6ー③

 ホアホーマの身柄が連行されたすぐ後に、マウヤケソからエゲツニウム炉を摘出する作業が進められる。機体側のロックは全てシアが解除し、遠野が丁型で慎重にそれを引き抜いた。


「と、取り出せましたっ!」


「じゃあ、今度はそれを防爆シートに乗せてください」


 リックの指示で地面に広げられた巨大なシートの上にエゲツニウム炉を置く丁型。


「シートで包むだけでは心許ないですね……ユリーナさん」


「はい」


 ユリーナは魔力を込めた両掌から吹雪を放つ。すると、エゲツニウム炉はたちまち氷漬けとなった。


「魔法によって精製された氷は、よほどの事がなければ溶けないとのことですので、万が一にでも爆発した際に被害を最小限に食い止められるはずです」


「いや、俺たちが苦労して千載一遇のチャンスをもぎ取ったんだ。万が一を起こしてもらっちゃ困るぜ」


 と、言いながら英雄は凍り付いたエゲツニウム炉へ歩いてゆく。


「親父殿、危ないでござるよ」


 何故だろう。自分でも解らぬまま英雄は気付けばエゲツニウム炉へと近づいていた。そして、吸い込まれるかの様に氷に包まれたそれに触れる。


 英雄の脳内に映像が流れ込む……初めてセリカに会い手を握ったとき、彼女の記憶が映し出された様に。


(これを見せているのは……エゲツニウムか!?俺を……どうする気だ……)


 やがて、英雄の意識は深い闇へと落ちるように消えていった。




─国防軍米子基地


 ホアホーマの身柄を富士研究所に移す前に、彼の身体検査や軽い尋問を米子基地にて行う事になった。


「座りなさい」


 手錠に繋がれた捕縄を持つ藤原に促され、ホアホーマは簡素な丸椅子へと腰掛ける。饒舌だった戦闘中と異なり、捕まってからは一言も言葉を発していない。


「失礼する」


 取調室へ入ってきたのは祥子だった。


「はじめまして、ホア・ホーマ将軍。 私は日本国防海軍空母香山の艦長、瀬田祥子大佐です」


「……貴官がヒデオ・クルミ達の上官か。女が男の上に立っているとは驚いたな」


「エゲツナー帝国は男尊女卑の社会なのか?科学技術は我々の遥か先を行くのに、思想は300年遅れているようだな」


 祥子は自らも対面に腰掛ける。


「貴殿を捕虜として拘束するに際し、いくつか質問をさせてもらう。答えたくなければ答えないで結構だ」


「拷問で口を割らされるかと思えば、随分と紳士的だな」


「私としてはそうしても構わんが、上からの命令でな。それに、貴様一人どうにかした所で、貴様らに殺された私の息子は帰って来ん」


 祥子はホアホーマを睨む。


「そうか。……して、吾輩に何を聞きたいのだ」


 一呼吸置くと、祥子は内胸ポケットから取り出したメモを読む。


「以下は全て、来満大尉からの質問だ。戦う前に聞くのは避けたい様だったのでな……まず一つ目、貴殿はウンババ大帝の仮面の下を見た事はあるか?」


「大帝陛下は3年前に貴様ら地球人が撃ち込んだミサイルによる二次被害で顔を始めとする身体をかなり損傷された。それ以来、仮面でお顔を覆われている。その下は吾輩でも見た事はない」


「そうか。では次だ……貴殿はヘイト・ライマンという男を知っているか?」


「ヘイト……確かウンババ大帝のご息女・キャシィ殿下の婿となった男の名がヘイトと言ったか。だが、 殿下夫妻は病に倒れ既にこの世におらん」


 祥子は眉間に皺を寄せると、メモを丸め、ポケットに仕舞った。


「ホアホーマ将軍、これは来満大尉が戦闘中にウンババ大帝本人から直に聞いた事で、幻舞も消えた今となっては通信記録も残っていないが、貴殿の知るウンババ大帝は既に……」


 その時だった。


「艦長!大変です!!」


 慌てた様子で入室する早坂。


「どうした?今は捕虜の尋問中だぞ」


「すみません! でも、来満大尉が…その……」


「ヒデオ・クルミが……?」


 早坂は呼吸を整え、口をゆっくりと開いた。


「突然倒れて意識不明の状態です!!」

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