第6話 献立

 放課後。

「王子様待たねー」

「おう、待たな」

「王子、私頑張ってくるね」

「全力で頑張ってこい」

 各々が部活道に散っていく最中、帰りの挨拶を交わしていく。

 帰宅部の俺は、やっと終わったかと、しばし椅子に座ったままのんびりする。

 窓からグラウンドを眺めていると、サッカー部の男子がボールを部室から運び出していた。

 その中には昼飯を一緒に食った戸田の姿もあり、部の連中と楽しそうに奇声をあげていた。

 楽しそうで何よりだ。

 俺もああいった中に混じりたいが、如何せん体力も筋肉もないヘナチョコだ。

 運動部は向いていない。

 正直、羨ましい。

 とはいえ、俺は対人関係にパラメータを全振りしているので、たとえ身体的に問題がなかったとしても、精神的疲労で動く気力がわかなそうだ。

 もっと器用にやれればいいんだが。

 などと自省していると、熱い視線を感じた。

 反対側のグラウンドに目をやれば、藤野が胸に手を当てこちらを見上げていた。

 心臓を捧げるポーズだろうか。

 お前は何と戦っているんだ。

 お前の心臓など俺は要らんぞ。

 困った奴だがあれでもクラスメイトの一員だ。

 軽く手を振ってやれば、嬉しそうに身体を震わせていた。

「優しいねー、王子は」

 後ろを振り返れば、岩島さんはまだ席を立っていなかったようだ。

 藤野に手を振る姿を見られたのが少し恥ずかしい。

 誤魔化そうと話を逸らすことにした。

「料理研究部だっけ? 今日は部活はないの?」

「毎日料理してると部費が足りないからねー。今日はお休みで、今後の献立なんかを考えてるんだよ」

「へぇ、言われてみると、毎日料理してると具材も馬鹿にならないもんな」

「そだよー。王子といるとほんわかした気分になれるし、どうせなら王子が帰るまでここで考えよーってわけなのです」

 嬉しいことを言ってくれる。

 同い年だけど、妹みたいな雰囲気がある。

 だから俺はついつい甘やかせてしまうんだ。

「じゃあキリのいい所まで俺も付き合うよ」

「ほんとに? やったー!」

 可愛いなぁ。

 さすが我がクラスのマスコットキャラクター。

「王子は何が食べたい?」

「俺の好みが参考になるのか?」

「何なら食べに来てもいいよ。みんなもきっと喜ぶし!」

「嬉しいけど、それは遠慮しておくよ。男子たちに恨まれそうだ」

 めっちゃ行きたいけどね!

「そかー、残念」

 しゅんとした岩島さんの頭を撫でてやる。

「機会があれば食べさせてね」

「うん!」

 それから一時間ほど岩島さんと献立についてあれこれ話し、日も暮れてきたので一緒に下校することになった。

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