第5話 初夏祭り 2
両親と揃って夕食を食べていると、エドと母親と、ジンジャーがやって来た。
「ケルナーさん。申し訳ないねぇ」
エドの母親がそう言うが、ダンの両親はキョトンとしている。
「いや。何があったんですか?」
驚くダンの両親に、エドが促されて、自分が何をしたのか、包み隠さず話して聞かせた。そして、話し終えると、深々と頭を下げる。
「いや・・・・・・。しかし、そう言われても、息子は怪我なんてしていませんし、何も言わなかったから」
父親は、首を振って戸惑う。
エドは、その後で薬の材料を取りに行った事も語って聞かせた。
「おかげさまで、ジンジャーもすっかり元気になって」
エドの母親が、嬉しそうに言う。その通りで、ジンジャーは虚咳病だったのが嘘の様にチョロチョロと動き回ったりして、ニコニコしている。
「ダン。今の話本当なのか?」
父親が問いかける。
ダンは申し訳なさそうに頷く。
「黙っていてごめんなさい」
「謝る事じゃない。よくがんばったじゃないか」
父親がダンの頭をポンポン叩く。
「謝る事じゃないのはエドも同じだ。経緯はともあれ、結果は互いに良い事になったんだ。エドも反省しているなら、私から言う事は何も無いよ」
ダンの父親は、とても温和な性格なので、そう言ってエドの母親も安心させる。
「ありがとう、ダン。これ・・・・・・」
エドはそう言うと、まだたっぷり残っている薬をダンに渡す。
「それにしても、お前、いつの間にあの魔女と仲良くなったんだ?見直したぜ」
エドがコソコソとダンに言う。エドには明日パインの本当の事を伝えようと、ダンは思っている。だから、クスクス笑う。
そこへジンジャーがやって来て、ダンのズボンを引っ張る。
「ダンたしゅけてくれたんよね?」
「そうだぞ。ありがとうを言うんだぞ」
エドが妹に言う。
「あたし、ダンと結婚しゅりゅう~~」
突拍子も無いことを言う妹に、エドが目を剥いて叫ぶ。
「おい!何を言い出すんだ!?」
1人ムキになるエドに、ダンも、2人の親たちも笑った。
エドたちが帰って、少し冷めた夕食の続きをしながら、ダンはパインの事を両親に語った。
「それは驚いたね。あの『邪眼の魔女』なんて言われている子が、まさか9歳の女の子だとは」
父親が目を剥く。
「それに、みんなに怖がられるからって、あんまり表に出ないでいるなんて、かわいそうだねぇ」
「・・・・・・うん」
そう答えながら、ダンの胸は痛んだ。自分だけがパインと仲良くなって、特別感を得ようとして、パインの本当の姿をこれまで黙っていたのだ。
「それで、これが火の出る魔法道具か。便利なものだなぁ」
これまで隠していた火付け棒も、両親に見せていた。
「黙っていてごめんなさい」
ダンがそう言うと、父親は苦笑する。
「確かに、褒められた事じゃないな。でもそれは父さんたちも同じだ。ダンにパン配りを頼んでおきながら、自分ではあの店に行ってみようとしなかったんだ」
父親が言うと、母親も笑う。
「それで、明日の用事っていうのが、あの子の店の片付けなんだね」
「うん」
「じゃあ、お昼はサンドウィッチを作って持っていってあげましょう」
母親の提案に、ダンは嬉しくなった。
「ありがとう!パインはウチのパンがお気に入りなんだ。きっと喜ぶよ!」
「でも、エドにはパインの事黙っているんでしょ?」
ちょっとしたいたずら心だったが、それを咎められると悪いことをしている気分になる。
「良いじゃないか。いたずら心も子どもには大切だ。エドがどんな顔したか、父さんにも教えてくれよ」
父親が笑うと、母親が呆れたように顔をしかめた。
「そうじゃないよ。エドのお母さんは心配しているだろうって事よ」
言われて見て、確かにそうだとダンは思った。事はエドだけでは無い。今はエドの家族も事情を知っている。明日エドが、「邪眼の魔女」に何らかの代償を支払わされると。
きっと不安でいるだろうと思うと、ダンは自分の行いを後悔した。
「まあ、いいわ。今日のパン配りはエドの家にはあたしが行ってきます。上手い事奥さんに話しておくわ」
さすが母親である。ここは任せた方が良さそうだ。
「マッシュさんの所はどうする?」
父親がダンに問いかける。
「明日、パインと一緒に事情を説明しに行こうと思ってるんだ。ジンジャーも、すっかり良くなっているだろうから、直接パインと会って、パインの
ダンは自分の考えを話した。
「そう言う事なら、父さんたちも力になるから、父さんにもパインさんを・・・・・・いや、パインちゃんかな?とにかく紹介してくれよ」
翌朝、エドと一緒に、ダンはパインパイン魔具店に行く。
そして、悲壮な覚悟を持って入店したエドは、全ての事情を知ると、目を丸くして、赤くなったり、青くなったりして口をパクパクさせていた。
怒鳴りたいやら、恥ずかしくなるやら、色んな感情が頭を駆け巡っている様子だった。
パインは無反応だが、ダンは腹を抱えて笑った。
エドは、事情を知った自分の母にまで裏切られて、出掛ける時にさんざん脅されて、今生の別れのようなシーンを演出されて送り出されたのだ。
「貴様はダンの友達か」
パインがジロリと睨む。
9歳の少女で、精神的には幼いままだと知っても、エドはまだ慣れそうも無い。
「えっと・・・・・・。その・・・・・・」
真っ直ぐ見つめられて、エドはオドオドしながらダンを見る。
今まで一方的な勘違いでダンに意地悪をしてきた。以前は友達だったが、今になって友達などと言っていいのかと悩んでいるのだ。だから答えられない。
「そうだよ。僕の友達、エドだ」
ダンが代わりに答える。エドは驚いたような、照れたような笑顔を浮かべた。
「そうか。わかった」
パインが淡々と答える。
「それと、僕とパインも友達だよ」
ダンがそう言うと、パインは、初めて驚いたような顔をする。
「友達?私とか?」
「嫌じゃ無ければ」
ダンが屈託無く笑う。
すると、パインが少しうつむいて、小さい声で答える。
「嫌じゃ無い・・・・・・」
その顔は、紛れもなく9歳の少女の笑みだった。
「お、俺もパイン・・・・・・さん?と、友達になりたいです!!」
エドも勇気を出してそう言った。
すると、パインは顔を上げて笑った。
「初めて友達が出来た。それも2人もだ」
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