【ホラーゲーム】ほらーげーむはいしん……【ビビリ鴉】序
まったくのホラー要素がないのに、マヨイビト達の方が怖いという謎の状況で始まったこの配信。とりあえず怖がってても仕方ないし、周りを見ながら儂は一度状況を整理することにした。
儂が操作している黒髪の少年――水無瀬優。
この子が御者に連れてこられてやってきたのは、儂からしたら見慣れた和風の屋敷。
庭……というより少しの傾斜に作られた階段の横のスペースには、黄色と白色の花が植えられているが、いくつか枯れていて手入れされているようには見えない。
「雰囲気あるのぉ…………なぁ人間様、これ幽霊でるぅ――よなぁ」
[既にびびってくさ]
[これはタイトル通りビビリ鴉]
[このゲーム知らないけど、出ない気がします!]
[この配信で何回ロリ鴉になりますか!?]
[確かにそれは気になる]
[もはや全部ロリ声でよくね?]
[それだ!]
「ふっ莫迦者共が、そんな醜態を儂が晒すわけないだろう? それに童女の声など儂は出さぬ」
何を莫迦なと、そんな声を儂が男の状態で出すわけがない。
だって……ほら、あれじゃん? 今の儂って大妖怪状態に戻ってやってる訳だしぃ、そんな童女のように怖がって叫び――それも人間を怖がるなんてありえない。
そんな事を考えて、ちょっと虚勢を張りながらそう言ってみるが……コメント欄の反応はなんかおかしかった。
[え、さっきのは??]
[あの……既に晒しましたよね?]
[もう切り抜き上がってるんだよ!]
[雪椿:もう描き始めてるよ]
[キメラ大好き:私も手伝ってる]
[源鶫:僕はそれを待ってます!]
[三期生とママ達は仲がいいなぁ(白目)]
――うん、やっぱり怖い。
人間達じゃなくて、自分の母上と盟友とその母親がなんか混じってるのも怖い。
ごめん、ホラーより今はマジでこっちの方が怖い、それどころかホラーゲームのBGMが好きすぎてそれが癒やしになりかけてる。
「…………まぁ、そんな事よりこの曲めっちゃよくないか? 普通に購入して自室で聞きたいぐらいなんじゃが!」
タイトルは分からないが、初めて聞く感じの曲。
きっとオリジナルなのだが、儂はこの曲がかなり好みだった。
最初は悲しさや静けさ? でいいのか分からんが……そういうモノをこっちに与えてくように感じて、一人で曲を奏でている感じがするのだが、途中から少し変わっていくのだ。暗い雰囲気なのは変わらないが、少し曲を弾いてて楽しくなってきた……もしくは誰かが来てくれたのか、僅かに嬉しい、みたいな感情を感じれる。
それ……つまり演奏者の感情に合わせて曲も少し速くなり、来てくれた誰かにもっと自分の曲を聴かせたいのかどんどん走り出す。そして、同じリズムを繰り返して、次はどんな風に引いてこんな音を聞いて欲しい! みたいな感情豊かな曲で、とても楽しそうに奏でているのを表しているようなBGM。
最後に一度最初に戻って、また少し速くなるのはこの曲が二人で演奏するモノだろうから……というのが儂の勝手な意見。
途中で遅くなる理由は、一緒に演奏している誰かがもう一人を宥めて、「ゆっくりね」みたいな事を言ってからで、速くなるのはやっぱり抑えられないのを汲んで「しょうがないなぁ」みたいに合わせたから――ってのだったら儂はめっちゃ好き。
「で、それで走り出したのが琴を演奏していて、宥めるのが三味線だったら尚良しじゃな! そっちの方がエモいからのう」
思ったことを出来るだけ伝わりやすいように語りながら儂は最後にそう締めくくる。
やっぱり誰かが作ったモノを聞くのはいいな。演者である儂は同時に観客でもあるから、こうやっていいものを聞くのは気分が上がる。
[感受性化物過ぎるでしょこの妖怪]
[ほら、あれじゃね? 自分が設定的に演者だからこういうのは分からないと務まらないでしょ]
[早口なのに聞きやすくて納得させられてしまった(戦慄)]
[あ……ありのまま今起こった事を話すぜ。
俺は鴉様にロリ声を出させようとして、コメントをしていたのだが
気付いたら鴉様の早口に聞き惚れていた。
何を言ってるかわかねぇが(ry]
[はいはい、不思議なことが起こってるね]
[実際鴉様の声凄い聞き易いからね、仕方ない]
[これ三味線でやって欲しい]
「三味線でこれを引くのは、儂的に違うのう」
この演者達に混ざるのは儂的にNO。
