最近の妖怪事情
「とりあえずあれだ……お前何してるんだよ?」
席に着きいざ食事会、となった時最初に酒呑にそんな事を言われてしまった。
流れは一切なかったが多分VTuberやってることだろうな。
「いや、別に良いだろ俺がなにやったって……」
「それはいいんだよ、俺が言いたいのはな……なんでそのままの姿でやってんだって話だ」
痛いとこ突くなぁ……。
でもさ、仕方なくないか? 俺の事覚えている妖怪とか絶対少ないと思ってたし、何より現代に名前が残ってないのは知ってたから別に使ってもいいだろ的な感じだったのだ。
いや、でもその使った結果が妖怪スレのあの惨状だったわけだが……。
「何考えてるか大体分かるが、鴉……今の時代身バレは怖いぞ、それに妖怪の力使いすぎだ」
「アンタに言われたくないぞ、鞍馬の爺さん……」
一番天狗の中で常識はあるとはいえ、存在そのものがバグみたいなこのヒトは今の時代に戦国時代と間違う程の鍛錬量を課す道場を開いているのだ。そのせいでたまにテレビの剣道の大会とかでは最強人類決定戦が開かれているし……もうちょっと自重した方がいいと思うんだ。
それに比べたら俺なんて、変化と演技と追体験の力しか使ってないしめっちゃ慎ましやかに生きているぞ。
「どっちもどっちだ莫迦ダブル。配信見てたが鴉は自重しなさすぎだし、鞍馬の莫迦は俺の神社に弟子を送るな」
「そのぐらいはいいだろう、興が乗って育てすぎると人間では相手出来なくなるのだぞ?」
「……鞍馬の爺さんは置いといて、俺が莫迦扱いは違くないか?」
「はぁこれだから空を飛べる妖怪は……」
なんだろうか? すっごい莫迦にされたような感じがするのだが……確かに空を飛べる妖怪はヤバイ奴ばっかりな気がするが、此奴に言われるとなんか釈然としない。
「神仏に喧嘩を売ったお前が言うなよ、俺も駆り出されたの覚えてるぞ」
「ははは、あーあの頃のおれは若かったな……でも楽しかっただろ?」
「いや、まあ楽しかったけどさ」
此奴も此奴で百鬼夜行だーとか言って、妖怪連れて神や仏に喧嘩を売りまくった馬鹿だし本当にヒトに何か言える立場じゃないよな。まあそれにノって俺も暴れたから何か言えるわけでもないけど……。
「聞いてる限り、皆さんあまり変わらない気がします」
二つ目のオムライスを完食し、それをお茶で流し込みながら雫がぶっ込んできたのはそんな一言。
薄々気付いていた事だったが、急にぶっ込まれた正論……それは俺達に突き刺さり――――。
「おい鴉、この娘……空気読めなくないか?」
「……雫はいつもこんな感じだぞ」
「ぐさっと何かが吾に刺さったな」
俺達三体の妖怪を口撃だけで狼狽えさせたのだ。
その口撃のせいで言い合いを続ける雰囲気ではなくなり、気まずくなった俺は話題を変えることにした。
「そうだ。玉藻の奴アイドルやってるんだよな?」
色々聞きたいことはあったのだが、一番気になっていたのはこれだったのでこいつらに聞いて見たのだが、何でかアイドルという言葉を出してから二人が妙な反応をしたのだ。
「……どうした二人とも、急に黙って」
何かまずかったのだろうか? と、そう思い顔色を確認していると何かを決心したような表情で酒呑が口を開いたのだ。
「いや、ちょっとトラウマが蘇っただけだから心配するな。それで、やってるかどうかだろ? やってるぞ……」
「名前分かるなら聞きたいんだけどさ、これって聞いていいやつか?」
一応自分なりに色々アイドル調べてみたんだが、名乗りそうな名前で調べても出てこなかったし、あのヒトの事だし花言葉を入れたような名前だと思ったんだが見つからないんだよな。
酒呑の反応的に聞かない方が良い感じな気がするが、やはり好奇心には抗うことができないので出来る事なら聞いてみたい。だけど、微妙に引き攣ってる爺さんの顔的に聞かない方がいい気も……。
「……白銀妲己だ」
「え、そのまま過ぎないか?」
アイツは元々外国からやってきた妖怪で、昔妲己とか名乗ってたらしいのだが……流石に今も有名なのに元の名前のままで活動するのはヤバいだろう。
一度断りを入れて名前で調べてみれば、ヤバいほどの人気アイドルという事を知る事が出来た。
「というか玉藻の奴大丈夫なのか? 今スマホで見て見たが、容姿も狐耳隠したぐらいだし、陰陽師とかに襲われるだろ」
白銀妲己で検索してみて出てきた写真はアイドル衣装に身を包んでいるがそれ以外は平安時代で見慣れた姿。
あいつの絵は昔よく出回っていたし、現代でも陰陽師の間では残ってるだろうから危なくないのだろうか?
