第6話

マオの家、いやこれは

「城ではないか!!!」

まさに城。魔王が思わずそう叫んでしまうほどの大きさの家だ。

「マオウさんの家とどっちが大きかった?」

「もちろん余である!!!だが、人間にしてはやるな!!」

「うちのお金じゃないんだけどねー」

玄関が開いて、マオと同じ茶髪の女性が顔を出す。

「マオ!遅かったじゃない。そちらの方は?」

「マオウさんだって。なんか家燃えたらしーよ」

「はっ!?!?」

「いいからいいから。うちのおかーさん、ちょっと大袈裟に言うと入れてくれるから」

任せといてー。そうゆるく言って、光る四角形の何かを取り出す。

「まだニュースになってないかー。交番の前で困ってるところを拾ってきちゃった」

「まぁ!マオったら、優しい子ねー!!マオウさんも大変だったでしょ!ほらほら、今日は泊まっていきなさい!」

「む……」

マオの母親は自分の娘の善行に感激し、魔王を家に入れてくれた。なんだか落ち着かない。広いリビングで正座をする魔王。

「着替え……お父さんの服、入るかしらね?」

「うーん。微妙かも。そこのユニ〇ロで買ってくる?」

「あ、たしか叔父さんが前に泊まったときに置いて行ったLLサイズのパジャマがあったわね。マオはお風呂沸かしてきてちょうだい」

「了解ー」

ぽつん……取り残されてしまった。キョロキョロと辺りを見回す。目の前のテーブルにはかわいらしい雑貨が並べてある。カエルやリスの形のそれは、つぶらな瞳で魔王を見つめているようだ。

「ふん……懐柔されたわけではないぞ。余はマオを倒すのだ。そしてここを拠点にし、人間界を征服してやる」

ついさっきはハンバーグ屋を乗っ取って拠点にしようとしていたことは秘密だ。人間界は魔王の拠点に相応しい場所がたくさんある。人間共を従えて天使に挑めば、復讐が出来る。

「ふははははは!!!余の前にひれ伏すがいい!人間共め!!」

「あらあら?マオウさんって、演劇の人?すごい演技ね!背も大きいし、髪もすっごく長いし……もしかして有名な俳優さんだったりするのかしら。うふふふ」

「なっ……!」

慌てて振り返ると、マオの母親が服を持って立っていた。

「き、貴様も余の支配下に入るのだぞ……」

「きゃー、怖いわ。うふふふ……。お着替え、ここに置いておくわね」

「……」

ちっとも怖がられなかった。ショックを受けていると、廊下からマオの声が聞こえた。

「マオウさん、こっちこっち。お風呂」

「む……」

服を抱えて廊下に出る。長い廊下を歩いて風呂場に入ると、甘い匂いがした。

「なんだ、この匂いは」

「入浴剤。うちはいつも入れてるんだよね。ほら、このバラの香りってやつ」

入浴剤が入っていたパッケージを見る。ピンクの文字で「バラの香り」と書いてあった。

「疲れ取れるよー。オススメ」

マオはそう言い残して出て行ってしまった。

「バラか」

服を脱ぐ。魔界で魔王になるために毎日闘っていたときの傷は綺麗に消えていた。人間の体になったときに消えたのだろう。

「余の勲章が……」

魔界では背中や胸の傷を見せれば大抵の魔族は恐怖で逃げたものだ。

ーふははははは!余は強いのだ!!!

「……」

今、目の前の鏡に映っているのは、ただの三十路のオジサンだった。人間というのは、こんなに弱い……。

「余は、力が欲しい……」

バラの香りの風呂に浸かる。良い匂いだ。一気に体が軽くなる。

「力が……足りぬ……」

どうしたらあの忌々しい天使たちに復讐が出来るだろうか。また魔界で暴れることが出来るだろうか。

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