憂鬱であたたかな朝 フェイブル視点

眠りが浅くなっては目覚めるを繰り返すうちに朝を迎え、いつもより少しはやく寝台をでた。

鏡で見る自分の顔はやはり疲労の色が濃い。


「おはようございますお嬢様。少しはやいですが、ご用意いたしますね」

「おはようジーン。よろしくお願い」


普段よりゆったりとジーンが化粧を施す。顔色がよく見えるよう通常とは異なる化粧をしてくれていることもあるが、私がきちんと気持ちを立て直せるように時間を取ってくれているのだろう。


「ありがとうジーン」


化粧を終えると、鏡にはいつもと変わらない顔をした自分が居た。



朝食の席に向かいドアを開けると、急に体を温かく包まれた。


「お母様……」

「少しだけこのままにさせて貰えるかしら、フェイブル」

「……少しだけにしてくださいませ。せっかくのジーンの化粧をやり直したくはないですから」

「……ふふ。そうね、では久しぶりに家族で朝食を頂きましょう」

「おはよう。フェイブル」

「お父様、おはようございます」


ゆっくりと瞬きし、温かさに溢れてきた涙を押し込むと両親の待つ席に着く。


「今度の休日には三人で買い物にでも行こう。フェイブルも欲しい物があるだろう?」

「そんなこと言ってお父様が欲しい物があるのでしょ?」

「まあまあフェイブル。お父様が領地をでる機会は少ないのですから、お付き合いしてあげるのも妻と娘の勤めよ」

「お母様はお父様とデートを楽しみたいのでしょ?私はお邪魔じゃないのかしら?」

「二人だけのデートは心配しなくても楽しんでるわ。娘と出かける楽しみをくれないかしら?ね、貴方」

「ああ、是非に。そして良ければ……私の買い物にも付き合って欲しい。もちろんフェイブルの行きたいところが優先だよ」

「私は、今は欲しい物は……そうだわ!ミンティナへのお土産を探したいわ!お父様が領地に戻る時までに用意しておかなくちゃ」

「用意しないとあの子は拗ねるだろうね」

「拗ねると厄介ですからね……」


妹へのお土産を買いに行く予定を話したりしながら領地にいる時のように穏やかな時間を過ごした。


「お父様、お母様、そろそろ王宮に向かわなくては」

「いってらっしゃい。フェイ」

「また夕食を一緒にとろう」

「はい。行ってまいります」


馬車に乗り、両親の愛情により温かくなった心で思う。私はまだ何も失ってない。

クロウの愛もまだ今は変わらずあるのだから。

失うとしたらこれからだろう……

いつか失う日が来ることを嘆くよりは失わずにすむ方法を探す方が私には向いている。


クロウの傍にいる為には努力が必要だった。

今までは自身の向上のみに向けられていたが、それだけでは足りなかったのだ。

私はクロウを苦しめる原因を見つけて取り除きたい。その為には今以上に慎重に動かねばならない、恐らく王族案件に違いないのだから……

そしてその結果クロウの愛を失う日を迎えたとしても、その時は受け入れることができるだろう。

その日が来たということは、私にはクロウの横に立つ資格がなかったということなのだから。


しかし今は受け入れられない。クロウが求めてもないことを、私が何も知らず何もできていないこの状況を決して受け入れることはできない。

いつの間にか馬車は目的地に着こうとしていた。

王宮に着き馬車を降りるとアイリーンが昨日と同じ笑顔で待っていた。


「ごきげんよう。フェイブル」

「ごきげんよう。アイリーン」

「朝からごめんなさい。お願いがあって待っていましたの」

「……お願いですか?」

「私、とある高貴な方からお茶会のお誘いを頂いたのですが、ご友人も連れていらして、と言われてしまったの。フェイブル一緒に行ってくれないかしら?」

「私達、まだ出会ったばかりですし、他のご友人のほうがよろしいのではなくて?」

「実は私の友人は年下ばかりですの……デビュタントを迎えていないものをお茶会に連れていくわけにはいかないでしょう?だからフェイブルしかいないの」

「高貴な方とい……」

「まあ大変!私、仕事前に行かなくてはならない場所があるの。招待状がすぐに届くと思うから詳しくはご覧になって。ありがとうフェイブル。ではまたね!」


こちらの承諾は得ないまま、アイリーンは去ってしまった。

高貴な方……。同じ伯爵家のアイリーンが言う高貴な方からの招待状ならばそれは召集令状と変わらない。このような強引な手法を取るということは、アイリーンかもしくはお茶会の主に私を呼ぶ目的があるのだろう。

アイリーンの笑顔を思い出すと、自分にとって喜ばしいことであるはずがない。

ひょっとしてクロウに関係しているのだろうか……今はその接点すら見えないが……


今すべきことは王宮の勤めだ。

ついクロウと結びつけ沈み込む思考に頭を振る。

気持ちを切り替えるのよ……そう自分に言いながら、側仕えの控えの間に向かった。

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