そう思い普通に心配でそんな風に聞いてみたのだが、それに対する答えは微妙なモノだった。
「それが……大丈夫らしいな。アイツ曰く、最近鬱陶しい陰陽師共が襲ってきたんですが、お話ししたら監視だけになったって言ってからな――まあ後は分かるだろう?」
それ陰陽師の上層部魅了された感じじゃないか……。
変な想像してしまったが、あいつに関わったのは確定だろうし多分魅了されてるんだろうなぁ。
「玉藻って有名な九尾の狐ですよね……改めて思うんですが、鴉様の人脈ってどうなってるんですか?」
「んー普通だぞ? ただ長く生きてるから知り合い多いだけだからさ、なんなら雫に紹介しようか? 人魚とか餓者髑髏とか蛟とか……あと誰だ? あぁそうだ土蜘蛛とか隠神の爺さんとか良い奴だぞ」
「あ、いえ大丈夫です。恐れ多いというか、なんというか……」
遠慮しなくていいのにな、皆良い奴だし何より今選んだメンバーは常識がある奴らだし、雫の事を知れば親戚おじちゃんみたいになってくれると思うし。
「土蜘蛛は違うだろ……」
「こいつに同意するのは嫌だが、吾もそれは同意見だ」
「えぇ……そうか?」
個人的にはあいつは古い妖怪の中ではかなりの常識枠だと思ってるんだが……だって、子蜘蛛の面倒見は良いし……やった悪行といえば都を襲ったぐらいだしな。
「ご馳走様です。そうだ鴉様、ちょっと先輩の所に用事があるので出かけさせて貰いますね。」
「ん、お粗末様。気を付けて行ってこいよ」
「主様私も食べ終わりましたので、掃除でもしてきますね。あと今日の家事は私がやらせて貰います。ですからゆっくりしてくださいね」
雫の後に続くように立ち上がった阿惟は、綺麗に完食されたオムライスの皿を全員分重ねて、そのまま台所に向かっていった。
そうして雫が出かけ阿惟が掃除に戻ったことでこの場には、三体の妖怪が残される。
「なあ鴉もう一つ聞きたかったことがあるんだが、お前はなんで配信中に性別変えるんだ?」
「………………成り……行き?」
「あ、それは吾も聞きたかったな。お前に性別ないのは分かってるが、男でいるときにどうしてああなる? なぜ童女になったりするのだ」
「やめろ、そこをツッコまないでくれ。本当にああなったのはマヨイビト達のせいなんだ」
俺はそういう妖怪だし望まれたらやるよね、だから仕方ない。
そう言いたかったが、それを言ってしまえばツッコまれそうだったので自重してとりあえず、視聴者に責任を擦り付けることにした。
「……人のせいにするなよ、まあでも楽しそうならいっか。あ、そうそう。お前明日女装するんだろ? いまからファッションショーでも始めようぜ?」
「What's? ちょい待て、明日はメイドの口調で参加するが実際に着るとか言ってな――待て、おい鞍馬の爺さん? なんであんたまで近寄ってくる?」
「すまぬな鴉、もう服は用意してあるんだ。大人しく着せ替え人形になれ。というかなってくれ、じゃなきゃ……吾らが死ぬ」
何かを思い出しながら哀愁ただよう表情でそんな事を伝えてくる鞍馬天狗。
逃げようにもこいつらから逃げるなんて余程速い妖怪じゃなきゃ無理で、あっという間に拘束された俺は、自分の部屋に連れ込まれて――――。
「あ、ちょ本当に待て、せめて変化させ――なんでウィッグまで用意してるんだ!? 離せ、まじで離してくれ、根元掴むな酒呑飛べなッ、つうかなんで狐が俺の部屋に!? ひゃっ、やめ――いやだメイドになりたくない!」
[待ってた!]
