かいじんかいじん

爪木庸平

第1話

「この話を君にするかどうかは悩んだよ。作家である君なら話すに足るとも言えるし、書いているものが恋愛小説であることを考えるとこの上なく不適格とも言える」

「それは後から考えればいいさ。一応俺の考えとしては、恋愛はおよそ人間の文化活動すべてを含む。それぐらい巨大なカテゴリーってことさ」

「どうも僕以上の傲慢に聞こえるね。僕は人よりも面白い経験をしてきたと思うが、だからといって人間の活動全般を論じようと思わない。勘違いされやすい所だが、僕は僕に救える人間しか救う気がない」

「それで十分だよ。十分お前は元ノ宮愛だ」

「君に聞き手としての才を見込んでこの話を持ち出す。非常に複雑な話なんだ。元を辿ると三百年前まで行き当たる。うまく語れる自信もないが、とにかくやってみなくちゃわからない」

「それはその通りだ」

「僕の生い立ちを一々聞かせる訳にはいかない。もう記憶も曖昧だし、証言する者もいないからね。過去はほとんど全てが忘却の彼方だ。精々君と出会ってからの十四年程度の話しかひきだせない」

「昔の話も聞きたかったんだがな」

「思い出せたら話すよ」

「それで? 最近のことなんだろう? 怪人どもと出会ったのは」

「怪人どもと出会ったのは最近のことだ」

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かいじんかいじん 爪木庸平 @tumaki_yohei

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