料理ってたまに熱中すると作りすぎるよね
秋の山に広がっていたのはあまりにも異質な景色だった。
空には太陽が輝き、海の中に月が沈み、桜が舞い雪が降り、地面には紅葉が散らばっていた。
そして……紅葉をより紅く彩るように、夥しい程の血が撒き散らされているというあまりにも現実離れしたこの劇場――そんな場所で儂は下に倒れる友を見下ろしていた。
『終いか……いや、まだいけるだろう阿久良? 儂に劇場まで出させたんだもっと魅せてくれ』
『あはははっ分かってますよ、そんな事! まだですっ、私はまだ生きている!』
変化が解け始めていて、もう限界であろう筈の友はそれでも心の底から笑っている。
時間が経つごとに、動きは悪くなっているのに、もう動くのも辛いはずなのに……それでも、此奴が纏う覇気は一切衰えず、それどころか目に見えて増していき止まる気配を感じさせないのだ。
『そうか……ははっそうじゃな、主はこの程度では止まらぬ妖じゃ!』
そうやって笑い、空中に百を超える氷柱を作りだし彼目掛けて全てを撃ち出す。
一撃一撃が即死級の氷塊、それを笑いながら砕き、異常な速度で迫ってくる親友を儂は刀を作り迎え撃つ。
二日は続いている此奴との遊びは、一向に終わる気配がなく……むしろ永遠に続くように感じてしまう――だけど、そう感じていてもも限界というのは来てしまうもので、今から二刻程で阿久良に変化が訪れた。
『ごッつ……』
それまで限界を感じさせながらも、高速で動いていた阿久良が急に止まり大量の血を吐いたのだ。
それに儂は怯んでしまい、手を止めかけたがそれを此奴が許す事などなく疲労を感じさせる顔でしっかりと蹴りを入れてくる。
『親友、まだですよ。まだ動けますだから手を止めないでください……全力全霊で私の最後を!』
『ッ……無粋であったな、詫びるぞ阿久良――だからこそ、これで終いじゃ』
『それでこそ、貴方です』
今この場に広がっているのは、儂の術で作った劇場。
儂の場を整えるという能力を最大に使い、それに妖術を混じり合わせて出来た特殊な結界。劇場の中身を指定して、それに反しない限りは壊すも創るも自由な大舞台。
『この一撃を手向けとしよう』
本来この劇場の最後は爆破で終わり、儂以外を全て壊すという風にしていたのだが……此奴を送るにはそれでは駄目なのだ。
だからこそ儂は、この場で一つ技を作る。
この劇場は太陽と月そして四季を基調に創った場所で、それに関わるモノなら全部自由に使って戦う事が出来る。今までは冬の力の後に夏の力といった風に戦っていたが、最後は全部同時に使ってしまおう。
『終幕・四季陽月』
空から太陽が落ちてきて、湖から月が昇り相手に迫る。
逃がさないように海が相手を囲み、桜と紅葉が刃のように飛んでいく――そして最後に、儂の手にある刀から斬撃を飛ばす。
『鬼狐炎葬』
儂の最新の技を迎え撃つのは、彼が使える最大にして最強の自爆技。
彼に向けられた信仰心や悪意などの想いを燃料に放たれる鬼狐の業火。
この世の全てを焼き尽くしかねないそれを纏いながら、阿久良は迫ってきて儂の技を燃やしながらここまでやってきた。
満身創痍な彼は、技を潰す度に傷を増やし儂の元に来る頃には変化も解けて元の姿に戻っていた。
『あぁ、限界です。ありがとうございました。また……いつか会いましょうね親友』
『じゃな阿久良王、またいつか』
最後に笑顔を浮かべて、儂は彼の首を刀で刎ねて彼を送ることにした。
その瞬間、阿久良は金色の光となって飛び散ってその全て狐に変わり何処かへ旅立ち始める。
そういえば昔こいつは、死んだら狐に生まれ変わるって契約してるんですよねとか言ってたが、この様子だとあれは本当の事だったらしい。
あの狐の特徴的に瑜伽大権現との契約だろうが、あのヒトの眷属にでもなったのだろうなと……そんな事を思いながら儂は酒を嗜み見送ることにしたのだが、いつまで経ってもこの場から動かない狐がいたのだ。
『ん、なんじゃ? 主はいかんのか? ……これは手紙?』
