三期生コラボ合流編 ~限定パンを添えて~

「……鴉様荷物届いてましたよ、玄関に置いときましたがすぐ起きてください」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ? アァァァァァー…………眠い」


 開け放たれるカーテンの音と、射し込んでくる朝の日差し。

 あまりの日差しに目をやられ、殻に戻るカタツムリのように布団に引き籠もる。

 今日は7月28日でもうすぐ8月になり夏も本格的に始まりそうだが、クーラーを付けっぱなしで寝たせいでかなり寒い。そんな中で暖かさを提供してくれるお布団は最強で、出なきゃいけないはずなのに、どうしても出ることが出来ない。

 

「暖かくなったら出る……から、放置してくれ」


 とても眠いせいで出てくる掠れすぎた声、こんな状況ならこの襲撃者も逃がしてくれると思ったのに……。


「布団を取るなぁ、あ動けない……寒い、羽出さなきゃ」


 人の心がないのかそいつは俺を守っていてくれた布団を剥ぎ取って、あろうことかそれを畳んで押し入れの中に入れてしまった。その事で寒さから身を守ってくれる盾が失われた俺は、あまりにも動くのが怠かったせいで、久しく出してなかった羽で身を包むようにして、この場を乗り切ることにした。

 全身を守るように、全部羽で包んだ今の俺に死角はなし。これより先は一切の寒さを通さない、そんな意気込みで、同居人が去るのを待つ事にする。


「今日はコラボがあるんですよね? 起きないと遅れますよ」

「えぁ? コラボ……コラボ――コラボじゃん!? ちょっ、今何時だ雫!?」


 だけど雫のその言葉で一瞬にして今日の予定を思い出し、羽を消して瞬時に飛び起き変化する。こんな風に一気に飛び起きて姿が変わったりしたのなら、少しは驚きはしそうなモノだが、慣れているのか雫の奴は全く動じずに、俺の質問に答えてくれた。


「5時半ですね、ちなみに今から向かえばパン屋にも間に合いますよ」

「そういえばメロンパンも買うのか……起こしてくれて助かったぞ雫今すぐ行ってくる!」


 先に向かうのはパン屋でそのあとは妖ぷろの本社。

 箪笥の中に収納されている服から、今日着ていく服を選び急いで玄関へ。

 少しごちゃごちゃした服を急ぎながらなんとか着終える。

 忘れそうになっていた届いたばかりのゲーム、それを鞄にしまって準備は完了。さあ行くぞとなった時、ふと顔を逸らして鏡を見れば、そこにはメイド服を着こなす165㎝程の男の姿が……。

 鏡の中の男と目が合って数秒、思考が停止し、変な息が漏れてしまう。

 

「すぅー……変な癖ついてた」


 本社に行った回数は二度だけだが、その二回の服装はメイド服。

 慣れたくなかったが、その二回の出来事で妖ぷろ本社に向かう=メイド服を着るみたいのが染みついていたようだ。


「気づけて良かったわ、流石に男の姿でこれ以上尊厳はなくしたくないからな」


 すぐに部屋に戻って別の服に着替えた俺は、有り得ないだろうがメイド服のままじゃないかを確認し、ちゃんと男の物の服に着替えている事を認識した事で家から飛び出し秋葉原に向かう。


【妖ぷろ三期生RINE】

鵺:明日はよろしくお願いします! 23:38

狐:こちらこそよろしくね、コラボ成功させましょう。 23:40

既読2:よろしく頼む二人とも、楽しみだな 23:45

既読2:あ、ちょっとパン屋で買い物あるから早めに向かう。そういえば二人とも希望あるか? 5:32

狐:あそこのならクリームパンお願い、お金は返すわ 5:44

鵺:カレーパン頼んでも良いですか? 5:46  

既読2 了解 5:48


「久しぶりに空飛んでるんだが、暖かくて良かったな……寒いと羽動かないし」


 時間がなかったので、空を飛んで秋葉原がある東京へと向かっていく。

 空を飛んでいる間は姿も隠しているし、余程のことがない限り事故らないので、歩きスマホならぬ飛びスマホをしながら時間を潰していれば、あっという間に目的のパン屋の近くに。

 人目のつかない所に降りた俺は、結構並んでしまっている列の最後尾に並ぶことにして、開店までの暇な時間をゲームなどでもして潰すことにした。


「朝なのにやっぱり多いなぁ、まあここのパンどれも美味いし仕方ないか」


 そんな独り言を呟いて、ハマっているソシャゲの日課をこなしているうちにいつの間にか店は開き、列がどんどん進んでいく。前の人がパンを買い終わり、俺の番になったことで注文を始める。


「クリームパンとカレーパン、メロンパンとチョココロネを一つずつください」

 

