お茶会への招待状 フェイブル視点

邸宅に戻り、夕食を終えたタイミングで父が帰宅した。


「おかえりなさいお父様。時間がある時にお話ししたいことがあるの」

「ただいまフェイ。私もちょうど話したい事があったんだ。すぐに夕食を取るからその後書斎で話そう」

「ありがとうお父様。後で伺います」


父が紅蓮の魔女について知っているとは思わない。士官学校での噂なのだから。ショモナー家についてもあまり期待はできない。

父が知っているとしたら……クロウに新たな婚約話が持ち上がっているかという情報だろう。


そもそも婚約破棄が必要な理由が見当たらないのだ。今とは別の婚約が必要になった為に破棄がなされたと考えるのが妥当だろう。私が冷静になるまでクロウに新たな婚約の話があることを父は黙って置いてくれたに違いない。

そして、その情報を私が必要としないならば、現実から目を逸らしておきたいのならば、そうできるよう環境を整えておいてくれたのだろう。

だからこそ先程父が私に言った「話したいこと」の内容は、私がこれから示す覚悟で決まってしまう。

私は……真実から逃げない。クロウの力になるにはそれしかないのだから。


「お父様、失礼します」

「フェイ。どうやらもう大丈夫なようだね」

「今回の事についてお父様が知っていることを全て知りたいの」

「知ってどうするんだい?」

「クロウも私も婚約破棄は望んでいなかった。でもそれはなされてしまった。私は今回のことは王族も含めた何か大きな力が加わった為だと考えています」

「ほう……それならば深入りしない方が良いのじゃないか」


父は顎に手を当て、肯定も否定もせずに私の言を促した。つまり父にも思い当たる何かがあるということであり、そしてそのことは家族に隠し事をしない父であっても口にだすには憚りがあるものということだ。


「私が王宮の職を辞して領に戻れば深入りしないでいられるかもしれません。でも、クロウは違うでしょ?否応なしに巻き込まれている。私はクロウの傍にいれなくても、例え何もできなくても、クロウの為に出来るかもしれない事を諦めたくないの」


手を震えるほど強く握りしめ、父の目を正面から見つめる。

父は苦悩した顔で私の目を見つめ返すと一度ゆっくりと目を閉じた。

瞼を開くといつもの愛情深い優しい目が現れた。


「フェイ。自分の身を一番に考えると約束してくれるかい?」

「……約束しますお父様。私の身が危険ということになればお父様達も巻き込まれかねないわ。そんな事は決して致しません」

「どんな理由でもフェイが自分を危険に晒さないなら良しとするか……さて、ただ私も知っていることは多くない。伝えるべきか判断つかないものもある。とりあえず今私が伝えれる範囲で構わないかな?」

「ありがとうございます。お父様」


お父様が判断つかないという情報はかなり重要なものに違いない。今話して貰えないのは、その情報を手にするにはまだ私自身が足りていないということなのだろう。

そう考えていると発注書が目の前に置かれた。


「これの発注をクロウくんから頼まれた。私は受けようと思っている」


差し出された発注書を見る。品がない程に煌びやかな首飾りだ。どの石も主張が激しく目立つようにデザインされ一体感や落ち着きに欠ける……ただその煌びやかさが人目を引くことは間違いないだろう。

新しい婚約のための装飾品であることは間違いない。クロウはあえてこれを父に発注したのだ。


全てを焦がすような黒黒とした赤に囲まれ逃げ場を失った黄金色の石が中心にデザインされている。


「イエローアパタイト……」

「ああ、そしてもう一枚あるんだ」

「これは……」


もう一枚の発注書を目にした時、ノックの音が響いた。


「大変申し訳ございません。お嬢様宛に侯爵家からの招待状が届きました。従者の方が今日中に返答を持ち帰るよう言われていると、お引き取り願えずお待ちになっております」

「お父様、申し訳ありません。少しだけ席を外します。すぐにまた伺わせてください」

「ああ、すぐに対応した方が良いだろう」


部屋に戻ると招待状にサッと目を通し、承諾の返事をしたためジーンに渡すとすぐに書斎へと戻った。


「お父様、先程の二枚目の発注書ですが、クロウには用意すべき者が用意する為不要とお断りください。一枚目の発注書については最高級のイエローアパタイトを使用するようにお願いします。そして、申し訳ないのですが、私が発注する首飾りを大至急用意頂けるでしょうか、先程了承した五日後のお茶会で必要になります」


そう言ってクロウの二枚目の発注書に手を加え、依頼人を変更した物を父に渡した。


「大事な娘の願いを叶えないはずがないだろう?発注書も問題ない。これならすぐに用意できるだろう」

「ありがとうお父様」

「フェイ、何かあれば必ずお前に伝える。だからフェイも必ず連絡を怠らないように。今日はもう部屋に戻りなさい」

「はい、お父様。おやすみなさいませ」

「おやすみフェイ」


自室に戻ると改めて招待状に目を通した。

定型的な招待の文章に続く、非礼な一文と署名。


=当日は不要となった首飾りをお持ち頂くよう=ノミンシナ・ハオスワタ

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