4ー③

一格納庫


空母・香山の甲板下は搭載できる限りのあらゆる航空機、車両、そしてMMSが積載されている。


「駿河基地にあった機体以外のMMSも積んでますのね」


 ユリーナの言う通り、ハンガーに収納されたMMS の殆どはメタルディフェンサー丙型だったが、数機だけ違うものが混じっていた。


「アレはアメリカの『ジャスティス・レンジャー』だな。 パワーはあるがエネルギー消費量も多くて乗り手を選ぶ」


 英雄はアメフト選手のような装甲と円形の盾を持つMMSを指差して説明する。


「じゃあ、アレは?」


 シアの問いには、


「あのカエルみたいなのはオーストラリアの『ネオ・ケラトダス』だ。水中戦が得意なMMSだぞ」


 と、説明し


「あの羽が生えたのは何でござるか?」


 と、えつ子が問えば


「台湾民主国の『天鳳ティエンホー』。飛行機に変形して飛べるし、メタルディフェンサーと部品の互換性もあるから日本でも使っている部隊は多いぞ」


 と、説明してみせる。


「お詳しいのですね。来満大尉」


 先導する三人の内、藤原が言う。


「少し前まで整備兵をしていたのと……乗ってた友人がいたので」


 だが、その友人達はもういない。


「着きましたよ。じきに艦長が来られます」


 と、早坂が言うと遠野と藤原も足を止め、振り返った。ここは格納庫の隅であり、何かが布を被って置いてあるだけである。艦長に着任申告をするのなら、艦長室またはそれらしい場所で行うものではないのか?と英雄は怪訝に感じた。


「これ、MMS だよね?」


 と、シアが布を被った物体を指差して言った。


「足が親父殿の乗っていた機体と同じ形でござるな」


 布で覆われていない下部からは、ひどく汚れ傷だらけな鋼の足首から下の脚部が露出しており、それはえつ子の言う通りメタルディフェンサー乙型のものに見えた。


「でも、乙型って英雄さんの機体しか残ってないんじゃないの?」


 セリカが言う様に、国防軍のメタルディフェンサーは既に後継機である丙型に取って代わっているはずである。


「『それ』は、艦長が個人的に置いているものですよ」


 突然の声に振り返る英雄達。 そこにいたのは40代半ばほどの長身の男だった。


「久しぶりですね。来満くん」


「幹教官!?」


 名前を呼ばれた英雄は、驚愕の表情でその男の名を呼び返していた。


「おじ様のお知り合いですの?」


 ユリーナが言うと、男は会釈し、改めて名乗る。


「はじめまして、お嬢さん方。私は当艦の副艦長、幹 みき かすみといいます。来満くんが自衛隊学校の学生だった時に、彼は私の教え子だったのです」


 そう話す霞の話を娘達のみならず、 早坂達も初耳だった様で興味深そうに聞いていた。


「お会いするのは……あの日以来ですね」


 と、英雄。 あの日とは、3年前にあった英雄にとって忘れられない日である。霞の教え子だったのは英雄だけではない。彼の親友も、霞の教えを受けていた同期生なのだ。


「そう。私と会うのも、その日以来だな」


 ふと、ハンガーに収まっていたMMSジャスティス・レンジャーの脚の陰から、一人の女性が現れた。その姿を見るなり、早坂、遠野、藤原、霞の4人は相対し、敬礼する。


「あ、あなたは……!」


 英雄は50代半ばのその女性を見るや、霞の顔を見た時以上に驚愕する。


「ようこそ、 空母香山へ。私が艦長の瀬田祥子せた しょうこだ。……の葬式以来だな、英雄くん?」


 その女こそが、最強にして最凶の艦とその乗組員を束ねるボスでもある。空母・香山の艦長であり…


「縁のお母さん……」


 英雄の同期にして親友、故・瀬田縁せた ゆかりの実母であった。

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