 頼んだ三つは頼まれた物で、最後の一つは完全に俺用の物。

 ちょっとパンを買うにしては高かったが、それだけの価値は全然ある。あとはこれが冷めないうちに結界に閉じ込めて保存でもしておくか。

 渡す予定の三つを作った結界にしまった俺は、妖ぷろ本社に顔を出しゲーム専用に用意された部屋で二人が来る12時まで時間を潰すことにする。

 この部屋は最新のゲームから過去のゲームまで多種多様に揃っているので、遊ぶには事欠かないだろう。

 そこで俺はPS4を起動して、前から興味があったがやっていなかったダークファンタジーゲームのリマスター版に自分用のデータを作って、ゲームスタート。

 こういうゲームは久しぶりだが、どんな感じなんだろうな? かなり楽しみだ。



 ――――――

 ――――

 ―― 

                


YOU DIED


「あぁぁぁぁクソガァ!? あのガーゴイル許さねぇ、そもそもッハァ!?」


 画面にデカデカと表示されここ短時間で見慣れてしまったその朱殷色の文字。

 操作キャラが死んだときに表示されるその文字は、こっちを煽るような音と共に何度も現れて、俺の神経をこれでもかと逆撫でしてくる。もうなんなんだあの二体のボスは、まじでふざけるな。

 あぁ軽い気持ちで始めたゲームでここまで発狂するとは思わなかった。こんな事になるのなら別ゲーでもと思ったが、負けっぱなしは癪だし許せないのでコンティニューして再度挑戦だ。

 せめて二人が来る前に絶対にこいつだけは殺す、俺の数多の屍の仇を取るために俺は絶対に諦めない。強そうなツヴァイヘンダーも少し強化したし、今度こそぶっ殺す。

 

「紡さん? 大丈夫ですか?」

「あとにしてくれ、ちょっと取り込み中だ」


 二体目の体力をギリギリまで削り、あと一歩って所で火炎放射で殺された時、最近配信でよく聞いている声が聞こえた気がしたが、今はそれに構ってられない。

 声をかけてくれた人には悪いのだが、今はちょっと待ってて欲しい。 


「アドバイスなんですけど、このボスならロングソードに松脂塗って斬りまくれば倒せますよ?」


 言ったあと失礼だったなと思い、すぐ謝ろうとしたがそれより先にその人がこのボスの攻略に関するアドバイスしてくれた。


「え、マジ? ちょっと試すわ――――しゃぁ! 勝ったやった大勝利ー! 西洋の化物風情が儂に刃向かうからこうなるんじゃぞ! クハハ、二度と姿を見せるなよ阿呆」


 あまりにも喜びすぎて、過去モードが出てしまったが……そういえば後ろには誰かいるんだよな……というか、そもそも誰が来たんだ? そう思って後ろを振り返ればそこには同期の糀の姿があった。


「……あー糀おはよう? カレーパンいるか?」

「貰いますね、それとクリアおめでとうございます」

「ありがとな、あとすまない気付かなかった」

「え、全然大丈夫ですよ? 自分も初めてやったときは苦戦しましたし、やってる時とか熱中しすぎた思い出ありますから、むしろ推しのライバーのゲーム姿を見れてご馳走様って感じですよ」

「やめろ、照れる」


 聞き慣れた口調。

 初対面の時は早く仲良くなりたかったから、タメ口でいいぞって俺が言ってしまったために、ああ喋っただけで、本来は誰に対してもこういう喋り方なのだそうだ。

 あの時は悪い事したなとちょっと思いながら、鞄の中に仕込んだ結界から俺はバレないようにカレーパンを取り手渡して、ちょうど昼飯時という事もあって妖ぷろの社員食堂に移動する事にした。


「呼んできたのね、おはよう紡さん」

「そっちも来てたんだな蘆屋、ほらこれクリームパン」

「ほんとに買ったのね、はいこれお金」


 既に食堂には蘆屋もいたようで、俺達の姿を見るやすぐに声をかけてくる。

 そしてそのまま三人で机を囲むように座り、そのまま食事を始める。皆がパンを食べるなか、燃費があんまり良くない俺は、事前に雫によって作られ鞄に入れてくれていた弁当を俺は食べることにする。



「あ、その弁当手作りですか?」

「だな、同居人……というか妹みたいな奴に作って貰った。少し食うか? あいつの卵焼きと竜田揚げ美味いんだよ」

「食べます食べます……美味しいですねこれ! 今度その妹さんにレシピ貰ってもいいですか?」


 雫の飯を褒めてくれる盟友の言葉に自然と頬が緩む、気分も乗ったし、今度あいつにレシピでも聞いてみようか。


「確かに美味しいわね、その妹さんに美味しいって伝えておいてくれないかしら?」

「勝手に食うなよ、欲しいなら言ってくれれば渡したからさ」

「なんかそういうの恥ずかしいもの」

「勝手に奪う方が恥ずかしくないか?」

「…………盲点だったわ」


 妖ぷろの定期企画である同期のライバーを集めてやるマルチゲーム大会。

 この企画に参加してる時点で嬉しいし、何より仲間達との初めてのコラボ。こんなの絶対成功させるしかない。


「マヨイビトの皆様方、こんにちわじゃー! 妖ぷろ三期生所属の浮世鴉、今日は告知通りに仲間達とコラボをしてゆくぞ!」

「初見の方それと子狐達、どうぞよろしくね。今日は妖ぷろの本社に皆で集まっているわ」

「ヒョーヒョーという鳴き声からこんにちわ、妖ぷろ三期生所属源鶫っです! 今日は盟友とママと一緒にゲームをやっていきます!」


[コラボって同期企画か]

[待ってた]

[逆梨鉄はセンスある]

[この三人の初見だけど、一番こいつらに愛されてる自信ある]

[どこから沸いてくるんだその自信]

[このキメラ、サラッと同期をママ扱いしてるぞ?]