最後に残った狐がどこからか紙を取り出し、儂に渡してくる。
粋な事をするなと思いながら儂はそれを開き読んで見ることにしたのだが、それを見てすぐに儂は笑ってしまった。
『ふっ彼奴らしいなぁ、この狐を頼むそれと、「前の遊戯の続きをしましょう。私の子孫と縁を結べたら何か言葉を残してないかと聞いてみてください」か……この内容的に自分から探すのは違うじゃろうし、縁があったらやってみるか』
手紙を渡して役目を終えた狐は、儂の事を上目遣いで見てくる。
そんな彼女の頭を撫でた後に儂は、その狐を頭に乗せてこの場を後にすることにした。
『そうじゃ名前は……
彼奴の一文字に、惟という文字を合わせた名前。
意味は特にないが頭に浮かんだのがこれだったし、これが一番良いという風に勘が働いているし、きっとこれでいいだろう。
一応これでいいか確認するように返事を待ってみれば、その狐は元気よく鳴いてくれたので反応的に好印象。
『その反応、気に入ったようじゃな。じゃあ阿惟帰るぞ』
気に入ってくれたのか満足そうな気配を出してくる彼女一度撫でてから儂は、新しくできた家族を背中に移し空へと飛び立った。
――――――――
――――――
………
……
朝日が部屋に射し、久しぶりの自分の布団で目を覚ました俺が最初に感じたのはとても気持ちのよい懐かしい何かの感触だった。
「ん……あぁ? ……何かの毛か?」
何かを確かめる為に数十秒間触ってみれば、それは何でか撫でなれた感触で暫く触って動物の毛だって事を理解出来た。触ってて気持ちい毛並みに暫く癒やされながら撫でていると、睡魔に襲われてしまいすぐにこの毛の中で眠りたくなってくるが、毛の主はそれを許さないようだ。
「ちょやめろ、噛むな俺を噛むな……というか誰だよ、こんな朝から」
急に撫で回したのは悪いかもしれないが、俺の頭を噛むのは違うだろう。
とりあえず離してくれた後で俺は、噛みついてきた上に布団に忍び込んだ不届き者の姿を確認することにした。
「って阿惟かよ……何年ぶりだ帰ってくるの? というか、お前デカくなってないか? 前はもうちょっと小さかった気が……」
そこにいたのは今朝の夢に出てきた妖狐。
俺の布団を占領する彼女は、少し冷ややかな目でこちらを睨みながらも、久しぶりに会った事の喜びが隠せていないのか六本ある尻尾が揺れていた。
「え、女性にデカいは言うなって? いや、どう考えてもお前はデカ……いやごめん、謝るから頭噛もうとするなよ」
とりあえず噛もうとしてくる家族を抑えながらも俺は着替えることにして、そのまま昨日仕込みをしておいた食材を調理するために俺は台所に向かうことにした。
「そういえば土曜の配信で猫先輩負けたからわさび寿司食べることになってるんだよなぁ」
昨日の夜帰ってきたらやっていた竹おじコラボ配信は、なんともカオスなものに仕上がっており騙し合いや先輩がドラえもんになったりとか色々あったが、無事に霞が勝利して先輩は料理企画の最中に特盛りワサビ寿司を食べることになったのだ。
「寿司は霞が作るらしいが、どんぐらいワサビ入れるんだろうな……っといけね、卵が半熟じゃなくなる」
料理企画のためにオムライスを練習しながら昨日の動画を思い出していると、卵に火を入れすぎてしまいそうになったので、急いでフライパンから卵を取り出して事前に作っておいたシーフードライスにそれを載せて包丁で割っておく。
あとはデミグラスソースを作って完成……なのだが、どうにも加減が難しくて納得いくソースが出来ないのだ。
そのせいで居間の机にはソース以外は完璧なオムライスが大量に並んでいて、どう処理しようかめっちゃ悩んでいる。一応儂一人でも食べることは出来るが、流石に十五人前のオムライスとか体重計が敵になるので食べたくはない。
「鞍馬の爺さんとか、酒呑でも呼ぶか? それに土蜘蛛一家なら全然食べれるだろうし……」
そんな事を思いつき、すぐにスマホで連絡を入れてみることにしたのだが――一向に繋がらない。
いつもなら2コールぐらいで皆出てくれるのに、どうしたのだろうか?
