6ー②
一鳥取砂丘
ホアホーマが決闘を申し込んでから2日後の事だった。英雄はその申し出を受託し、戦いの舞台をこの砂だらけの場所に選んだ。
「……いつまで待たせる気だ!ヒデオ・クルミ!!」
鎧武者の様なエゲツナーロボの中、ホアホーマは未だに現れない相手に対し、若干の怒りを募らせる。
「むっ!?」
日本海の方向から、1機の大型航空機が接近してくる様が視認出来た。そして、その航空機が底部を開くと1機のMMSが降下する。パラシュートを開き、ゆっくりと着陸したその機体は、来満英雄の愛機である、深緑色をしたメタルディフェンサー乙型であった。
「遅いぞ貴様!」
エゲツナーロボの人差し指が乙型を指さし、中のホアホーマが怒鳴る。
「悪いな。俺たちの技術力じゃ、移動には時間が掛かるんだよ」
英雄が遅れてきたのは彼の作戦である。 700年くらい前の日本にいた剣豪に倣い、対戦相手を苛つかせる・歴史に学んだ策であった。
「フン!まあいいだろう。陛下の話では貴様は娘を失い府抜けているだろうという話であったが、杞憂の様だ。 惜しむらくは貴様の機体が幻舞なる、あの黒いロボットでない事か」
ウンババ大帝ことヘイト・ライマンは、セリカと幻舞を失った英雄を脅威としては見ずに、いつでも地球を落とせると判断した。よって、半ば遊びの一環として英雄をライバル視するホアホーマに一騎打ちを許し、今回の決闘へと至った。
「3年前に俺と乙型に勝てなかったのを忘れたか? その偉そうなナリの機体でこの骨董品に負けたら言い訳できねえぞ?」
英雄は乙型の手に握らせた槍の様な武器でホアホーマの乗るエゲツナーロボを指す。
「この『マウヤケソ』 は陛下の乗機『オジャパメン』とは兄弟機にあたる。 万が一つにでも負ける事など無いわ! それに、(r」
聞いてもいない機体名等をホアホーマはべらべらと喋りだした 為、英雄も敵が好調である事を察した。
「よし。じゃあ始めるか!」
英雄はそう言うと、乙型の両手で槍型の武器─ライゲルの尾を構える。
「いざ、参らん!」
ホアホーマはマウヤケソに一振りの大剣を構えさせると、乙型へと飛び掛かる。乙型は槍の持ち手を基点として半回転させ、斬撃を打ち払う。その動きは杖術の応用だった。そしてすかさず刺突。しかし、槍は突き刺さらずにマウヤケソの装甲をかすめただけに止まった。
「チッ!」
英雄は舌打ちすると後退し、距離を取りながら乙型の左手を後腰に回してガトリング砲を握らせる。それはケツァールの装備である『大庵』だった。
「くらえ!」
フルオートで連射される弾丸の雨を受けながら、 マウヤケソは耐える。その装甲はパントドン占領時に得たヒヒイロカネという金属で作られてはいるが、いつまでも耐えられるものではない。銃弾の雨が止み、ガトリング砲からはかちりかちりと撃鉄が空を切る音が聞こえた。弾切れである。
「フハハハ!吾輩をここまで苦戦させるとは流石なり!次の一撃で貴様の最期としてくれる!!」
マウヤケソの腹部に備えられたエゲツニウム砲発射口が紫色の光を纏う。
「死ぬがよい!我が好敵手よ!!」
エゲツニウム砲は乙型に向け発射される。しかし乙型はそれを避けようともせず、棒立ちのままだった。
「潔く散るか!ヒデオ・クルミ!!それもまた良し……?」
ホアホーマは異変に気付いた。ビームは英雄機に当たっているはずなのに、まるで手応えが感じられない。エゲツニウムエネルギーを出し切ると、その先には傷一つ無い乙型の姿があった。
「でかしたぞ、ユリーナ!」
スラスターから推進剤を全開で噴射しながら、乙型は槍を構え、マウヤケソへと接近。そして、手にした槍をエゲツニウム砲の出ていた発射口へと突き刺した。
「今だ!シア!!」
「オーケー!……『マシンハック』!!」
英雄は先ほどに続き、その場にいないはずの者の名を口にした。そればかりか、今度は居るはずのない者の声まで聞こえたではないか。
「ぬぅっ!?動かん!マウヤケソ!!なぜ動かんのだ!!!」
ホアホーマの狼狽える声に、英雄はへへっと笑いを漏らす。マウヤケソの前に立つ乙型は、コクピットのハッチを解放した。
「教えてやろうか。こういう事だよ」
「な、何ぃーーー!!?」
ホアホーマの驚愕した声が響く。その視線の先には、乙型のコクピット内で操縦する英雄と、その膝の上に腰掛けるシア、右隣に立つユリーナ、左隣にはえつ子の計4人が一人乗り用のコクピット内で寿司詰めとなっていた。
「成る程……エゲツニウム砲を受けて無傷だったのはエルフの娘が魔法で防ぎ、そして機械の娘がマウヤケソの動きを停止させたという事か……って貴様ァ!1対1の男の真剣勝負の筈であろうが!汚いぞ!!」
ホアホーマは自らの状況を解説した後、英雄に対して怒声を飛ばす。
「やかましい!俺はそんな約束、一つもしちゃいねえぜ!っつーかこいつに4人も乗ってんだから俺の方が不利だろうが!!」
身体の可動に余裕が無いほどの空間の中、MMS を操縦出来たのは英雄ならではと言える。
「くっ……かくなる上はマウヤケソもろとも貴様らを……」
ホアホーマはマウヤケソの自爆スイッチを押すが、 反応が無い。
「無駄だよ。 その機体はボクの支配下にある!」
「えつ子!行け!!」
「殺してはなりませんわよ~?」
「ござる!!」
乙型のコクピットから飛び出したえつ子は、マウヤケソに刺さったライゲルの尾の上を器用に走って渡り、敵機のコクピットに張り付く。
「コレどうやって開けるでござるか?……めんどくせえでござるな!!」
二本足の狐に変化したえつ子は、ハッチの扉を両手で強引に引き矧がす。
「ヒッ……」
鋼鉄の蓋をひしゃぎながら姿を現した獣人に睨まれ、ホアホーマは情けない悲鳴を漏らす。
「パントドンの民の仇を、この場で討ちとうござるが……お前を生きて捕らえよとの命令でござる!!」
ホアホーマは鳩尾をえつ子に蹴り抜かれ、そのまま失神した。えつ子は伸びたホアホーマの体を片手で持ち上げ乙型の方へ、 まるで旗のように振る。
「よし、よくやったぞえつ子!……こちら来満、エゲツナーロボとホアホーマを捕らえました。 至急、回収願います!」
マウヤケソを鹵獲し、ホアホーマの身柄を拘束した英雄は、境港で待機する香山へ無線を飛ばした。
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