だから儂がこの曲を演奏するのなら、たぶんきっと尺八でやるだろう。それならば、儂が語った琴と三味線を邪魔する事はせずに、中に混じることが出来る。
[やって欲しい]
[やって]
[というか尺八も出来るのか]
[まじで何でも出来るなこの鴉]
[これは有能]
[だけど即堕ちするから、帳消し]
[この配信でまた属性更新して欲しい]
「……よいぞ、よいぞ。この配信が終わる頃に儂のメンタル残ってたらな」
よし話題が結構ずれたおかげで、ロリを求むコメントも減ってきたし、これで怖くない。
やっと落ち着いたのを見て安心しながら、儂は館の中に入ることにした。かなり錆び付いているのか、すこし耳障りな扉の開閉音が聞こえる。
館に入ってみれば、そこには暗闇が広がっていて、ゲーム的には近づかなければ一定の範囲しか見ることが出来ない。
少し進めばここに来るまでにも聞こえた猫の声が聞こえてきた。
「また猫じゃな、結構意味ありそうじゃし、気にかけとくか」
それに意識を向けながらも、気になっていた散らばっている紙の元まで移動して、それを調べる事にした。その紙を調べればチュートリアルを見ることが出来たので、まだ何も分かってない儂は迷いなくそれを見ることにする。
簡潔にこのチュートリアルをまとめると。
基本的にアイテムを使うには、右or左または両手に装備しないと使えないという事。
ただ例外もあるそうで、持ってるだけで使える鍵や、読み物などのメニューから使用しないといけないアイテムもあるらしい。あと気になっていた右上の五つのハートは主人公である優の精神安定度のようで、ゼロになったらやばいっぽい。
回復してくれる場所もあるようなので、とにかくいまはそれを先に確保したいな。
「あとは、操作説明か……それはDL時の説明書に書いてあったから大丈夫じゃな――じゃあ、探索していくかのう。今の所幽霊は出ないようじゃし、案外すぐ終わるかもしれんな。とにかくセーブポイントを探すとするか」
[幽霊はあんまりでないよー]
[怖くないよー]
[若干声震えてるの好き]
[これは堕ちる未来が見える]
[あわよくばロリボ叫べ]
[左の机の開いてる本セーブポイントだよ]
[↑有能]
[これは優しいマヨイビト]
「優しいマヨイビトちゃんといたんじゃな、もしや鬼女の家にに投票してくれた方の一人か?」
[違います第四の選択肢に死廊を提案したモノです]
[ド鬼畜生で草]
[悪意しかない]
[悪意の塊で草]
[これは訓練された鴉民]
[次それやる?]
あぁ、知らないゲームだから気になってしまい、実況動画見てしまったあのホラゲーをリプ欄に送ってきてくれた鴉民か――――。
「お主絶対許さん!? 主のせいで二日ほど廊下歩けなかったんじゃぞ!」
[いや草]
[SNSで怯えてたのそれのせいか]
[「ワシロウカコワイ」「レイゾウコアケラレナイ」]
[あの呟きこれのせいかw]
[すまんかった]
[でも後悔は?]
[していない!!]
「はーん、儂キレたぞ? 覚悟しておれ、枕元に立ってやる! 毎晩鴉の幻影を見て苦しむがいい」
儂の一時期流行った怨念を纏った鴉姿で枕元に立ってやる。
怖いぞあれ、一時期そのせいで陰陽師に討伐隊組まれるほどの被害を出したからな、数百人を不眠症に落としいれた時の力を見せてやる。
そんな事を言った後で、一回セーブを挟んでから、あまり出来ていなかった探索とコメント欄をみる事にする。
[むしろ来てね]
[待ってる]
[逆に行くわ]
[雪椿:この子、今私の横で寝てるよ]
[じゃあどうやって実況してるんだよ]
[雪椿:あぁ、幻影?]
「……母上、あまり遊ばないでくれると助かるのう」
そう言いながら儂は一階の探索を終えた。
今は入る事が出来ない四つの部屋以外は一通り見ることが出来たので、二階にいくまえに一度整理する事にした。
とりあえず気になるのは、階段に飾られている絵とそれを悲しそうな顔で見守っている像。
あとは燃やせばいいだろう蜘蛛の巣……とかか?
「え、この提灯の火力たかくないかのう?」
火を付けるんだろうなとおもって、実際にその選択肢が出てきたから燃やしてみれば……なんか一瞬のうちに燃え広がり、階段を覆っていた蜘蛛の巣が一瞬で灰になってしまった。
「えぇ……怖い――こんな火力のある提灯を優君持ってるんでしょ? 最強すぎないか?」
[呪いの道具じゃない?]
[これもしや最強アイテムじゃない?]
