第4話 私が盾になる
クラスメイトたちと挨拶を交わし、席につく。
俺の席は前から二番目の窓際だ。
「ねぇねぇ、王子、髪触ってもいい?」
着席した途端、後ろから岩島さんの声が響く。
「いいよ、優しくね」
岩島さんは童顔な女の子。
小柄で、それでいて巨乳。
男子人気は高い。
女子からもマスコットとして可愛がられている。
綺麗でスレンダーな苗橋さんとは対極にあるが、同じくらいモテる子だ。
そんな岩島さんであるが、小柄なことがコンプレックスであり、何故か、俺に憧れている。
「王子みたいに背が高くて綺麗になりたいなー」
髪を優しく撫でながらそんなことを言ってくる。
「いや、憧れるなら苗橋さんにしときなよ」
俺は髪をされるがままに、一限目の数学の準備をしながら口にする。
「栞ちゃんも綺麗だけど、私は王子派なのー」
何故に女子の橋苗さんと派閥争いをせにゃならんのだ。
「俺みたいになったら困るでしょ。筋肉とかムキムキになっちゃうよ?」
「……」
あれ?
無言なのが気になり後ろを振り返ると、岩島さんは可愛そうな目で俺を見ていた。
「いや、ちょっとは筋肉あるからね?」
無言のまま頭を撫でられた。
慰めてるのかこれ。
情けなくなってくるな。
「はぁ、筋トレし……」
溜息と共に漏れた言葉は最後まで言うことなく遮られた。
岩島さんにがしっと両手で頬を掴まれたのだ。
「ダメだから! 王子様に筋肉とか絶対要らないから!」
おい、それはもう、王子様じゃなくお姫様じゃないのかと。
周りを見ると、みんなもうんうんと頷いていた。
筋トレ禁止が共通認識としてあるのかよ!
「分かったから、落ち着こうね」
岩島さんの手をタップすると、我に帰ったのかようやく離してくれた。
「王子は俺らが守ってやるから、筋トレなんか禁止だぞ!」
隣の席の野球部員――藤野が俺を窘めてきた。
いやまじで、俺の立ち位置ってどうなってんだよ。
何で王子が守られる側なんだ。
王子様の本来の役どころは、颯爽と現れて助けるみたいな感じだろ。
「いざとなったら、私が盾になるからね!」
待って岩島さん。
提案はありがたいけど、俺が鬼畜に見えるだろ、その絵面は。
まじで、『さながら誘』が混じってからの俺は、天然記念物みたいな扱いだ。
男女共に、過保護にしてくる。
仮に、俺の女装した姿を見せたらどうなるんだろうな。
想像しただけで背筋が寒くなる。
「おーい席につけー」
担任がやってきたのでショートホームルームの時間だ。
こうして毎日心の中でツッコミ続ける日々。
願わくば、平穏な一日を過ごしたいものだ。
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