3ー①

—国防軍駿河基地


 英雄たちがキリンオーでベーター丞相のエゲツナー戦艦を撃破して3日の時が経った。帝国側の消耗も激しかったのか、この3日間は帝国の襲撃は無く、英雄達は襲撃に備えて待機するのみだったが……


「どうだ、あの二人は?」


 英雄は食堂でえつ子、ユリーナと丸テーブルに着き、二人に問う。


「全っ然変わりませんわ」


 そう答えると、ユリーナはグラスにペットボトルの紅茶を注ぐ。


「部屋でも一向に口を聞かんのでござるよ。 互いに拙者とユリーナどのへの接し方は今まで通りでござるが」


 と答えて、えつ子は缶のお汁粉を飲み干した。


「そうか......」


 英雄は眉間に皺を寄せて目を閉じる。 今、3人を悩ませているのはこの場にいない 二人─シアとセリカの事である。 先日の戦闘後、 シアが自身の正体を隠していたセリカに対し不信感を抱き、衝突する事となって以来、 二人は3日間口を聞いていないまま今日で4日目を迎えようとしていた。


「こんな時に敵が襲ってきたら···いや、それ以前の問題だ」


 4機のメカは連携及び合体によりその真価を発揮する。 娘たち4人の心が一つに纏まらない状態は戦局に支障を来す。 そして、それを纏めるのが他ならない彼女らの上官というより保護者的立場である英雄なのだ。


「おじ様、困ってますわね…無理もありませんわ」


「独身男性にいきなり思春期の娘が4人も押しかけて来たようなもんでござるからな」


 ユリーナとえつ子はひそひそと密談をしているつもりなのだが、 英雄にはしっかりと聞こえている。しかし、二人の話が事実なだけに反論せず聞こえていないふりを続けるのだった。


「......よし!」


 突如、英雄が何かを思いついたように二人の方を向きなおした。


「何か名案が浮かんだんですの!?」


 ユリーナは期待を込めた目で英雄を注視する。 気遣いの出来る彼女こそ、 シアとセリカの間に立つことに辟易気味であり、 えつ子共々二人に仲直りをして欲しいと願っているのだから。


「シアとセリカのケンカの原因はセリカの隠し事だ。 だから、俺もお前たちに言ってない隠し事ってやつを打ち明けてやるのさ」


 と、英雄。その表情には若干不安の色も見られる。


「春画本の隠し場所でござるか!?」


 えつ子は後退りつつも興味がないわけではない、といった顔で問う。


「違わい!……これはいずれ明かさなけりゃならん事だし、 セリカには特に関係がある事かもしれんからな」


 英雄は席を立ち、準備をしてくるので出掛けられる準備をしておけ、とユリーナとえつ子に言い残し食堂を後にした。



「……と、言うわけでござるから、お二方も出掛ける準備をされよ!」


 えつ子は2組ある二段ベッドの上下にいるセリカとシアに告げる。


「今の、回想だったのかよ!」


 向かって右側のベッド上段にて、下着姿のまま寝転んでいたシアが言う。 ここは彼女らが一時的に住まう事となった女子寮の一室である。


「ボクは行かないよ。3人で行ってくればいいだろ」


 そう言うと、シアは手元にあったタブレット端末を弄り出した。


「……行くって、どこへ?」


 セリカがユリーナに問う。


「それが、行先も目的も交通手段も教えてくださいませんの。秘密を明かすのに行くと言ったところで行き先が秘密だなんて、本末転倒ですわ!」


 と、ユリーナが言った矢先


「お前たち、 早く準備をしろ!」


  そう言いながら入って来たのは英雄だった。


「パっ……英雄さん!?」


 セリカが読んでいた文庫本を落とす。


「おじさん!?ここ女子寮だろ!!」


 慌てて布団を被り顔だけを出した状態のシアが叫んだ。


「幹部権限だ。 寮長の立ち入り許可も取得済みだぞ」


 と、英雄は右手に持っていた書類を自慢げに見せる。よく見れば制服の上下姿で、左手には制帽を持っている。


「親父殿、 この恰好は?」


 えつ子が英雄のスラックスを引っ張りながら問う。


「ああ。今から行く所は軍の施設で、関係者でも限られた者しか入れんからな。 さっさと着替えて隊舎の玄関前に……」


 英雄の顔面にシアの投げた枕が直撃した。


「おじさんがいると着替えられないんだよっ!!」


 英雄が退室すると、シアは渋々と服を着始めた。その姿を横目見ながら、セリカも部屋着から地球に来た際に着ていた服に着替え始める。


「(今から行く所って、もしかして……)」


 セリカの胸の内は大きな不安と、少しの期待に揺さぶられるようだった……

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