第2話

「腹が減ったぞ……」

警察署で検査をされてから一日が経った。人間界の貨幣の仕組みが分からない魔王は、店のショーケースに並べてあるケーキの買い方も分からない。

「ぐっ……魔法が使えれば、こんな人間界など!一瞬で塵にしてやれるというのに……!」

路地に座り込んで拳を握る。魔界にいるときの自分は大きな角と牙と尻尾と翼と……とにかくいろいろついていたカッコイイ存在だったのに。魔界で一番魔力を持っていて、一番……!

「余は!偉いのだー!!!」

「ママー、何あのオジサン。変なのー」

「み、見ちゃいけません!」

人間の子どもの瞳に映る自分には自分の角も牙も翼もなかった。惨めで、悲しくて、涙が溢れ出す。ぽた……。空からも水が落ちてきた。雨だ。

「あ、雨……」

魔王は雨に弱かった。炎を扱う魔法が得意だったからだ。五十年前の魔王を決める闘い、その決勝戦で当たった魔族の男も水魔法の使い手だった。かなり苦戦したが、勝利を収めることができたことを思い出す。

「余はあの男にも勝ったのだ……」

なのに、今のこの無力な体はなんだ!!!腹が立って仕方がない。

「寒いのだ……」

人間共はあたたかそうな服を着て軽い足取りで歩いている。あれを奪ってやろうか……そんなことを考えていると、ふと雨が止んだ。


「オジサン、どーしたの?」

「やば!めっちゃ濡れてんじゃん!寒くね?」


高い声が聞こえて、顔を上げる。短いスカートを履いた女子高生二人が傘を差して立っていた。


「なっ……」


「ホームレス?」

「道に迷ったんじゃね?」

「あーね。でも、あんたの背中びしょびしょだよ」

「えー?いいよ別に。オジサン寒そーだし。うち家帰ったら着替えあるし」

「そか、やさしーじゃん」

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