第7章 メサイア

7ー①

─富士秘密研究所


「はッッ!??」


 英雄は目を覚ました。辺り一面は白い天井と壁。そして、


「おじ様!」

「おじさん!」

「親父殿!」


 自分を見下ろすユリーナ、シア、 えつ子がいる。 元の時間軸に戻ったのかと、 英雄の脳は状況を処理し始める。


「ああ、良かったですわ……」

「おじさん、あれから3か月も眠ってたんだよ!?」

「もう二度と起きないのではと心配したでござる!」

「3ヶ月!?たったの!?」


 エゲツニウム炉に触れ、別の時間軸に魂を飛ばされてから、英雄の体は深い眠りに就いていた。その間は帝国の襲撃も無く、シア達は秘密研究所にてリックらとともに幻舞の開発と、英雄の容態を看る日々が3ヶ月続いていた。彼女らにとっては長い期間も、英雄が 別の時間軸で過ごした15年に比べれば短すぎるというものだ。


「たったの…って、ほぼ死にかけてたのに呑気だね」


 シアが言う「ほぼ死にかけていた」と言うのが英雄には気になった。


「おじ様の体、眠っている間は生物としての活動を続けておりましたが、霊体アストラルが感じられませんでしたの」


「あすとらる……?」


 霊や魂といったものの定義や概念は、ユニヴァースによって異なるがユリーナの故郷アラパイムではアストラルと呼ばれ、彼女のような魔法使いはアストラルから発するエネルギーを『魔力』として行使する。故に他者のそれを知覚する事も可能なのだ。


「と、まぁ地球ではレイコンとかコンパクなどと呼ばれるものがアストラルですわ」


「やはり俺の魂は俺の体を離れていたか……」


「どう言う意味でござるか?」


 頭上にハテナマークを浮かべるえつ子たちに、英雄は目が覚めるまでに体験した15年間について説明した。


「……夢じゃないの?それ」


「でも、体からアストラルが無くなっていた事の説明は付きます」


「その証拠に、ほれ」


 英雄は右手に握り込んでいたものを見せる。


「それはセリカ殿の髪留め!親父殿をここに運んだ時は持ってなかったでござる!」


 それは未来で芹佳からもらい、そして死ぬ間際、彼女の髪に付けたはずのネクタイピンだった。


「この金属みたいなのは、エゲツニウムがエネルギーを失って枯渇した結晶だ。消える前のセリカが俺のポケットに忍ばせていたものがエゲツニウム炉からエネルギーを吸って力を取り戻した。その影響で俺の魂は次元を超えたんだろう」


「じゃあ、それは小型のタイムマシンって事?」


「おそらくナナがエゲツナー帝国から地球へ来た時にそれを使ったんだろう。そして未来で芹佳と一緒にネクタイピンに加工して俺に渡し、更に俺の死後は芹佳を経てこの時代に来た…ってところだな」


 エゲツニウムの人知を超えた力と家族の絆が起こした奇跡にシア達は驚くしかなかった。


「……ユリーナ、魔法で他人の魂…アストラルに干渉する事はできるか?」


「理論上は可能ですわ。試した事はありませんが」


「この結晶は俺に芹佳の記憶を見せた……未来での来満家の記憶が詰まっている。それをナナの魂に渡せば意識を取り戻すかもしれない」


「それは他人の体にアストラルだけを分離して入り込むという事ですの!?本来の肉体でない器に入る事で起こる拒絶反応やアストラル同士の接触による衝撃は並大抵の人間には耐えられないと聞きますわ!」


「ならばその役目、拙者が請けるでござる!獣人の魂は人間の魂より頑丈でござろうからな」


「ボクも手伝うよ。ナナさんの体に仕掛けられたあの機械が彼女の目覚めを邪魔してるんだから、ボクの力で無力化するんだ」


「よし、早速ナナの所へ行こう」


 英雄はベッドから立ち上がると、部屋の出口へ向かう。


「おじさん、パジャマのままだとカッコつかないよ」


「……ちょっと先に行っててくれ」


 英雄はシア達がいなくなると制服に着替え始めた。

 

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