[この日のために仕事休んだ]
[この配信を肴にもやし食べるわ]
[今日のために断食した]
[というかサムネの鴉様草]
[一人だけ和服じゃなくてメイド服]
[50000円:しかもロリ]
[9000円:一人だけ浮いてて草]
[恐ろしく速いスパチャ俺じゃなきゃ見逃しちゃうね]
[俺も見逃さなかったわ]
「さぁ、川魚の諸君今日は俺ら妖怪の祭に参加してくれてサンキューな。今回の司会兼料理役を務めさせて貰う依童神虎だ。今日はお前ら川魚達に思う存分飯テロさせて貰うが、恨むなよ?」
[神虎様キター!]
[常識ポジが司会だこれはいける]
[今回はあの混沌料理作る妖怪はいないからきっと神虎様の胃は死なない(フラグ)]
[まあ胃が死んでも胡瓜あれば生き返るから大丈夫でしょ(適当)]
沸いていくコメントや神虎先輩の胃を心配したり胡瓜万能節を掲げるコメント。それにくすりと笑いそうになりながらも俺は、自分が紹介されるまでは気配を殺しただ黙って置物となる事にした。
「皆さんこんばんにゃー! 妖ぷろ二期生所属だった気がする
瓢箪が現れその中から煙の用に現れる吾らが先輩。
彼女は用意されていた司会席の前に立ち絵をおかれた後で元気よく挨拶した。
[どんな配信でも酒を飲むことを忘れない妖怪の鏡]
[そもそも料理できるんですか?]
[酒に酒かけて料理って良いそう(偏見)]
[流石酒猫]
「酷いにゃーね、そもそもウチ審査員にゃよ?」
「……早速馬鹿が一人見つかって胃が痛いが、最初のゲストの九十又仙魈だ。昼間の配信中に寝ないか心配だが、まあそこは阿久良の奴がなんとかしてくれるだろう……という訳で次のライバーの紹介だ」
[流されてて草]
[もう胃がいたそう(小並感)]
[そういえば酒猫ってカップ麺に熱燗注いで美味いって言ってたし味覚大丈夫なのか?]
