【百鬼ノ宴】飯ウマ妖怪は誰だ!? 料理王決定戦!!! 其ノ一


 始まってしまった料理配信、本来ならメイドを演じるだけの筈だった企画……だったのに阿呆な幼女のせいで儂は何でかメイド服。

 既に頭が痛い状況に、追い打ちをかけるような服装暴露。

 加速するコメントと、哀れむような二つの視線……それに早速入れた気合いが死ぬのを感じながらも儂は表情に出さぬように先輩の言葉を待つ事にした。


「まあこれで全員の紹介を終えた訳だ。ツッコミどころある奴が二匹ほどいるが、そこは気にせず今回の企画の説明をさせて貰うぞ、というわけでこいつを見てくれ」



料理王決定戦簡易説明

・食材は自由

・妨害禁止

・制限時間六十分ぐらい

・猫に酒を与えるな

・猫禁酒



[制限時間適当で草]

[結構普通なルール]

[食材自由に嫌な予感がする]

[最後の草]

[禁止されてて笑うわ]

[あれ既に飲んでなかったっけ?]

[あっ]


 コメントを見る限り、今頃最初立てられていた予定通りに今回の企画の簡単な説明が画面に映っていることだろう。確か妖ぷろのスタッフが作ってくれたのは覚えてるが、どんな内容じゃったっけ?

 そんな事を思いながら配信を映してるモニターを見てみれば、そこには仙魈先輩に対する酒を禁止するようにとの文字が記されていた……。


「あの神虎様……お酒――」

「……それ以上言うな、あの馬鹿は禁止しても飲むんだ。まあ、流石に始まる前に飲むのは予想外だったが……」


 顔に影を宿した様な先輩のその表情。

 それだけで今までの苦労が感じられる気がして、こっちの胃まで痛くなってくる。

 この配信が終わったら、なんか先輩に奢ろうとそう思いながらも彼の指示に従って別室に行き、早速料理をしていくことにした。


「始めますがマヨイビトの皆様、改めましてこんにちは妖ぷろ三期生の浮世鴉メイドバージョンです」


 ここからは儂のチャンネルでやる事になっているので、改めて視聴者達に挨拶をしてから一度お辞儀した。

 今回のこの料理企画は、司会である神虎・仙魈先輩と鶫達の視点は妖ぷろのメインチャンネルで配信され、儂ら料理する側は自分のチャンネルで配信するというものとなっている。

 ちょっと複雑な企画になっているが、やっぱり推しの視点とかを見たい人に対する配慮としてはこういうのはやった方がいいという神虎先輩の提案でこういう形式になったのだ。

 

[メイドバージョン口で言うのか]

[気になったからこっちの枠来たけど、この妖怪は性別何なの?]

[性別は鴉]

[なんでロリ声がこんなに違和感ないんだ?]

[そりゃ鴉様だから?]


「あと今回の配信では他の方が何を作ってる・もう完成している等のコメントは止めてくださいね」


 この企画的にそういうコメントがあると儂らが楽しめないのでここは釘を刺しておく。

 所謂鳩行為と呼ばれるそれは普段は見かけないが、面白がってやる人もいるので注意は大事だからだ。


「それじゃあ早速料理を始めていきますが……ででんっ、ここで一つ問題です! 今日私は何を作るでしょうか?」


 私はそういってから今日作るメインの料理の材料を配信画面に表示してから視聴者達に問題を出すことにした。

 このまま素直に料理を作るのも良いが、やはりこういう企画ではちゃんと視聴者の方々と楽しみながらやりたいからだ。


使う材料

・牛ヒレ

・塩

・粒の黒胡椒

・ブランデー

・赤ワイン

・フォンド・ヴォー(自作)


 まあ正直フォンド・ヴォーと表示してる時点で、知ってる視聴者にはフランス料理って事が分かるだろうから、簡単な問題だろうけど、まあそこはいいだろう。

 そう自分で結論づけてから、横目でコメント欄を見て視聴者達の反応を待ってみれば、


[ででんっ]

[可愛い]

[この妖怪推さなきゃ(使命感)]

[この材料だと……がいこくのりょうりだな!]

[鴉様だと和食作りそうだったけど、メイドバージョンだから外国の料理なんだ]

[フォンド・ヴォー使うって事はフランス料理?]

[というかフォンド・ヴォー自作は草]


 ちょっとふざけてやったででんって部分に注目されたり、博識兄貴がいたり、自作の部分に反応してくれる優しい視聴者の姿を確認することが出来た。

 それに満足して自然と頬が緩んでくるが、流石に強いメイドバージョンでやると決めたからにはそんなだらしない表情を見せるわけにはいかないので、すぐにキリッとした表情に戻すことにした。


「ふふっ、そうですよ自作したんですよ。まあちょっとそのせいで寝不足なんですがね」


[はっ、閃いた! これは可愛いメイドだ]

[キリってなった瞬間に可愛いこと言いだして頭バグるかと思った]

[こいつは男? いや女性? え? なんなのまじで]

[切り抜きで見たイケメン鴉の面影がないんだけど]

[雇わせてください]

[嫁になってくれないか?]

[いや俺が貰う]

[婿にならせてください]


「駄目ですよー、今の私は妖ぷろのメイドなので仕えられません」


 流石にここまで演じればメイドになりきる事は苦でない。

 だからこれからは羞恥心に怯えることなんてないし、さっき以上にメイドに儂はなれるだろう。


「ですが……そうですね、もしもマヨイビトの皆様中に妖怪がいて妖ぷろに来てくれるのなら仕えてあげても良いですよ?」


 なんか楽しくなってきたので、料理を進めながらカメラに向かって上目遣いでそう言ってみることにした。

 ちょっと悪ノリが過ぎたかもしれませんが……ちょっとどんなコメントが来るのか気になったので後悔はない――と思ったのですが、


[よし輪廻転生してくる]

[山っていけば妖怪になれたっけ?]

