3ー③

 西暦2220年、来満英雄ら地球連合エースパイロット部隊の活躍により地球はエゲツナー帝国の侵略を退ける事に成功した。


 一人の犠牲者も出す事なく人類を勝利に導いた英雄は少佐の階級とともに地元鳥取県鳥取市へ凱旋。自衛隊米子駐屯地を前身とする米子基地にて国防軍最高MMS連隊の指揮官となった。そして、エゲツナー帝国からスパイとして送り込まれた刺客・P7は来満菜奈の名と地球での身分を得た。そして英雄との間に子を宿す事となる。芹佳と名付けられた娘は平和な鳥取の地で平凡な15年を過ごした。


 その15年目で悲劇は訪れる。エゲツナー帝国の再来である。数多の世界を侵略・吸収し、強大となった侵略者達には、かつてのエースパイロット達も太刀打ち出来なくなっていた。


「……これが、私のいた未来よ」


 セリカは更に続ける。日本国防軍はエゲツナー帝国に対抗すべく、新たなMMSの開発に取り組む。それは、目には目をの理論でエゲツニウム炉を搭載した機体だった。敵軍機を鹵獲し、エゲツニウム炉を移植する事で人類の切り札は完成した。漆黒の機体は幻想の空を舞う如く飛ぶというコンセプトから、ある名が付けられる。


「それが幻舞。父のメタルディフェンサー乙型に、エゲツニウム炉を搭載して改修したのがあの子なの」


 しかし、幻舞の完成とともに英雄は命を落としてしまう。かの機体に乗るのは最強のパイロットである英雄と、エゲツニウム炉を操る事の出来るエゲツナー人である菜奈の夫婦。その二人にしか出来ない任務であるはずが、一人を欠いてしまった。


「そして、次に考えた作戦は過去に戻り死ぬ前の来満英雄を幻舞に乗せる事……」


 エゲツニウムが次元を歪める力は時間を操る事に応用する事が出来る─そう考えた菜奈は15年間の研究と開発によりシステムを実用可能なレベルにまで進めていた。問題は、菜奈が過去に行く事で英雄と接触する事により歴史の多大な改変が起こる事であった。


「タイムパラドックスってやつか」


 シアの問いに、セリカは頷く。

 過去へ飛ぶ為にはエゲツニウム炉を操る力が要り、且つ英雄やその周囲への面識の無い人物が適任であった。


「それが、この時代に産まれていないセリカさんでしたのね……?」


 ユリーナが言うと、セリカは目に泪を浮かべ、無言で頷く。断腸の思いで愛娘を危険な任務に差し出した母の顔を思い出した。そして、もう一つ辛い事が今のセリカにはあった。


「親父殿に、自分が娘だと伝えられないのは辛うござるな……」


 英雄にセリカが実の娘だと解ると、未来への悪影響があるどころか、セリカの存在すら消えかねない。当然、そうなれば任務も失敗するだろう。


「ごめんよ、セリカ。キミの正体はボク達にも隠さなければならなかったんだね……」


 シアは泣くセリカを抱きしめた。


「ほうよ!ウチもほんまはパパにアンタの娘じゃゆうて教えたいんよ!!」


 セリカから発せられた言語の違和感にシアとえつ子とユリーナの時間が数秒止まった。


「……セリカさん?」


「何でござるかそのしゃべり方は」


 セリカはえつ子とユリーナに向き直る。


「ウチは生まれて15年、鳥取から出た事ないけぇ、こがぁなしゃべり方なんよ!」


 それは英雄が怒った時などに出る方言、鳥取弁だった。つまり、これが未来の鳥取県で育ったセリカの『素』である。


「パパに娘やてバレたらいけんけぇ、無理して標準語喋っとっただけやわ!なして娘が親を下の名前にさん付けで呼ばないけんのよ!!」


 素の自分をさらけ出したセリカは、同時に身分を偽っていた事により溜め込んだ鬱憤が爆発した様だった。


「アハハハ!変なしゃべり方!ユリーナとえつ子も変だけどセリカも相当変わってるぞ」


 シアはセリカから手を離すと、腹を抱えて笑い出した。


「聞き捨てなりませんわ!」


「シアどのも他人の事を言えた身ではござらんぞ!!」


なんよボクっ子て!そがなモン、漫画の中でしか見よらんわ!!!」


 己の口調について四人は言い合いとなった。本気で口論するのはそれぞれ初めてである。





「…ハァ…ハァ…どうだいセリカ、スッキリしたかい?」


 大激論の末にシアは息を切らしながらセリカに問う。


「うん…ウチは今まで一人でようけ抱え込み過ぎとったみたい」


 自らの正体の事、使命の事、それらを異世界の自分と同じ存在である三人打ち明ける事により、セリカの心は憑き物が取れた様に晴れたのだった。


「きっと、セリカさんを独りにしない為に貴女のお母様はキリンオーの設計図をシアさんのお父様に送り、わたくし達に会う様にしたのですわ」


 ユリーナに続き、えつ子が言う。


「我々は生まれた世界は違えど、同じ魂を持った自分自身でござる。みんな常に味方でござるよ」


 その言葉に、セリカは泣きそうになる。


「そいじゃあ、ウチの正体をパパにはナイショにしといてくれる?」


「当たり前だろ。それに娘が父親に言えないヒミツがあるなんて、どこの親子にだってある事さ!」


 シアの言葉に頷くえつ子とユリーナ。


「ありがとう、みんな。約束やけん、小指を出して」


 と、セリカは右手の小指を三人の前に突き出しす。三人は困惑しながらもセリカの動作を真似て、それぞれの小指を差し出す。


「これは『指切り』ゆうて、地球で約束を結ぶ時の儀式みたいなもんよ。…ゆーびきりゲンマン、嘘ついたら針千本のーます!指切った!」


 四人の小指が絡み合った状態で、セリカが歌う。


「ゲンマンって何ですの?」


「ゲンコツ一万回の略よ」


「更に針を千本飲ますのかよ!?」


「地球人は恐ろしい拷問を考えるでござるな!?」


 童歌の歌詞を本気にし、戦慄するセリカ以外の三人。面白そうなのでセリカはしばらく本気にさせておく事にした。

 

 


 


 



 

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