3ー④

「ちょっと待ってくれないか。 鳥取弁とかゲンマンに気を取られて大事な事をスルーする所だった」


 シアは続ける。


「セリカのいた未来でエゲツナー帝国が2度目に襲ってきたのは今から15年後だろ……?」


 セリカの話と現在の状況に関する整合性が合わない事に、 ユリーナとえつ子は気付き始めた。


「おじ様とナナさんは既に結婚していて、セリカさんが産まれていなければならない計算になりますわ」


「なのにナナ殿は植物状態で、親父殿もつい最近までMMSに乗れぬほど心が弱っていたでござらんか」


「パパがMMSに乗れんようになった原因、基地の人たちに聞いたんやけど、みんなが死んだってゆう縁おじさん達、 ウチのおった未来では生きとって、 ようけパパと遊んどったもん」


 様々な観点から推測される事が一つあった。


「セリカ、この時点で歴史はもう変わり始めてるぞ……?」


 それが、タイムスリップや次元転移による影響なのかは解らないが、 シアは一つの仮説を立てる。


「もしかしたら、エゲツナー帝国側がナナさんやセリカの動きに気付いて、対策を打ってでたのかもしれないぞ。 例えば……セリカと幻舞がおじさんに会う前に始末する為、 2回目の襲撃を早めたとか、おじさんの友達を殺したりナナさんをあの状態にしたりとか……」


 考えれば考えるほど、シアの仮説が真実味を帯びてきた。しかし、


「だとしても、敵はわたくし達がセリカさんと合流した事までは予測できてないはずですわ!」


「そうでござる!キリンオーの事だって奴らは知らなかったでござるからな!」


 ユリーナとえつ子は同時にセリカの顔を見た。


「それに、ウチはまだここにおる。このまま産まれて来んのやったら、とっくに消えとるはずやけん!」


 セリカの表情は希望を失ってはいなかった。


「そうだね。 とことん足掻いて、奴らの裏を掻いてやろう。勝つのはボク達だ!」


 四人は再び右手の小指を突き合わせる。 これが彼女達の結束のサインだ。


 トイレから英雄とナナの待つ病室までの帰り、4人は他愛もない話をしていた。


「では、セリカさんの仰っていた出身地のオステオグロッサムなる世界と、父親のヤンセ・ライマンというのは?」


「全部ウチがこさえた架空の設定。そがなもん、最初から無いんよ」


「何だよ、すっかり騙されたじゃないかボク達も」


「そいやけど、みそ汁で設定にボロが出そうになったけん、ウチの作り話もまだまだゆう事じゃね」


「でももしかしたら、 どこかに存在してるかもでござらぬか? 宇宙は広いでござるからなぁ」


「並行宇宙はボクら4人の世界以外にもまだまだ沢山あるみたいだから、その分だけメサイアとその子供はいるはずさ」


「もしかして、 性別が殿方のわたくしたちもいるって事ですの?」


「全然あり得るでござろう」


 そんなこんなの内に、 病室まではあと数十メートルとなっていた。


「ちょい待っちゃんさい」


 セリカは足を止めると、 軽い咳払いの後に深呼吸をした。


「『英雄さん』 の前で、 うっかり鳥取弁が出ちゃうかもしれないわ。 私も『芹佳』から『セリカ』に切り替えなきゃね」


 と、ウィンクしてみせたセリカは先程までとは別人の様であった。


「すっげぇ……」


「セリカどの、役者になれるでござるよ」


「世界が平和になったら、 目指してみてはいかかでしょう?」


「それも、いいかもね」


 セリカは父と母のいる病室のドアを開けた。


「遅かったじゃないか」


 ナナが眠るベッドの傍らに座っていた英雄が言う。


「ユリーナどのがドでかいうんこをしていたでござる」


「なっ…何て事を言いますの!!?」


 えつ子とユリーナのやり取りを見て笑うシアとセリカ。


「おっ?仲直りしたのかお前たち」


 それを見て英雄は更に問う。


「3日も口を聞いてなかったってのに、何があったんだ?」


 質問に対し、シアとセリカは顔を見合わせた。


「ヒミツだよ」


「ね?」


 ちぇっ。 と、 英雄はおじさんである自分だけが仲間外れにされたのが少々寂しく感じたが、ひとまず二人の仲を良好な関係に戻せた事に安堵した。


「よし、そろそろ帰るか……ナナ、また来るよ」


 ナナの手を握ってそう言うと、英雄は制帽を片手に部屋を出た。 英雄が退室するのを確認すると、セリカはナナの耳元で囁く。


「ママ、待っとってね。ウチらが絶対助けてあげるけん……」

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