[閃いた]

[↑通報した]


 コラボ配信と言うこともあって、コメント欄には普段みない方々の名前がある。

 俺達の視聴者層もバラバラでその三人が集まったからという事もあるが、この恒例の企画で初めて見るっていう方もいるし、マヨイビトを増やすためにも今日はどんどん印象に残ることをしよう。


「いやぁ、こうして集まると見事に画面が妖怪だらけですね」

「だけど狐と鵺と鴉で結構バラバラね」

「別にいいじゃろ? 儂らはこの妖ぷろ百鬼の一員、色んな奴らがいたほうが面白いじゃろうて」

「それもそうね、沢山妖怪がいる方が確かに面白いわ」


[いい話や]

[流石鴉様、なんか言うことに凄みがある]

[諭される七尾様……いぃ]

[カエレ、変態]

[帰らされても第二第三の私がそこら中に……]

[新種の妖怪か?]

[妖ぷろスカウト、待ってます]

[来ないよ]


「まぁまぁ、そんな妖怪も受け入れるのがここじゃし、儂は今の分身する妖怪も歓迎するぞ? というより、この配信に来てくれてる時点でもう妖ぷろの仲間じゃし、これからはその増える術を誇って生きるがよい」



[僕これから妖怪名乗るよ]

[ままぁ]

[鴉ママ……]

[流石性癖の宝物殿、優しい]

[初見だけど私のママになってくれないですか? むしろ貴方が子でもかまいません!]

[無敵じゃん今の人]

[性癖の宝物殿ってなんだ]

[それはこの鴉様が即堕ち系有能ポンコツ儂ショタママだからだよ]

[属性の大渋滞じゃん、推すわ」

[そうして今日も鴉の神社にマヨイビトが来ると……でもこの妖怪、俺のママだからな?]


「そこの鴉民間違えないでくださいね、ママは皆のママで、僕が第一子です」

「……そもそも儂、誰の母親にもなった覚えないのじゃ――それと鶫、進めないと叱るからのう?」


[ママじゃないの?」

[いや今の言葉をよく思い出せ、少し流されて口調が優しくなってるぞ?」

[鴉ママ……叱って]


 怖いのじゃ、産んだ覚えのない子達が沢山。

 しかも儂、男じゃし……。


「叱られたくもありますが、そろそろ進めないと怒られてしまうので、今日の企画を説明させていただきます!」


 デデン! そんな効果音と共に画面に表示される今日の企画進行表。

 七尾が全力でPPを使って作ったそうだが、かなり凝っている。パッと見で何をするか分かるし、目に優しい。これなら視聴者達にも伝わりやすいだろうな。



「これを作ったのは勿論私よ、感謝しなさい二人とも」

「凄いのう七尾は、助かるぞい」

「……いきなり褒めないでくれないかしら、照れるわ」

「くはは、顔を背けるでない……見れぬではないか」

「てぇてぇ……この二人いいですね」


[あれ、俺達がいるぞ?]

[てぇてぇ」

[クール系ポンコツ狐×ショタ爺……閃いた」

[凄いなぁここは閃きの倉庫だぁ]

[ありだなこの二人]

[照れてる七尾様可愛い]


 七尾が作ってくれたものの中には、今日やるゲームの簡単な説明や、ちょっとした小ネタなどが鏤められている。陰陽師なのに、現代に適応してて凄いなとそう思いながら、確認していると少し気になる事があったので二人に聞いて見ることにした。


「少し聞いてもよいか? さっきから出てる逆梨鉄とはどういう意味じゃ?」

「あぁ、そういえば説明し忘れてましたね、梨鉄は本来お金を稼ぐゲームなんです……が、今回はその逆! 借金マスや貧乏神に多種多様なカード、ありとあらゆる手段を使って所持金を減らし、一番所持金が少なかった妖怪が勝ちというルールなんです!」

「ほぇ……ゲーム内の借金で競うのか……それ悲しくないかのう?」

「だって面白いじゃないですか! 普段なら喜べる青マスで少ないお金を望むとか! そして何より、僕はこの逆梨鉄を皆でやってみたかった!」


 世の中には色んなゲームの遊び方をする人間達が居るんだなぁと、頭に過るRTAや縛りプレイを思い出してそうしみじみと感じてしまう。


「そうか初のコラボじゃし、やりたいことをやるのはよいな。では早速楽しんでやっていこうかのう!」

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