4ー④

「まさか、あなたがこの艦の艦長だとは思いませんでした」


「私も、こんな形で再会するとは思わなかったがな」


 かしこまる英雄に対し、祥子は返す。本来なら、陸軍の所属である英雄が海軍に転官するという事すら例外なのだ。


「そして、君らが異世界から来たというお嬢さん方か…」


 祥子はユリーナ、シア、えつ子、そしてセリカの顔を順に見る。


「30年間軍人をやってきたが、こんな事は初めてだ。異世界からの人間を指揮下に入れるというのはな」


 一拍置いて、祥子は続ける。


「だが、私は人種や出自で差別などはしない主義だ。ともに戦う志があるのならば、受け入れよう……」


 祥子の纏うオーラに圧された英雄と娘達の緊張した顔が少しだけ緩んだのも束の間、


「ただし、君達が我が鑑で戦うに相応しいか否かのテストはさせてもらうぞ?半端な志の者に乗られて死なれてはたまらんからな」


 そう言うと、祥子は英雄を睨みつけるように見た。そして、


「早坂!遠野!藤原!」


「はい!」「オス!」「了解」


 祥子に名前を呼ばれた3人は、MMSらしきものを覆っていた白い布を一斉に引っ張った。

 布を剥がされ、姿を露わにしたそれを見て英雄は言葉を失う。それは、えつ子達の予想した通り、メタルディフェンサー乙型だった。 ただ、その姿は皆の知る姿とは大きく異なる。 傷だらけのボディはコクピットから上が無いのだ。 本来あるべき胸部から上は、高熱で溶かされた痕が残るのみ。


「酷い壊れ具合だね」


「何でござるか、この有り様は.....?」


 各々の感想を漏らすシアとえつ子。


「あ…ああ……ゆかり…」


 声にならない声を上げ、 英雄は膝から崩れ落ちた。


「英雄さん!」


「おじ様!」


 尋常ではない様子の英雄のもとへ、セリカとユリーナはすぐさま駆け寄った。


「その乙型は3年前、帝国との決戦時に私の倅が乗っていた機体だ!」


 と、祥子。3年前の戦いで縁は英雄を庇い、エゲツナーロボの放ったビームを浴び、戦死した。コクピットごと消滅した彼の体は当然の如く骨も灰も残らなかった。


「この乙型の残骸だけが倅の形見であり、遺骨代わりだ。英雄くん、あの時を思い出したかね?」


 両膝を着いたままの英雄に、後ろから投げかける様に質問した。


「ちょっと、おばさん!」

「なぜこんな事をするんですか!?」


 シアとセリカは怒りの形相で祥子を睨んだ。


「彼が3年前の戦いで縁たち僚友を失い、その時のショックからMMSに乗れなくなったというのは軍では有名な話でな。そして、そんな彼が再び戦場へ出て帝国を撃退したという話もだ。過去を克服出来たのかどうかは知らんが、 また戦えなくなられてはかなわん。それも含めてのテストだ」


 そう言い放つ祥子に対し、娘たちも黙ってはいられなかった。


「だからと言って、こんなやり方はあまりにも酷すぎるではござらんか!」


「そうですわ!おじ様がユカリさん達の事でどれだけ苦しんだか・・・・・・」


 えつ子とユリーナの抗議にも、祥子は冷静に、淡々と返す。


「さぞかし悲しく、苦しかっただろうな。 母である私がそうだったのだから、痛いほど解るさ。父親を失ったという君たちも、そうだったのだろう?」


 その言葉に、娘たちは返す言葉も無かった。 息子を失った祥子もまた、この乙型の残骸を見る事は耐え難い事だろう。しかし、彼女はその忌々しき形見を敢えて艦に置き、戦いから逃げない為の覚悟並びに戒めとしているのだ。


「君たちも、君たちの機体も、軍のものではない。軍の外で戦いたいのなら好きにすればいい。だが、 英雄くんが軍人として、我が艦の乗員として戦うのならそれだけの覚悟を示してもらうぞ」


 祥子の言う通り、 異世界の娘たちが帝国と戦うのは地球が戦場となる事を除けば軍とはほぼ無関係だ。地球の防衛は地球人で行えばいい。しかし、幻舞及びキリンオーがその真価を発揮するにはメサイアである英雄が必要であり、彼女らの地球での活動には軍の支援が不可欠である。

その時だった。


「縁……」


 英雄は友の名を呟くように呼ぶと、立ち上がった。


「英雄さん!?」


 英雄はセリカとユリーナに掴まれていた両腕を彼女たちの手からするりと抜くと、乙型の残骸に向かって歩き出した。

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