[海の中で半年過ごせば海坊主になれるかな?]

[鳥人間コンテスト極めて天狗になるわ]

[地面に潜って怪異として語り継がれるか]

[皆人間止める覚悟してて草]

[ちょっくら百薬枡探してくる]

[私も同行しよう]


 予想以上の反響に一瞬で顔を引き攣らせてしまったのだ。

 え、何なのじゃ? マヨイビト達の団結力やばくないか? 儂、もしも此奴らが武士とかだったら勝てる気がしないんじゃが。

 あまりにも予想してなかった反応に、演じるのを止めて素に戻ってしまった。すぐに演じ直さなければいけないのだが、やはり衝撃というのは大きいモノで少し手が止まってしまう。


「あ……えっと、下準備も終わりましたので焼いていきますねー」


 まだ衝撃が抜けきれず震え声になってしまったが、そこは許して欲しい。

 そうやって心の中で見知らぬ誰かに謝ってから、粒の胡椒をまぶしたヒレ肉を暫くフライパンで焼くことにして、それにちょっとマイクを近づけてからちょっとしたASMRっぽい事をすることにした。

 

「今お肉を焼いていますよー聞こえますか?」


[飯テロが強すぎる]

[なんかあれだわ匂いを画面越しから感じられる能力欲しい]

[なにその能力凄い欲しいわ]

[ソレ凄く悪用出来そう]

[その能力は欲しいね]

[やっぱり人間止めるしかないのか]


 なんだその能力儂も欲しいぞ。

 そしたらよく深夜に見てしまう飯テロ動画で匂いを感じられて満足することが……いや、それはむしろ悪手ではないか? だって匂いは感じられるけど味わう事が出来ないからむしろ腹が空きそうな気がするのじゃ。


「確かにその能力便利そうですが、お腹空いてる時地獄じゃないですか?」


[あ、そうじゃん]

[盲点だったわ]

[深夜に発動したら死ねる自信あるわ]

[気づけて良かった]

[救世主鴉]

[新属性かな?]


「ふふ、助けちゃいましたね。感謝しても良いですよ……あ、そろそろオーブンに移さないといけませんね」


 平常心を取り戻したのでメイド口調をこれなら維持できそうだ。

 そう思いながらも、今回作る牛フィレ肉のポワレを仕上げるために焼きあげた三つのヒレ肉をオーブンへと入れることにした。


「じゃあこの後はソースを作って完成なのですが、時間も余ってますしついでにスープでも作りましょうかね?」


 今回は三人分の料理だったから多めに材料を持ってきてるし、多分余るでしょう。

 それなら余るだろうフォンド・ヴォーとソース用に持ってきた赤ワインを使ってちょっとしたスープでも作るのはありかもしれませんね。


「…………よし、ソースの完成です。あとはスープですね――あ、どうしましょう玉葱がありません」


 スープを作ろうとした所で気付いたのだが、今回私は使わないと思ってて玉葱を用意していませんでした。

 個人的になのですが、スープには玉葱が入ってないと落ち着かない私……玉葱なしスープは許すことが出来ないけど、もう作ろうと決めた以上今更止めるのはなんか嫌ですし……。


「そうだ。七尾様あたりなら多分持ってますよね」


 確か七尾様は色んな野菜を使って料理するわ……っと言っていましたし、きっと持っているでしょう。

 あの娘なら多分ですが分けてくれるでしょうし、ちょっと部屋にお邪魔させて貰いますか。


「七尾様、今いいですか?」

「もうすぐ終わるから良いわよ、でもちょっと待ってちょうだいね」


 そう言われたら待つしかないので少し待ってから、扉が開くのを確認して私は彼女にと用意された部屋に足を踏み入れた。

 何をしていたのだろうと思って部屋を見渡してみればその答えはすぐに分かった。

 彼女のテーブルの上に巨大なクローシュが置いてあったのだ。

 流石七尾様ですね、ちゃんと私に料理がバレないように隠してますね。


「もう料理は完成したからいいのだけど、急に何の用かしら?」

「えっと玉葱が必要になりまして、余ってないか聞きに来ました」

「玉葱ね、それなら二つほど余ってるわよ」

「貰っても良いですか?」

「ええ全然いいわよ。あ、それとちゃんと私の子狐達に挨拶しなさい、盛り上がってるわ」


 その言葉を聞いた私は、配信を確認できる用の画面を見てみたのだがそこには、今回の為に書かれた私の立ち絵が表示されていて、横のコメント欄がかなり盛り上がっている様子を見ることが出来たのだ。


[三期生てぇてぇ]

[優しい世界]

[やっぱり三期生仲がいいなぁ]

[鴉×式神妖狐……いいね]


「あ、どうも子狐の皆様浮世鴉メイドバージョンです。もうすぐこちらの配信も料理が終わりますのでよければ足を運んでみてくださいね」

「こら、私の子狐を取ろうとしないの。祟るわよ」

「怖いですね七尾様」


[これが伝説の挟まれるシチュか!?]

[ありがとう、夢が叶った]

[百合の間に挟まれてるような感覚だ]

[百合……なのか?]

[百合じゃね?]


「私は男なので百合じゃないですよー」


 これは本当に大事なことなのでそうやって釘をさしてから、私は自分の部屋に戻ってスープを仕上げてから皿に盛り付けて料理を完成させることが出来た。


「ちょうどいい時間ですし、さっそく持って行きますか。マヨイビトの皆様、今日は付き合ってくれてありがとうございます。私の枠は閉じますが、続きは妖ぷろ公式チャンネルでやりますので、どうか引き続きお楽しみください」


 

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