2ー⑤
一格納庫・MMS ハンガー
幻舞に乗り込んだ英雄とセリカは、シートベルトを締め、ハッチを閉じた。今回はセリカもパイロットスーツとヘルメットの装備一式を着けている。 国防軍装備品のそれらは彼女にとって、 少し大きく、ヘルメットと頭部の隙間からは黒いロングヘアがはみ出していた。
「準備はいいか?」
英雄が問うとセリカは、はいと頷く。こんな時、軍隊での返事は『了解』である。軍装も合わない少女を戦闘に駆り出さなければならない状況を憂いているのは英雄を始めとする国防軍の軍人達だった。 しかし、彼女たちの手を借りなければ地球に明日は無いであろう。エゲツナー帝国との戦力差は昨日の戦いで身をもって味わわされたのだ。
「せめて、俺一人で幻舞を操縦できないのか?」
英雄はセリカに問う。昨日、 基地へ帰還する際にも試したが、幻舞のAIはセリカの言う事しか聞かないのだ。 英雄が幻舞を操縦して戦ったのも、セリカがシステムに許可を与えたからであり、この機体を動かすにはセリカ一人ないし彼女が許可したパイロットと二人で乗った時だけなのだ。
「私達を大切に思ってくれるのは嬉しいです。 でも、あなたと一緒に戦ってエゲツナー帝国の侵攻を止める事が私達のやるべき事なんです!」
シートの構造上、セリカの顔は見えないがやる気に満ちた声からその表情は想像できた。そうだ、彼女達が平行世界の自分の娘なら俺の娘のようなものではないか。 親が子を信じないで、応援してやれないでどうするのだ、と英雄は心の中で自分に言い聞かせた。
「そうだったな。お互いに協力して戦おう!頼りにしてるぜ、セリカ!」
英雄がそう言うと、セリカは嬉しそうに返事をし、起動したメインシステムから通信アプリケーションを呼び出した。
「……幻舞から、各機。現在の状態を知らされたい」
英雄は通信機で僚機である3体のメカに通信を送る。
「ドラガォン、行けますわ」
と、落ち着いた様子で答えるユリーナ。
「ライゲル、いつでもOKさ!」
と、シアが弾んだ声で返す。
「ケツァール、 準備万端でござる!!!」
音が割れんばかりの声量で答えるえつ子。
「よし、 全機発進!!」
英雄の号令でMMS用射出カタパルトから幻舞が射出されると、それを合図に外で待機していたドラガォンとケツァールが飛び立ち、ライゲルは地を駆ける。三機が幻舞に追い付くと、ケツァールの両翼付け根辺りに幻舞が乗る形で、その後方をドラガォン、更にその下をライゲルが疾駆するフォーメーションとなる。
「作戦は先ほど伝えた通り、幻舞とケツァールで突破口を開く。ドラガォンとライゲルは援護を頼む!」
英雄が指示を出す。
「承知しましたわ!」
「オッケー!」
「御意!!!」
三者三様の返事をするユリーナ、シア、えつ子。
「……返事は『了解』で統一だ。いいな?」
英雄が言う後ろでセリカが笑う声が微かに聞こえる。
「了解!!!!」
今度はセリカも含めた四人で同時にそう答えた。
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