幼なじみペア フェイブル視点
今日からは見習い同士のペアで仕事にあたる。そのうえで監督者が複数のペアに対して一人付くことになり、初日に仕事を教えてくれた側仕えの先輩方は通常業務に戻る。
ここで決定されるペアは正規採用後も余程のことがないと解消されない。解消されるとすれば昇進や退職でペアが困難になった場合だけだ。
ただし、昇進できる役職は側仕えも家庭教師も筆頭、筆頭補佐、教育長、副教育長とそれぞれ二つしかなく。どちらも就任後十五年以上変化はない。
また、他の仕事とは異なり女性は出産後も希望者は必ず仕事に復職できるため退職もほとんどない。仕事に戻る期間もはやく、側仕えはそのまま乳母として職務につくこともある。家庭教師もほとんど同じような待遇となる。
つまり、王宮に仕える者は一度任に着くと仕事を離れる期間がほとんど無い為、退職しない限りペアを解消する必要がないのだ。
私のペアは幼なじみで学院でも同級生のヨークだった。
「フェイブルちゃん!今日からよろしくね!気が置けない相手がペアで嬉しいよ~」
「私も!ヨークがペアなんて心強いわ。でもお互いダメなところは教え合いましょうね」
「もちろんだよ!そうじゃなきゃ俺がクロウ……する羽目になるからね!!フェイブルちゃんが優秀な程楽できるしね~」
「……じゃあ、はやく昇進してペア解消できるように頑張るわ」
「え!!いや、頑張らないで!!フェイブルちゃんお願い!」
「楽しそうですわね?仲が良くてよろしいこと」
突然の優しく楽しげな声に私とヨークは固まった。
「「マウスフィールド副教育長!!」」
「ふふふ、私が二人の監督役になります。二人には大変期待していますよ。連携も問題なさそうですし、何より体力がありそうですから」
「た、体力ですか?」
「ええ、一番必要です。あとは諦めない心かしら……私には難しかったので。本当に期待していますよ。頑張ってくださいね」
「「……はい、精一杯勤めさせて頂きます」」
慈悲深い笑顔の圧力と副教育長でも難しいという言葉に大混乱しながらヨークと言葉を返した。
「……俺たちなにさせられるのかな」
「側仕えと家庭教師の仕事には間違いない……でしょ?」
「そうだと思えないんだけど……」
「だって、それ以外何があるの?」
「……だよね」
「……そうよ」
不吉な予感を感じながら仕事にあたったが、特に問題は起こらず昼休憩となった。
ヨークとの仕事は本当にやりやすい。自然に仕事分担が出来てしまうのだ。お互いにずっと王宮での仕事を目指して来たからだろう。
以前、どちらがより主の求める行動を取れるかでクロウを巻き込んだことがあった。
「俺のお茶完璧だと思わない?」
「私のお茶も汗をかいた今のクロウには最適なはずよ」
「疲れた時ほど慣れ親しんでる茶葉だよ~」
「それはリラックスしたい時よ。今は少し塩味と清涼感があるお茶よ」
「「クロウ!どっちがいい!?」」
「俺はいつだってフェイのお茶がいいよ」
「「……人選ミスだわ(な)」」
それ以降はヨークとは張り合うのではなく、どうしたらより良くなるかを一緒に考えるようになった。私とヨークでもてなす月一のご主人様デーをクロウは本当に楽しみにしていて、極たまにカエラがその役に付くと不機嫌そうにしてた。
そうして昔のことを思い出していると、ヨークに話かけられた。
「……心配してたんだ。でもやっぱりフェイブルちゃんは強いね」
「……信じてるから。傍にいられなくても」
「そっか……俺にできることあったら言ってね!……二人が笑ってるのが大好きなんだ」
「……ありがとうヨーク」
「そ、そうだフェイブルちゃんは紅蓮の魔女って知ってる?」
「クロウが調べてみるって話してくれたことはあるけど詳しくは知らないわ。災害か何かのたとえなの?」
「確かに災害……あ、いや良くは知らないんだけど、近寄らない方がよいものには間違いないみたいなんだ。ショモナー家と紅蓮の魔女は繋がりがあるみたいだから気を付けてって言いたくて」
「魔女は人なの?詳しくは教えてくれないの?ヨーク」
「俺は実際に見てないし、勝手な推測でしかないから、今は話せないかな。でもショモナー家がフェイブルちゃんに近寄ってるみたいだから、それが心配で」
「わかったわ。ありがとうヨーク」
午後の仕事も大きな問題はなく、笑顔のマウスフィールド副教育長に業務報告を終え馬車に乗り家路に着く。
ヨークの話からすると紅蓮の魔女は誰か一定の人物を指すのだろう。
ショモナー家に繋がりがあり、そしておそらくは今回の婚約破棄にも何か関わっている。関わっていたとしても、王命の婚約の破棄となると普通は個人でどうにかできる問題ではない。簡単に覆せてしまう王命など、それこそ王族の威信に関わるのだから。
だとしたら、紅蓮の魔女と王族の間に何かあるのだろうか……
クロウが巻き込まれたのは、私のために調べて近付き過ぎてしまったから?
もし私のせいなら……
私は王宮家庭教師を目指しているから、王族と関わらない訳にはいかない。そうなればいつかは紅蓮の魔女とも関わったかもしれない。
でもクロウは本来なら関わる必要などなかったのではないだろうか。
お茶会の主は間違いなく紅蓮の魔女だろう。そして目的は私にあるはずだ。
対峙する前に少しでも情報を集めなくては。
……お父様は何かご存知だろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます