私はエリ
匿名のメールが来るのはよくあること。送り名は英国人名だったり中国人名だったりもするけれど、偽名よ。全部探偵さんからなの。
文面は全て数字、つまり暗号よ。
今は20分もあればできるようになったけど、初めの頃は何日もかかったわ。でも楽しい"訓練"だったわ。
探偵さんと最後に会ったのはいつだったかな。たしか中学生の頃よ。
とても優しいの。何でも教えてくれたし、本当に父親代わりよ。厳しいことも言ってくれたし、言葉には愛が溢れていたわ。お母さんが言ってたの。探偵さんはお父さんの一番親しかった人で、一番頼りにできる人よって。
よく分からないけど、お母さんが嘘を吐いているようには思えないし、一緒にいて温かいし、けっこうカッコイイし、心から信頼してるわ。
でも、今目の前にいて熱いお茶を啜ってる探偵さんは、いつものことなんだけどやっぱり、何を考えているのか分からない。
お父さんがいるってこんな感じなのかなって、たまに考えちゃうわ。友達の話じゃ、お父さんはいないほうが良いみたいになってるけど、私には分からないな。
どんな任務なのか教えてくれないのはいいけど、時間が経てば経つほど知りたくなっちゃうのよね。
「なぁ、いつまでなん?」
探偵さんは目を瞑ったまま、音がしないように湯呑みをテーブルに置いた。
「焦るのはよくないんだ」
どうしてか分からないけど、探偵さんは震えているように見えた。寒いのか、怯えているのか、焦っているのか。
「明日は舞鶴港に行こう」
探偵さんが何を言わないようにしているのかは分からないわ。でも、それを訊くのは野暮なのよ。訊けばきっとウインクするわ、右目をつむるの、それは野暮だって言いながらね。
やっと動くのね。待ちくたびれたわ。
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