吸血魔王の雑談配信


「さぁ魔物共、跪きなさい」


[セレネ様ばんわー]

[お側に]

[今日も相変わらずのロリボ]

[安心した]

[ロリ可愛い]


「ロリじゃないんですけど!?」


 最早ロリと言われたら反射的に出るようになったその言葉。

 いつも思うんだけど、どこをどう聞いたら私の声がロリ声に聞こえるんだろうか?

 弟に確認しても姉さんは大人っぽい声って言ってくれてるのに。

 いやいい、もう慣れた。私だって一年は配信をしている系の最強吸血鬼だ……今更ロリと言われて動揺するようなクソザコメンタルではないのだ。


[助かる]

[今日の一ロリ]

[あ、ロリじゃないんだが数える兄貴だ]

[いやあれは姉貴だぞ]


「初めて認知したけど、何なのよそいつ?」


 今までの数えられてたんだ。

 というか、数えられる程に私さっきの言葉言ってたの?

 流れるコメントの中で見つけたそのコメント。

 そこで知った私の視聴者がやっていることに戦慄しながらも、私は雑談を続けていく。

 

「そうだ。そういえば今度コラボをするわ、相手は妖ぷろの浮世鴉よ」


 ある程度話し続けて丁度良い頃合いになった頃、私は念願叶って手に入れた彼と話す機会――というよりコラボの話を視聴者である魔物達に伝えることにした。

 コメントの反応はまちまち、楽しみって言ってくれる人もいれば杞憂する人達もいる。私だって知らない男性とコラボするという話だったら怖かったけど、彼は別だ。

 

「彼とのコラボは安心して欲しいわ、私の勘だけどいい人だと思うの」


[魔王様の勘なら安心だ]

[自分が知る中で最強の勘を持つ魔王様の言葉なら大丈夫だね]

[ガチャを回せば全て言った通りの結果を引く能力を持った最強の吸血鬼だからね]

[運が絡んだ物だととことん強いゲームよわよわ魔王]


「私、ゲーム弱くないの]


[いや弱いでしょ]

[レースゲーめっちゃ下手じゃん]

[妖狩りで鎌鼬に負けてたじゃん]


「弱くないわ、あれはゲームの難易度が高いだけよ」


[弱いぞ]

[認めてくれ]

[君は……弱いんだ]

[ゆーしゃに十連続で負けたのは誰だろうね?」


「あれはソルが強いのよ、だから私は弱くないの」


 そうだ。私は決してゲームが下手というわけじゃない。

 それどころかとても強いのだ。だってソーシャルゲームのガチャで天井とかしたことがないのだから。ソルがいくら注ぎ込んでも出なかった人権キャラを単発で二枚引いたし、ゲームには強いのだ。

 ガチャゲー的には弟に勝ってるので、私の方が多分強い――QED証明完了。


「いいかしら魔物共? 私はね、勝利数的に言えばソルに勝ってるのよ? だから私の方が強いの」


[そうですね]

[確かに運ゲー最強だもんね]

[不正が出来ないじゃんけんゲーで視聴者相手に六百人抜きする化物魔王だしね]

[あれはなんだったんだろう?]

[とても恐怖を感じた]


「思い返してみなさい? ってもういいわねこの話題は、それよりコラボの件よ」

 

 こんなどうでもいいことよりコラボだコラボ。

 私達を救ってくれたあのヒトと久しぶりに絡む機会。

 それを想像するだけでも頬が緩むし、何より今から楽しみで仕方ない。


[めっちゃ楽しみにしてて可愛い]

[何やるか決まってるの?]

[初コラボだし雑談?]

[歌枠かもよ?]


「ふふふ、そこは安心して頂戴」

 

 コメントを確認した瞬間に漏れる笑い。

 何故かと言えば彼とやるゲームをもう決めているからだ。


「彼とやるのは所謂馬鹿ゲーと呼ばれてる竹おじね。それで先にゴールした方の勝ちのルールでやるわ」


 記憶が確かならかぐや姫に憧れた系おじさんが竹に入って月を目指すとか言うゲームだった気がするけど……どんな思考回路だったらそんなゲームを思いつくのかしらね。


[どうしよう落ちまくる魔王様の姿が容易に想像できるんだけど]

[キレてそう(小並感)]

[ご冗談でしょう魔王様]

[貴女にそのゲームは酷では?]

