6ー⑧

 ―富士秘密研究所


「……本当に、その格好で行くの?」


 菜奈は芹佳に問う。


「うん。この制服、パパに見せたかったけぇ……」


 芹佳が着ているのは、白いカッターシャツに灰色のベスト、黒いプリーツスカートという制服姿だ。本来なら、彼女は来月から高校に進学する予定だった。しかし、エゲツナー帝国の襲来と、父の死。それが重なり、高校へ通う事も、父に制服姿を見せる事も叶わぬ事となる。


「ねえ芹佳」


「なに?ママ」


 芹佳に次の質問をする母の目は哀しみを纏っている。


「ごめんなさい……あなたにこの役を任せてしまって」


 悲哀と罪悪感に苛まれた母に対し、芹佳は


「これはウチにしか出来ん事なんでしょ?そいやったらウチがやるしかないけぇ。それに……」


 セリカは目の前にある、高さ15メートル程の黒い鋼鉄の巨人を見上げる。


「パパが遺して、ママが造ったこの“幻舞”が一緒やけん!絶対大丈夫!!」


 セリカは目一杯笑ってみせた。


『ナナさん、芹佳ちゃん、そろそろ時間です』


 通信機から流れる男の声。


「うん。ありがとう、リックさん」


 管制室のリックに返答すると、菜奈は管制室へ、芹佳はリフトで黒い巨人の胸元へ、それぞれ向かう。


「幻舞、乗るよ」


 芹佳が幻舞に言うと、幻舞は胸のコクピットハッチを開く。芹佳はそこへ飛び込むと、前後一席ずつある操縦席の後方側に座る。


『芹佳』


 幻舞のコクピット内に母の声が響く。


『もう、後戻りは出来ないわ。……行きなさい、あなたはこれから四つの世界を巡り、三人のあなた、三機のロボットを連れ、過去の地球でパパに会いなさい。そして、エゲツナー帝国を止めるのよ!』


 母の声は泣いていた。


「うん…行ってきます……」


 芹佳の流した涙の量は母のそれと同じかそれ以上だろう。

 通信を終え、セリカは手元のタッチパネルを事前に言われた通り操る。


「エゲツニウム・ドライブ、起動!!」


 芹佳の声に応え、幻舞のモニターに、【了解】の表示が現れる。すると、穴の空いた天井の更に、遙か上、夜空に漆黒の穴が開く。


「行こう、幻舞!」


 幻舞は背部と足裏のスラスターから紫色の粒子を吹き出し、飛翔する。空高く舞い上がり、空に穿たれた穴へ飛び込むと同時に穴は閉じ、空は元に戻る。


「……必ず帰ってくるのよ、芹佳セリカ


 菜奈は夜空を見上げ、呟いた。


「血は争えねえな。やっぱりヒデオの娘だよ。あの子は」


「クリスさん!タマさんに縁さんも?」


 菜奈とリックの後ろに、いつの間にか立っていたのは英雄の盟友達だった。


「みんな、最初から芹佳ちゃんに会っていけばいいじゃないですか」


「会うと泣いちゃうから隠れてたんだヨ。クリスもユカリもワタシもね」

「英雄の奴は死んじまったが、地球俺たちにはまだ芹佳ちゃんと幻舞が残ってるあの子と過去の英雄が絶対になんとかしてくれるはずだ!」

 英雄の妻と、友たちは既に次元穴の閉じた空を見上げる。そして、芹佳の無事と地球の未来を祈った。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る