第41話 めでたし、めでたし。


 一年後。


 赤色の髪を結い上げ、幾十ものレースを編み込んだドレスを纏って、スラヴィナは王の面前に立っていた。その隣には同じく純白の正装を身に着けたケンネルが立っている。


 ラダはアレシュの隣でその光景を眺めていた。

 王女の結婚の儀式であるのに、貴族の令嬢たちの視線はラダに痛いほど向けられている。

 覚悟していたのだが、流石に答えるもので、気が付いたアレシュがラダの手を握りしめた。それがまた令嬢たちの批判を買ったようで、視線に悪意が漲る。


『全部、吹き飛ばしたい』

『氷で転ばせようか』

『ドレス燃やしたい』

『目を潰してやりましょうかね』

『影移動でどこかへ捨ててもいいのじゃがな』


 視線よりも精霊たちの声が物騒で、慌てて首を横に振る。

 アレシュが再びそれに気が付いて苦笑した。その代わりに、敵意を向けてきた令嬢に冷たい視線を投げかけた。

 この一年、アレシュに令嬢からの誘いは途切れることはなかった。以前は曖昧に返していたのだが、彼は婚約者がいることを示し断ってきた。それでもラダが平民であることを理由に諦めない者が多かった。

 そうして、この日。

 アレシュはラダを披露することを決め、スラヴィナとケンネルの結婚の儀式に連れてきた。ドレスは新調して、自分の婚約者であることを主張するため、紫色の生地を選んだ。

 この一年でラダは十六歳になり、もう少女ではなく立派な娘になっていた。身長も幾分伸び、体つきも変化している。精霊たちの監視は続いており、少しでも一線を越えようとすると風に吹き飛ばされたり、アレシュは大変な思いをしていた。


「この時を持って、ケンネル・ベルカを我が娘であり次期国王の夫として、王の名をもって認める」


 チェリンダ王より宣言がなされ、ケンネルは正式にスラヴィナの夫となった。


 

 それから二年後、スラヴィナは王位譲位により、チェリンダ女王となる。同時にケンネルは王配としてその傍につく。原則王配には何も権限はないが、彼は女王の相談役として常にその傍にいた。


『ボク、張り切るぞ!』

『オレッチは、うーん。厨房でもいくか』

『オイラは……』

『水は私に協力して虹を作るのです!』

『ワシはすることがないのう。夜の演出でもするかのう』

『爺は余計なことを言わないでください』


 女王スラヴィナは、貴族と平民が結婚出来るように結婚の自由を法で保証した。未だにやっかみなどもあり、数的には圧倒的に少ないが貴族と平民間で結婚する者も出てきている。

 最初に名乗りをあげたのは、イオラとホンザで、イオラは両親を説き伏せて結婚を認めさせたようだ。

 今日の披露宴にも二人は夫婦で参加する予定だ。

 アレシュとラダは一度、王の下で結婚の儀式を行い、今日はラダの店で披露宴を行うことになっている。結婚の儀式にはベルカ家ゆかりの貴族、ラダの両親のみが参加しており、今日はラダの店のお客さんを招待して盛大に行う予定だ。裏庭にもテーブルが並べられ、ラダの父が忙しく働いている。

 新婦の父なのだが、料理はやはり自分自身が取り仕切りたいと、本人が張り切って準備をしていた。

 精霊たちも風で花びらを飛ばす、虹を作って幻想的な雰囲気を作り出すなど、なぜか協力し合っている。


「精霊たちが変な事しようとしている」

「どんなことなんだ?」

「花を飛ばしたり、虹を作ったりするって」

「いいことじゃないか。とても綺麗だ」


 ラダとアレシュは臨時の控室になった彼女の二階の部屋から外の様子を見ていた。

 

「ラダ」

「アレシュ様」


 アレシュはラダの顔にかかったベールを持ち上げ、唇を重ねる。結婚の儀を合わせて、まだ二回目のキスだ。


「ヤルミルは今幸せだと思う?」

「勿論です。ウルシュア様は?」

「勿論だ」


 二人は前世で叶わなかったお互いの想いを噛みしめ、微笑み合う。


「前世は俺たちの一部であるけど、昔のことだ。ラダ。これから一緒に幸せになろう」

「はい」


 いくつかの困難を経て「報われない恋」の真実を知り、精霊に愛された青年の生まれ変わりの少女は、再び恋に落ちた。


 少女は恋を実らせ、王女の生まれ変わりの騎士と末永く幸せに暮らしました。 


 めでたし、めでたし。

 

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