第4話 ダンとエド 6
「それより、パイン。もう夕方になってしまう。早く薬を作ってよ」
ダンの言葉に、パインは頷いた。
「うむ。夕方にはお前がパンを配るからな。それには間に合わせなければいけない」
「え?」
パインの言葉にダンは絶句しつつ、ようやく理解する。
つまりパインが夕方までに戻れと言ったのは、ジュリアの容体がそれほどまでに悪いと言うことでは無く、ダンがパンを配ってきてくれるかを心配していたようだ。
「ひいっ!」
またしてもエドが小さな悲鳴を上げる。口を押さえて、大きな声が出ないように努力している。
パインの額の目の封印が解けて、赤い光が漏れ出る。
ダンも、これから何が起こるのか、胸がドキドキする。魔法道具としての薬を作るところが見られるのだ。
ギイが、集めてきた素材をパインの顔の高さに上げる。
まずはトリカブト。
光に照らされると、トリカブトは根っこごと、土も付いたままに、ビニョ~~~ンと歪んで伸びながら、パインの額の目に吸い込まれてしまう。
次に川藻。これは瓶ごと伸びて吸い込まれて行く。
シジマレンゲもヤシラカサダケも、同じく吸い込まれて行った。
最後に、ウスキコスズメバチの巣だ。
袋を開けると、まだ巣に残っていたスズメバチも飛び出してきたが、巣と一緒にまとめて額に吸い込まれて行った。
ダンたちはその光景に、声も出せない。
「足りないものは・・・・・・」
パインが店に目を向けると、ギイが伸びて、店にあった派手派手しく塗られた、木の動物らしい人形を取ってくる。
そして、その人形もパインの目に吸い込まれた。
全ての材料を額の目で吸い込むと、一瞬だけ光が止まった。
そして、再び赤い光を放つと、その中に、何かがビヨヨ~~~~ンと渦巻きながら伸びて出てくる。
次第にその物体が形を整えていく。
光の中に出現したのは、透き通った茶色い液体が入った、綺麗な瓶だった。
パインがその瓶を掴んで、一度揺すって確認すると、満足したように頷く。
額の目に封印が戻り、赤い入れ墨のような目に戻る。
驚いて固まっているダンの近くまで降りてきて、パインがダンに薬を手渡した。
「これをスプーン1匙飲ませてやれ。すぐに治る」
ダンは、薬の瓶を、恐る恐る受け取る。瓶の大きさは水筒くらいある。薬もたっぷり入っている。
「1匙だけでいいの?!」
ダンは尋ねた。そうすると、かなりの量の薬が余る事になる。
パインは当然の様に頷く。
「でもそれだと、薬がかなり余っちゃうよ」
返した方が良いのだろうかと思った。しかし、パインは興味なさそうに言い捨てる。
「余ったら捨てれば良い」
その言葉に、ダンは重ねて尋ねる。
「じゃあ、余った薬は他の人にあげてもいいかな?」
この薬なら、普通に売っている薬よりも遥かに確実に治るはずだ。だとすれば、エドの妹ジンジャーに飲ませてあげることも出来る。他にも薬が手に入らなくて困っているヘルネ市の人たちにもあげられる。
「好きにしろ。ただし、この薬の使用期限は100年しか無い。それ以上は効果は半減になっていく」
「100年!!??」
長寿種では無い人間にとって、100年などとんでもなく先の話だ。あって無いような使用期限である。
「わかった!ありがとう、パイン!!」
ダンは礼を言う。
「それよりも、お前。分かっているだろうな!?」
パインが重ねて尋ねる。
「もちろん!明日、エドと一緒に朝来るから!」
ダンの言葉に、パインは満足そうに頷いた。客観的に見れば、邪悪な笑みを浮かべて、獲物が掛かった事を喜んでいるように見えただろう。
ダンは、エドの腕を引いて抱え起こすと、パインの店の出口に向かった。
「パンも持ってこいよ」
ダンたちの背中に、パインが声を掛ける。
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