第5話

「細かいことは家に連れて行って決めればいいよね」

マオの一言で今日の魔王の処遇が決まった。しばらく歩くと、アンリが「あ、じゃあうちここで曲がるから。またね」と手を振った。

「ん。じゃねー」

「マオウさんもまたね!」

「あ、あぁ」

人間の挨拶を理解できなかった魔王はぎこちなく手を振った。マオが歩き出したので、それに着いて行く魔王。

「マオウさん、本当にホームレスなの?ケーサツ行った?」

「ケーサツ……帽子を被った人間共のことだな。散々な目に遭ったぞ。人間の服を無理やり着せられた」

「え!ヤバ!もうお世話になった後だったのー!?そのときに『家がないです』って言っちゃえば良かったのに」

「む……」

薄々気づいていた。金もなく、知人もいないこの世界で自分が生きていく手段は誰かに頼ることだと。しかし、魔王はいつも魔界のトップだったのだ。誰かに頼られることはあっても、頼ることはなかった。だから、どう頼ればいいのか分からなかった。

「貴様は……」

「ん?」

「貴様は何故、余を助けたのだ」

目の前の少女は、得体の知れない金髪の大男に傘を差した。あのとき……今もだが、自分は弱っている。弱い者を助けるなど魔王にとっては有り得ない行為だ。

「うーん……」

マオは少し考えてから

「今日の英語の授業さ、道に迷った外国人に英語で話しかけて助けるってやつだったんだよねー」

と、はにかんで言った。

「?」

「マオウさん、金髪だったし。日本人よりも体でかいし、外国人かなーって思った。ま、キョドって日本語で話しかけちゃったけど」

「そ、そうなのか……?」

理由になっていない。自分を何かの交渉に使うために捕まえたり、弱らせたところを狙って封印したりするためならば、彼女が声をかけた理由になると思っていたのに。

「うーん、まぁでもそれだけ。うん」

「理由になっていないぞ!?」

「強いて言えばさっき言った通り……ちょっと英語で話してみたかっただけだよ。うち、国際結婚とか憧れてるからさ」

魔王は唖然とした。

「何でもいいじゃん。ハンバーガー、美味しかったでしょ?」

夕暮れに照らされたマオがくしゃっと笑う。その表情は魔界では見たことの無いものだった。そんな顔をする魔族はいなかった。少なくとも自分の支配下に置いていた部下たちには。

「……」

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