[そして燃える対象を選べる能力付き]
[このゲーム初見ですがネタバレします、そのアイテム最強]
[草]
[使える優君も強い]
「じゃあとりあえず、またセーブじゃな。二階に何があるか分からぬし、やっぱりそれが安定じゃろ」
ちゃんとセーブを忘れずにしてから、満を持して二階へ移動。
階段を登った瞬間に変わるBGM――流れ始めたのは越天楽。
雅楽の曲の一つであり、雅楽曲を通じて最もよく知られた曲、作曲者は不明とされいていつ出来たのかは知らないが、儂的には凄く好きな一曲である。
このゲームの雰囲気はまだ掴めていないが、かなり和の曲を押しているような気がするし、今感じているモノ的に、ちょっと演奏したくてうずうずするな。
「このゲーム、既に最高ではないか……ホラーと和の曲はやっぱり合うんじゃな……まぁ、まだホラー要素に出会ってないからだと思うが」
そうやって少しでも飽きさせないように喋るようにしながら、また探索を続けていくと儂が操作する優が床に置かれた琴を見つけれた。
琴の近くには、少女がいてドット絵の動き的に、今流れているこの曲はこの子が演奏しているようだ。
その少女に話しかける前に、一応他の部屋を探索するために確認するも、鍵がかかっているのかカチャカチャと音が鳴るだけ……この様子を見るに、少女に話しかけなければ先には進まなそうだ。
話しかけて分かった事を簡単にまとめると大体こんな感じ。
1:この少女の名は黒歌で、主人公優の事を知ってる。
2:黒歌はこの屋敷の住民であるが、出て行きたい。
3:出たいのに出れない理由は、この館が何らかの理由で呪われているから。
4:呪いの種類は不明だが、もう優は巻き込まれている。
>>4 つまり優も今この館から出ることは出来ない?
以下勝手な考察。
・知っているが、屋敷に来たばかりの少年に助けを求めるという事は焦っている――つまり時間がなく、期限のようなものがある。
現時点では呪いの効果は不明……だけど少女黒歌の表情から、彼女に関係あることだと予想。
「大体こんな感じでよいか? ……ひとまず、このゲームを楽しみたいからまとめたが、これ見やすいかのう?」
かなりストーリーも作り込まれてるだろうし気になるから、儂は別のアプリを使ってこういう風にちょっとまとめてみることにした。こうやってやれば、マヨイビト達とも交流できるだろうし、一緒にこの配信を作っているって感じがして楽しそうだからだ。
[いいね]
[あと楽譜を探しても急だしなんかあるんじゃない?]
[そうだね、足そうよ]
[優君もなんか答えるのに間があったし、黒歌の事知ってるんじゃない?]
[でも初対面ぽいよ?]
[じゃあ、過去に同じ名前の子となんかあったのか?]
「おっ、今のコメント良いのう……追加しておくのじゃ」
次やることは貰った鍵でも使って一階の部屋を開けること、アイテム名は「一階西客室の鍵」だし左の方に丁度鍵が閉まっている部屋があったから早速向かうことにする。
入ってみた客室は意外と……というよりかなり広かった。
豪華そうな鏡に置かれた西洋人形、ちょっと壁がひび割れているがそれ以外の手入れはされており、いつ人が来てもいいようになっている。長い机に四つのベッド、既に見慣れた彫像――ほかに違和感のある場所はなく、何かあるならひび割れているあの壁だろう。
「よし、予想通りじゃな。東客室の鍵手に入れたぞ!」
[いいね]
[めちゃ嬉しそう]
[相変わらずよく動く羽]
[いい笑顔]
「よしよしサクサクいくぞ、東部屋もさっきと同じ作りじゃな……あ、また西洋人形あるし、ベッドの数も同じ――なんか赤いが、そこには目を瞑って……あ、鋏じゃな」
儂は趣味で市松人形や日本人形を集めているが、何故か西洋人形苦手なんじゃよな。
普通に怖い、そのせいでさっきの部屋にあった人形を調べれなかったし……でも色々見た限り、何もないっぽいし――これ、人形調べないと駄目か?
というかそもそもなんで和の屋敷に西洋人形を置くんじゃ風情がないじゃろ。
「アンケートじゃ、調べた方がいいかこの人形? 儂の勘がめっちゃ警告してるのじゃが……」
試しに聞いて見れば、コメント欄は行けという言葉で埋まり尽くし逆に逃げれない状況に……もう逃げられないので、意を決して調べてみれば――流れてきたのはこんな台詞。
〘目がないの……
わたしの目……
目がほしいの……
目をくれる?
・ あげる
あげない〙
よし、帰ろう。
儂、今すぐ帰りたい――え、何この人形怖い。喋るのはいいとして、なんで目を要求してくるの? 儂泣くぞ? 今すぐ噎び泣きながら家に帰るぞ?
「…………こっ、こんなの――渡すわけないじゃ――はくしゅッッ、アッヤベ!?」
[【速報】浮世鴉ショタの目を人形に捧げる]
[はいライン越え]
[鴉様の目も死んでて草]
[くしゃみ助かる]
[そのくしゃみのせいで黒髪ショタが死んだんだぞ!]
[ガチで怯えてるの草なんだ]
[人形怖いを繰り返してるw]
[あーあ]
[これは切り抜き]
[wwwwwwwww]
[くりぬきRTA記録二十分]
[雪椿:また家の子のハイライト消えた絵描かなきゃ、多分人形と一緒に描く]
[源鶫:待ってます!]
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