団じゃないなら、演奏とかしないんですか?」
ダンは少し残念に思いながら尋ねる。
歌う旅団は、行く先々で演奏をして回っていたので、何時しか人々がそう呼びだしたのだ。
「おいおい。王様がそんじょそこらで演奏とかしてたら、示しが付かねぇだろうが」
マイネーはそう言ったが、まんざらでも無さそうに顎を撫でる。
「まあ、それなら、今日の昼に、ゾウ広場でいっちょやってみるか」
「やったーーー!!」
2人は飛び上がって喜んだ。
「んじゃな」
マイネーは、パインを連れてパインパイン魔具店に戻っていった。
その後、ネルケたちがダンとエドに合流した。
昼になり、ダンはネルケの家に迎えに行った。
ダンは普段は着ない、お祭り衣装を着ている。
迎えに行ったネルケも、普段の薄着と違って、お祭り用の刺繍がたくさん入った上着に、広がったスカートを履いて、髪も綺麗に編んでおめかししている。
顔立ちが整っているからとても可愛らしい。
「ネルケ。とっても可愛いよ!」
ダンが笑顔でそう言うと、ネルケはなぜか怒ったような顔をする。
それでも、2人で手を繋いでゾウ広場の造船所の方に向かう。
広場の奥では、何やら太鼓が沢山並べられていて、その周りに規制線が引かれていた。そして、この辺りを警備して回っている3人の兵隊が立っていた。「ゴリラ隊長」と「タラシ」と「おむすび」と子どもたちに呼ばれている3人だ。
通りを行く人たちは、祭りでも無いのに、何でこんなに太鼓が並んでいるのかと不思議そうに見ている。
「よお、ダン。ネルケ」
エドが声を掛けてくる。ブリュックも、ジンジャーもいる。ジンジャーはまだ祭り衣装は持っていないがそれなりにオシャレしているし、エドとブリュックは祭り衣装だ。
後になってやって来たレオンハルトにアンナマリーも祭り衣装だ。レオンハルトの姉のテレーゼも祭り衣装でついて来たので、ダンは思わず見とれてしまう。
だが、何か違う。
「姉さん。お祭り衣装はとても素敵だけど、付けひげをしていたら、素敵さが減ってもったいないよ」
レオンハルトが冷静に指摘する。
「あら。そうなの?レオンが残念に思うならひげは取らないといけないわね」
テレーゼはクスクス笑う。
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