[流石酒猫]
「うちの仙魈が本当にすまないな……改めて妾達の宴に参加してくれて感謝するぞ餌達には悪いが、今夜は食してやらぬが、存分に楽しんでいってくれなのだ」
[はい可愛い]
[#見習え酒猫]
[可愛い]
[癒やされるわ]
「対極的なコメントだが、俺もそれに関しては同意しよう。さて次は俺と同じ男枠そして癒やしになり得るかもしれない後輩の紹介だ。頼むぞ鵺?」
そして次は俺の盟友の番。
司会役として呼ばれたアイツは、雷獣らしく空から雷と共に降ってきて、
「ヒョーヒョーという鳴き声からこんにちわ、妖ぷろ三期生所属源鶫っです! 今日は待ちに待った料理企画、僕の尻尾の蛇も楽しみにしてましたし、今日のために1日断食した気がしますのででいくらでも食べれますよ!」
[(゚∀゚)o彡゜つぐみん(゚∀゚)o彡゜つぐみん]
[常識枠その2]
[気がするは草]
[癒やし枠]
こんなコラボでも全く緊張していないのか、いつも通りに挨拶をしちゃんとネタを入れてきた。
「あまり無理するなよ、さて次は個人的に未知の料理スキルをもつ式神妖狐の番だな」
「未知とは酷いわね、ある程度の料理なら作れるわ……あ、子狐の皆妖ぷろ三期生の七尾玲那よ。今日は料理企画という訳だからかなり練習してきたから安心して見てくれると嬉しいわ」
七尾も七尾でいつもの調子でそう言い、笑顔で視聴者に挨拶する。
それにやっぱり俺の同期は凄いなと思いながらも、自分の番は次なので心の準備をすることにした。
[可愛いけど、うっかりを発動しないか心配]
[なんか爆発させそう]
[基礎技能高いし大丈夫でしょ]
[まあ一個作るのは決まってるし失敗はしないでしょ]
[決まってるんだ]
[うんワサビ盛り寿司を酒猫に食べさせないといけないからね]
[そういえば罰ゲームあったわ]
「そうね今回のためにちゃんと山葵芋を用意しておいたわ。だから安心してね先輩」
「どうしよう……なにも安心できにゃい」
「そこは自分で罰ゲームを用意した過去の自分を恨むんだな……そして次が最後なんだが――ひとつだけ先に言わせてくれ、妖ぷろの悪乗りは怖いと。さぁ出てこい大妖怪」
そしてやってくる儂の番。
少し不穏な紹介に首を傾げながらも、ここは事前に用意した台詞通りにやらせて貰う。
「皆様こんにちは、妖ぷろ三期生の浮世鴉と申します。今回は妖ぷろのメイドとして妖怪の皆様に私の手料理を振る舞わせて貰います。お客様方もどうか、私達妖怪の宴を存分にお楽しみくださいね?」
用意された立ち絵は母親が2日で仕上げたロリメイド状態の儂。
普段の着物とは一変してこれこそがメイドという衣服に包まれている儂は、背や骨格なども少女に寄せられていて、それを見るだけでロリに対する執念のようなものを感じてしまうような一品だった。
しかもこの立ち絵に妖ぷろは本気を出してしまったせいで、頭を下げれば羽も一緒にお辞儀するようなモーションをするという素敵仕様。
[この妖怪一応男ってま?]
[だった気がする……]
[鴉様はやっぱり最強]
[ロリママメイド鴉爆誕]
[髪も伸びてロリっぽくなってる]
[可愛いまじで可愛い]
[違和感の消失]
「補足だが、この妖怪はリアルの姿でもなんでかメイド服を着ているぞ。俺も初対面は性別分からなくなったが、もうそういうもんだと思わないといけないレベルだったな」
「あの神虎様なんで暴露するのですか? 私、泣きますよ?」
司会である神虎先輩のこいつの性別は何なんだろうという視線を感じながらもそう言ったのだが、なんか言葉にしただけで涙が出てきたのだ。
何故かって? ふっそんなのは簡単だ。
だって今の俺は変化を許されない状態で女装させられているから。
これがもし、変化有りだったら遠慮なくロリ化してコスプレするのだが、人間がいるこの現場で妖怪の力なんか使えるわけがないので退路はなし……しかもそれに加えて今の俺にはある呪いがかかってるのでメイド服を脱ぐことが出来ないのだ。
[流石にリアルメイド服は草なんだ]
[あたま妖ぷろ]
[鴉様はやっぱり最高]
[リアルメイド鴉]
[あんまり思っちゃ駄目だけど見てみたい]
[モデルの顔赤くなってて最高]
[これを聞いた俺らも困惑してるけどライバーが一番困惑してる説]
まじで恨んでやるからな酒呑童子。
配信終わったら覚えとけ……そんな呪詛を込めながらも、配信から手を抜くことなど出来ないので俺は覚悟を決めて羞恥心を消しながら頑張ることにした。
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