第7話
ピンク色の湯に浸かっていると、どっと眠気が襲ってきた。
「ふうっ……余は……疲れた……」
人間界に来てからずっと野宿だったのだ。こんなに気が休まったことは久しぶりだ。瞼が自然と下がってくる。眠い……。
バンッ!!!!!!!
突然、大きな音がした。閉じていた目を見開く。風呂場の壁がボロボロになっている。湯船から立ち上がると、大きなカラスがこちらを見つめているのが見えた。
「貴様は……!」
「魔王様、お迎えに上がりましたよ。さぁ、俺と一緒に魔界へ帰りましょう」
カラスは男性の人間の体になり、金色の瞳で魔王を見つめる。この男には見覚えがあった。魔界にいたときの部下の一人だ。
「何日も人間界に居て大変だったでしょう。下等な人間のにおいがつく前に、ほら」
魔王は戸惑っていた。魔界に帰るのが目的だったはずなのに、足が動かなかった。
「どうしたんですか?まさか人間になにかされちまったんですか?」
カラスの男が言う。
「でも、偉大なる魔王様が人間如きの攻撃に臆するわけないですよね?魔王様の力を持ってすれば、人間界を一瞬で潰すことなど容易いじゃないですか!」
この男の言う通りだ。自分は強い。魔界で最強の力を誇っていた魔王だ。助けてくれた小娘など、どうだっていい。
「そうだ!せっかく人間界に来たんだし、ここら一帯を破壊して魔王様の力を見せつけちまいましょうよ!そうすれば調子に乗った天使たちの鼻を明かしてやれる!」
「そうだ、余は強いのだ。それくらい容易い」
魔王はそう呟いた。
「魔王様ならそう言ってくれると思いました。ここに天使共から奪った『魔法球』があります。これがあれば人間界でもいつも通りの力を出せますよ」
「ふん……」
口角が上がる。やはりこうでなくてはならない。最強の力は使ってこそだ。
「ふははははは!!人間共め!!!余が人間界に降りたことを呪うが良い!!!!!」
「ちょっと、大丈夫?すごい音したけど」
ガラガラッ。風呂場のドアが開いて、マオがこちらを覗いた。
「えっ!?裸で何し……うわ!?壁が!?」
「何ですか、この小娘」
「マオウさん、風邪引いちゃうよー?ほら、着替えて」
「……」
「な、なんだかわかんないけど……なんかの撮影?だよね、これ……ええと、壁弁償してくれる?何も聞いてないんだけど」
マオの緊張感のない声が風呂場に響く。
「こ、怖くないのか……!?余は今からここを侵略するのだぞ!!」
「あ。怖がった方が良かった感じ?この前見た映画と似てたからあんまりビックリしなかったっていうか……」
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