「あっ繋がった」
とかそんな事を考えていると、三人目にかけた酒呑とすぐに繋がった。
『なんだ鴉、こんな朝っぱらからおれに何のようだ?』
「いやさ、飯作り過ぎたから、知り合いでも呼んで処理しようかって思ってさ。お前どうせ暇だし来るだろ?」
『ヒトを年中暇みたいに言うなよ、おれだって忙し……くないな。すぐいくわ』
「了解、雫には話通しておくが普通に玄関から来いよ、三年前みたいに生首で現れたら祓われるぞ」
『分かってるって、おれもアレは死んだかと思ったからな……まあもう死んでるんだけど』
「はは、とりあえず冷める前には来いよ。じゃあまた後で」
そう言って電話を切った後で、鞍馬の爺さんからLINEが届き何の用だと聞いてきたので、飯を作りすぎたからこないかと聞いて見れば、数秒後に「すぐ向かう」とだけ送られてきた。
それに了解とだけ返事をしてから俺は、皆が来るまでに雫を起こしておくことにした。
「おーい雫ー、起きろよ朝だぞ……」
返事はない。
中から気配は感じるが、どうにも熟睡しているようで起きる様子がなかった。
「よし、阿惟ゴー。雫を起こしてきてくれ」
流石に年頃の女子高生の部屋に入って起こしに行くという無謀な事などは出来ないので、同じ性別の此奴に任せることにした。
こいつはかなりしっかりしているし問題ないだろうから、後は任せて俺は鞍馬の爺さんと酒呑を持て成すために付け合わせになりそうなスープやサラダでも……といった感じで再び台所に戻ることにした。
「なっ、なんで阿惟さんがここに!?」
「雫様主様がお呼びです起きてください、噛みますよ」
……なんか同居人の悲鳴と、聞き覚えのない誰かの声が聞こえたがなんだろうか?
ジャガイモや人参そして玉葱を火にかけながら鼻歌を歌っていると聞こえてきたのはそんなものだった。かなり騒がしいが何が起こってるんだろうな。
ガシャーンとかドーンとか誰かを起こしているとは思えない音達をBGMに料理を終わらせ、居間に並べようとなった頃に雫達がやってきた。
「おはよー雫……と、誰だよ」
「おはようございます主様、人に化けれるようになった阿惟です」
いつの間にそんな事に……そういえば前は五尾の狐だったが、一尾増えてたし成長してたのかこいつ。
「おっけー、どうして化けれるようなったかは知らんがお疲れだ。あと雫は何でそんなにボロボロなんだよ?」
「阿惟さんが悪いです……とりあえずおはようございます鴉様。それと朝食はオムライスですか、今日は豪華です――なんですか、これ? 宴会でもするんですか?」
最初に目に入ったオムライスの感想を雫は伝えようとしてくれたのであろうが、その他に机に並べられていた十五個のオムライスを見てすぐに頬を引き攣らせる。
その表情と感じているであろう気持ちは分かるのだが、そこまでドン引きしたような表情を見せる必要は無いだろう、泣くぞ俺……いや、作りすぎた自覚はあるし何より俺もこの量はないんじゃないかと思っているが――やめよう、馬鹿が加速するだけだ。
「とりあえず作りすぎたから食べるぞ雫、助っ人も呼んだから多分大丈夫だ」
「それ何人ですか?」
「二人だな、あと俺と雫と阿惟がいるから一人三人前の計算だ」
「……了解です」
そんなこんなで作戦を伝えたので、戦闘準備に入りながらも冷める前には来て欲しいなと思っていると丁度インターフォンが鳴り、誰かが来てくれたようだ。
「今開けるぞー」
一応防犯対策としてインターフォンで顔を確認しないといけないかもしれなかったが、俺って他人の気配が分かるので、そこら辺は気にしなくていい。
本来ならもっと別の事に使えるだろう能力を無駄に使いつつ、玄関を開けてみればそこには何故か不満そうな顔をする幼女と黒髪のイケメンがいた。
「久しぶりだな鴉、元気だったか?」
「鴉、このクソ天狗ぶっ飛ばして良いよな?」
「大体何があったかは分かるが、ここで暴れるなよ酒呑……とりあえず入れよ、飯が冷める」
「ぶー、おれ、こいつ殴りたい」
「別に殴ってもいいぞ、まあ吾はやり返すがな」
こんな所で鞍馬天狗と酒呑童子に喧嘩などやらせるわけにも行かないので俺はすぐに酒呑を抱え強制的に部屋に入れることにした。
「まあ積もる話もあるだろうし、今日は騒ごうぜ?」
「それもそうだな……そうだ鴉、一応土産に酒を持ってきたのだが飲まぬか?」
「おっ飲む飲む、まあとりあえずいらっしゃい二人共」
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