第2話
「僕の事わかります?」
「人喰いバケモノクソ野郎」
「ふふ、いつものテツオさんですね」
そう言うヤツの傍には、丁寧にウサギの形に切ったリンゴが乗った皿があった。それに、飲み物やレトルトの白がゆのパックが入ったビニル袋も置いてある。えっ、これコイツが……?
「なんだよ、わざわざこんなことしなくても……」
「いやあ、一回ヒトの看病ってやってみたかったんですよね!」
……あ、ごっこ遊びか。それなら納得だ。
「はい、あーん」
「やめろや、気持ち悪りぃ」
「まあ良いから良いから」
「ヒエッ」
有無を言わさぬ笑顔に、背筋が凍る思いがした。
俺はおとなしくリンゴを食わせてもらいながら、ヤツに尋ねた。
「お前、なんでここにいるの?」
「テツオさん職場で倒れちゃったんですよ。それで、たまたまテツオさんの家を知っていた僕がこうして運んであげたと言うわけです」
「待て、テメエなんで俺の家知ってんだよ」
「え、嫌だなあ。先日も一緒に飲んだ帰りに家まで送ってあげたことあったでしょう?」
「俺、そんな命知らずなことした……?」
「そんな、人を狼みたいに言わなくても」
「少なくとも人間ではねえよ」
しかし、確かに言われてみれば、酒のせいで気が大きくなってコイツを家にあげたことがあったような……いや、冷静になると、なんでそんな危ねえマネしたんだ、俺。
「具合が悪い時はちゃんと休んでください。あ、おかゆも温めますか?」
「…………頼むわ」
俺がメシを食い終えると、ヤツは俺に布団をかけ、上からとんとんと優しく叩いてくる。赤子の寝かしつけか。ものすごく恥ずかしいことをされている気がするのだが……正直、具合が悪いときに誰かが傍にいてくれるのは、安心するもんだな、と思った。絶対コイツには言ってやんねえけど。
「それにしても珍しいですね。体調不良なんて」
「馬鹿は風邪ひかねえって言いてえのか」
「テツオさんを馬鹿だと思ったことはないですよ。職場で倒れるなんて、よっぽど今回は具合が悪いんだなと思って」
「あー、いや、これは……」
……待てよ。もしかすると、バケモノのコイツなら、俺のおかしな病気について何かわかることがあるんじゃねえか。3日で治ると言われたものの、こんな変な病気の正体がわからないのは気味が悪い。
「お前さ、」
口から花が出てくる病気って聞いたことある? と言おうとしたところで、急に、ヤツが小さく「ウッ」と呻いて口を覆った。
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