第8話

ザシュッ!!

「いっ……」

マオが足を押さえて蹲る。話しているところを狙って、攻撃をされたのだ。

「何をする!!!」

「魔王様、今です!その娘に何を吹き込まれたか知りませんが、これで邪魔者はいなくなりました!早くこの魔法球を使って人間共を木っ端微塵に……!」

しかし、魔王は男の言葉には耳を貸さなかった。マオの持って来たパジャマに腕を通す。

「魔王様?」

「余は強い。マオ、貴様が人間界の魔王と呼ばれている存在でも、余は決して負けぬ!!!!!」

魔王が人間に洗脳されたのではと疑っていた男は、いつもの魔王の様子に安堵のため息をついた。

「ふぅ……。魔王様、そろそろ本気を出してくださいよ。そんな弱くてくだらない人間など捻り潰しましょう!」

「ふん!!!!!」

魔法球を受け取った魔王は、本来の姿……大きな角、牙、翼……を持った威厳のある魔族に……ならなかった。

「む!?!?」

「人間の姿のまま……!?何故!?」

男も予想していなかった展開だ。

「マオウさん、迷ってる?」

足を怪我したマオが、魔王を見上げた。

「……マオウさんがしたいこと、本当は違うんじゃない?」

「分かったような口を!貴様など、余の力を持ってすれば一瞬で消せるのだぞ!!!」

魔王の力の源、それは強い気持ちだった。そう、魔族の使う魔力の強さは、願望の強さによって決まるのだ。魔王は、今まで迷ったことがなかった。いつでも一番強い自分が好きだったし、そのためには一切の迷いも捨てねばならなかった。魔王が持つべき気持ちは「人間界を滅ぼす」、それだけでないといけなかった。

だが、今は……。

マオを、人間界を、滅ぼすことを迷っているのだ。

「そこの小娘か!!」

男が大きなカラスの姿に変身する。

「なにか妙な技を使い、魔王様を操っているな!?人間のくせに!!我ら魔王軍に盾つこうなど、姑息な!!!」

魔力を溜める音が聞こえる。魔王はハッとして、マオに魔法球を渡した。

「今の余は、これを使えぬ。しかし、マオ……貴様ならば、これを使ってあいつを退けることができるはずなのだ!!」

「え?なに、突然。人間滅ぼすんじゃないの?」

「い、今は!余の力が出せぬ!だからまた今度にするのだ!」

「今度って……」

呆れ顔のマオ。あの男の魔力をまともに受けたら、自分はともかくマオは絶対に死んでしまう。それを考えるとさらに気持ちが揺らぎ、魔法球を持っていられなくなってしまった。

「わ、分かったーけど、どうしたらいいの?こ、これ。どうやったら使えるの?」

マオが魔法球を持って魔王に尋ねる。

「自分が一番自信の持てる力を込めるのだ!!!」

力。魔王がこれを使うときは、絶対の自信がある魔力を込めていた。迷いが少しでもあれば、威力は落ちてしまう。

「なんでもいいわけ?なら……」


「魔王様!そいつは俺が仕留めます!!魔界に帰りますよ!!」

カラスが翼を大きく広げた。

「今だ!マオ!!!!!」

「なんかすっごく恥ずかしいけど、超ピンチならやるしかないか……!!」


マオが自分の一番自信のある力を魔法球に込める。


「女子力!!!!!!うちにはこれしかないっ!!!!!!!」

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