精霊に愛された青年2
「……私は城に戻る。戻らないといけないの」
「城?」
「ごめんなさい。ヤルミル。私はチェリンダ王国の王女なの。浚われそうになったところを逃げ出して、この森に逃げてきたの。私が城に戻らないと大変なことになるかもしれない」
『ヤルミル。城っていうのはこの国の一番偉い人、王様が住んでる場所だよ。王女っていうのはその王様の子供のことなんだ』
ヤルミルに対して水の精霊が説明する。
「それなら、僕がお城まで送ってあげるよ。精霊たちに頼めば」
『ボクはいやだよ』
「風の精霊?」
『他の精霊に頼んで』
珍しく風の精霊がそう言って声が聞こえなくなった。
「どうしたの?」
「ううん。大丈夫。僕が送っていくから」
「ありがとう」
ウルシュアは微笑んで、ヤルミルは彼女の微笑みを見るだけで幸せな気持ちなった。
結局精霊たちは力を貸してくれず、精気を代価にすることも考えたが、ウルシュアとゆっくり森を歩くのも悪くないと、ヤルミルは徒歩で森を出ることにした。
森は精霊たちによって安全な場所に保たれていた。
少年と少女はまるで散歩をしているかのように軽い足取りで森を進む。
そのうち深い森を出て、光が差し込んでくる。
そうして、とうとう森を抜けてしまった。
「殿下!」
馬が嘶く声、数人の男たちが馬を降りて駆けてきた。
大人の人を見るのは初めてヤルミルは体がすくみそうになったが、勇気を出してその前に立つ。
「何者だ?!」
ヤルミルの外見は白髪に銀色の瞳、少年のようであるが、人とは違う色彩。
先頭の男はすぐに剣を抜いた。
「マクシム!」
ウルシュアが声を上げ、同時にヤルミルの腕を引く。
「引きなさい。この子は私を助けてくれたのです。命の恩人に無礼な真似は許しません」
「殿下!」
マクシムは一度きつくウルシュアを呼ぶ。しかし、後方からかけてきた白髭を携えた男が彼を宥めた。
「マクシム。剣を鞘に戻しなさい。殿下、ご無事でなりよりです。さあ、城に戻りましょう」
男はヤルミルの姿を一瞬だけ視界にいれたが、すぐに王女に視線を戻す。マクシムもやっと剣を鞘にもどした。
「ヤルミル。あなたも城に来ない?」
「殿下!」
「殿下。見も知らぬ者を城に上げるのは許されませぬぞ」
マクシムが不満の声、その後男もウルシュアを諭す。
「見も知らない?ヤルミルは私を助けてくれた恩人よ。その恩人にはお礼をすべきでしょう?」
「お礼は、こちらで」
男は懐から袋を出し、そのままヤルミルに差し出した。
「これは?」
「褒美だ。殿下を助けてくれた」
「……僕は何もいりません。僕は助けたかったから助けただけです」
「サイファー!そんな風に礼を渡すなんて失礼だわ」
「殿下。時間をとらせないでください。城に戻り、陛下に無事を報告しなければ」
「サイファー!」
ヤルミルに強引に袋を渡し、サイファーは騒ぐウルシュアを連れて、馬が繋がれている場所へ戻る。
「ヤルミル。ごめんなさい。助けてもらったのに。本当に!」
必死に顔だけこちらに向けてウルシュアは叫び、ヤルミルはなんだか悲しくなった。
渡された袋をやけに重く感じて、気分はますます落ち込んだ。
「ヤルミル。落ち着いたら、お礼に戻ってくるから。待ってて!」
「ウルシュア……」
「忘れたほうがいい。この金貨で好きなものを買って」
同情を帯びた視線を目の前の男から向けられた。
マクシムと呼ばれていたことを思い出して、ヤルミルは彼をよく見る。
彼は大人というよりもまだ子供のような顔立ちをしていた。
「こんなものはいらない!」
ヤルミルは袋をマクシムに付き返す。
「おい!」
彼は驚いて返そうとするが、ヤルミルは姿を消していた。
「ありがとう。風の精霊」
『……冷たくしてごめん』
「いいよ。こうして来てくれたんだから」
風の精霊が逃げようかと言ってくれて、ヤルミルは彼女の言葉にのって空に逃げた。
上空から見下ろすと自身を探すマクシムの姿。兵士たちに囲まれ諭されるウルシュアの姿が見えた。
「帰ろう」
『うん』
ヤルミルの声に答え、風は彼を森の家へ送った。
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