4ー②

─広島県呉市・空母『香山』艦長室


「映像で見ると、想像以上に無茶苦茶ですね」


 モニターに流れる映像を見て、香山副艦長・幹霞中佐は言った。


「その無茶苦茶なのを預からねばならんのだぞ?」


 呆れたように言う女—艦長・瀬田祥子大佐。彼女らが見ていたのは、つい数十分前に富士で行われていた公開演習におけるキリンオーの合体映像だ。


「……噂をすれば何とやらですな」


 霞が指差した窓の外、上空に人型の影が見えた。そして、それは次第にこちらへ近付いて来る。


「静岡から広島まで一時間も経たずに移動してきたというのか!?どこまで無茶苦茶なのだ」


 通常の交通手段なら5時間以上は優に掛かる距離を飛行してきたのは、キリンオーであった。


「まぁいい。副艦長、想定より前倒しだが、予定通り早坂達に出迎える様に伝えてくれ」


「了解」


 祥子の指示に従い、霞は無線機で部下へ指示を出す。


「ようこそ、英雄くん。そして異世界のお嬢さん達。…君たちにこの艦へ乗る資格があるか、試させてもらうぞ……」


 祥子は不敵にほくそ笑んだ。



─関西地方上空

 キリンオーが空母香山に接近する少し前。


「早いな…新幹線や旅客機なんて目じゃあないな」


 英雄は目下に広がる景色を見ながら言う。


「おじ様、あの大きな湖は何ですの?」


 ユリーナが一際大きな湖を指差し、英雄に問う。


「アレは琵琶湖だ。日本で一番でかい湖だよ」


 英雄の説明に、ユリーナ、シア、えつ子の三人は興味深そうに聞き入る。


(もう滋賀県?……という事は、もうそろそろ……)


 セリカが思ったその時だった。


「あの辺が俺の田舎だ」


 英雄が指差す先には浜から広がる砂だらけの様な地形が広がる。


「砂漠でござるか!?」


 えつ子が言う。


「ちょっと違うな。砂丘だよ、鳥取砂丘」


 ラクダもいるんだぞ、と英雄が付け加えるのを聞きながら、 


(ウチが産まれる少し前の鳥取…どがな感じなんやろ?お爺ちゃんとお婆ちゃん、元気かな……?)


 セリカは祖父・来満俊雄と祖母・来満佳代の事を考えていた。


「せっかく地球に来たんだから、色んな所に行きたいなー。戦争中じゃなけりゃなー」


 と、シア。


「シアちゃん、戦いが終わったら色んな所に行こうよ。私も気になるもん」


 地球出身でありながら、セリカは行った事の無い国どころか県すら多い。


「そうだね。…約束だ!」


「よーし、そろそろ目的地だぞ」


 来満親子の故郷、鳥取を背にする形でキリンオーは瀬戸内海を目指して飛ぶ。そして、徐々に高度を下げる。その降下先は巨大な空母の甲板だ。


「空母香山……まさか、俺がこの艦に乗ることになるなんてな……」


 日本国防軍最強にして最凶の艦船、航空母艦・香山。三年前のエゲツナー帝国との戦争中に建造が始まったが、英雄らの活躍により香山の完成前に帝国との交戦が終わった為、帝国との戦いに投じられる事の無かった艦でもある。


 全高30メートルはあるキリンオーが着艦しても、その甲板はまだまだ広い。集まった艦の乗組員たちは、冗談の様な姿をした鋼の巨人を訝しむ様に見上げている。


「よし、降りるぞ」


 キリンオーの胸にあるライゲルの顔が口を開けると、中からまずえつ子が生身で飛び降りて着地した。

 香山の乗組員達は、20メートル近い高さから平気で飛び降りた狐耳の忍者に驚き言葉を失う。続いて降りてきたのはユリーナ。両掌を地に向け、浮いた状態からゆっくりと降下する。魔法で風を操っているのだ。そしてシアは右腕をワイヤーに変化させ、ぶら下がる様に降りると一瞬で腕を元の状態に戻す。そして、ライゲルの口からロープが投げられ、セリカを小脇に抱えた英雄がそれを伝い、器用に降りてゆく。


「お前ら、普通に降りろよ!」


 英雄がシア達に言う。自重約80kgと40kg前後はあるセリカの計120kgを右手だけで支えて降りている時点で彼も普通ではないのだが。


「おじさん、こういうのは最初が肝心なんだよ」

「そうですわ」

「ナメられとうないでござるからな!」


 そうこうしている間に英雄が降りると、五人の元に三人の女性軍人が歩いて来た。


「静岡から呉まで、お疲れ様です。来満大尉。私は皆様の案内を任されました、早坂香織はやさか かおりと申します」


 早坂は栗色のボブカットに、大きな目が特徴の朗らかな女性であった。白い制服に付いた階級章は曹長のものである。


「押忍!同じく遠野愛菜とおの まな軍曹であります!」


 可愛らしい字面の名前をした遠野はそのイメージと異なり体格が女性としてはかなり大柄であり、声もえつ子と同じくらいデカい。


「……藤原悠ふじわら ゆうです。階級は伍長です」


 遠野とは反対に物静かな雰囲気の藤原。そして、何故か彼女はえつ子の顔を睨むように注視していた。


「ユリーナどの、何だかこの方、怖いでござるよ…そんなに拙者の耳や尾が珍しいでござろうか?」

「貴女、先ほどナメられとうないと仰ったではありませんか!」


 小声で話すえつ子とユリーナ。


「本日からお世話になります。来満英雄と申します!それでこの四人は…まぁ、異世界から来た私の娘というか」


 英雄に続く娘達の自己紹介を聞くと、早坂が言う。


「艦長から、皆様をお連れする様に言われています。私達に付いてきてください」


 早坂達三人に追従し、英雄達は案内された場所へと歩き出した。

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