[やめるんだ。勝てるわけがない]


「あれ、おかしいわね……どうして私が負けるみたいな空気なのかしら?」


 どういう事なのかしら?

 私は最強の魔王であり吸血鬼なのよ、確かに彼に負けるというのは興奮するけれど……それはそうと勝負事で負けるつもりなどないわ。


[そういえばコラボのきっかけって?]

[気になる]

[どういう経緯なの?]

[魔王様が誘ったんでしょ?]


「きっかけかしら? それなら大層なものじゃないけど私が彼と話してみたかったからよ。あとは社長が妖ぷろのライバーとコラボしてる私達の姿を見たいって言ったからね」


 表向きとしてはそんな理由、だけど本当は生きていた彼とまた話したかったから。

 思い出すのは彼と出会った最初の記憶。雪の日に手を差し伸べてくれた彼の姿――何処までも優しく私達を守ってくれた彼の事。


[相変わらずの社長で安心した]

[異世界バーチャルズの社長はVTuber限界民だからね]

[自社の社員に話しかけるだけで限界化するやべぇ社長]

[大丈夫? コラボしたら社長の精神果てない?]

 

「大丈夫よ既に真っ白になってるから」


[何も大丈夫じゃなくて安心した]

[草]

[黙祷]

[おかしい人をなくした]


 あの時は本当にビックリした。

 コラボしたいわって言った瞬間に後ろに倒れて失神したんだから。

 しかもなんか奇声上げながら、推しが推しと絡もうとしてる尊いとか訳分からない事言ってたし、うちの箱の社長は本当に大丈夫なのだろうか?


「とにかく、明後日コラボするから楽しみにしてて頂戴ね」



 夢を見ている。

 いつかの忘れられない夢を見ている。


『なぁ主ら、笑わないと楽しくないぞ?』


 そのヒトにあったのは偶然……いや運命といってもいいだろう。

 五百年前の雪の日に、私達に手を差し伸べてくれた彼の姿……それは今も覚えていて、忘れる事が出来ない大切な記憶だ。

  

『ねえ、どうして私達に優しくしてくれるのかしら?』


 助けてくれて、一時期の間私達を育ててくれた彼に一度気になって聞いた事がある。

 だってそうだろう? 彼からしたら私達を育てるメリットなんてないし、何より本来無関係な筈で何の義務もないはずなのに私達を守る理由が分からなかったからだ。


『誰かに優しくするのに理由とか必要ないじゃろ? 強いて言うならあれじゃな、主らのような子供が笑ってないとムカつくっていう理由じゃな』


 聞いて見たら彼はそんな事を当たり前の様に言い放った。

 最初はなんだそれって思った。ムカつくってなんて自分勝手な怪物なのだろうって……だけど、それと同時にこのヒトはどこまでも優しい怪物って事を理解した。

 たった五十年だけだけど、私と弟のソルを守ってくれた彼――浮世鴉。

 私達に生き抜く術を与えてくれて、何より愛情を与えてくれた異国の化物。

 両親から捨てられた私達を――同族にすら恐れられた私達に無償の愛を捧げてくれたあのヒト。


「……今日、また話せるのね」

 

 目が覚めて来るはコラボ当日。

 これが終わったら弟に自慢しよう、私の方が先に彼と話したって。

 でも一つ心配だ。数百年ぶりにちゃんと私は彼と話せるだろうか? いつものようにちゃんと私のままでいられるだろうか? ……どうしよう今から心配になってきた。


「まあやるしかないわね」


 そう言ってから私は今日やるゲームを練習しようとしたんだけれど……その瞬間、一件のメッセージが私の元に届いたのであった。


「誰かしらって――鴉さん? え、なんで?」









 

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