【悲報】ライバー同期が天敵だった件について【ワロス】

 妖怪にとっての凶器であるお祓い棒を向けられながら、そう聞かれる俺。

 変化は完璧だったはずだがこんな風に確信を持っているって事は、きっとこいつに何を言い訳しようが逃げられない。それに今気付いたが、この神社は妖怪を閉じ込める事に特化した結界が張られており入る事は出来るが出ることは困難。

 例えば何の話だ? とかいう感じですぐに出ようとしたとしても、人間に変化してる今の俺だとこの結界を抜けられないので、その時点で妖怪とバレると……つまり詰んでるという事か。


「答えない? まぁもう、その沈黙が答えみたいになってるとは思うのだけどね……とりあえず正体を現しなさい」

「…………バレてるし詰んでるから、それは別に構わないぞ。だけどその前に一つ頼ませてくれ」

「何かしら……命乞い?」

「いや違うぞ。流石にこの格好で真面目になるのはきついから、なんか男物の服を貸してくれないか?」


 命を狙われる時にこんな事は言いたくなかったのだが、今の俺の格好はメイド服なのだ。どう足掻こうとも、こんな格好で真面目になれる訳がなく、どう頑張ってもなんか残念感が漂ってしまう。

 お祓い棒を向けてくる女子高生程の年齢の女性と向かい合うように、性別がよく分からないメイド服の男がいる状態。そんなのツッコミどころしかないし、どれだけシリアスな雰囲気を出しても混沌しか広がらない。


「………………私が貴方の頼みを聞く必要はないわよね、でもそうね、仕切り直しましょう」

「そうしてもらえると助かる……なんか悪いな」


 とてもしまらないが一度仕切り直すことになったので、俺は彼女の後を付いていき今いる神社から少し離れた一軒家に案内され、そこで暫く使われていなかった様子の男物の服を借りて居間に通される。


「で、再開しないのか?」

「なんか毒が抜けたからもういいわ……それに貴方が人を襲うような妖怪ではないことは、なんとなく分かるもの」

 

 どこでそう判断したのか分からないが、さっきまでの敵意をこいつから感じないし今の言葉は信じていいな多分。


「そうか? 襲っているかもしれないだろ?」

「襲うタイミングならいくらでもあったのに襲わないって事はそんな度胸ないでしょう? それにどうせこれから長く関わるだろうし、貴方ぐらいの妖怪なら祓うことぐらいは容易だから見張ってればいいもの……じゃあそういう事だから、もう帰っていいわよ」

「了解、そうだこの服洗って返した方がいいか?」

「そうね、今度会社に集まるときにでも返してちょうだい」


 了解とそう言ってから、俺は今いる一軒家から出ることを許可され結界から脱出した。正直戦うかもしれないと思ったから、少し身構えていたが……まぁなんとかなったので良かっただろう。

 この神社から出る直前一応最後に何かしないか監視しに来たであろう霞さんが来たので、俺はそのタイミングで気になっていた事を聞くことにした。


「そういえば、お前は何者だ。俺が妖怪って分かる事はなんか変な力を持ってるだろ?」

蘆屋霞あしやかすみ……ただの陰陽師よ、これからよろしくお願いするわね妖怪さん」


 

 そんな事から約二週間ぐらい経った後の水曜日。

 ここ二週間は配信する為に細かい機材を揃えたり配信用に色々作ったりと気が重かったが、なんとか初配信までに揃えられたので今は少し気が軽い。


「蘆屋……蘆屋……どっかで聞いた事あるんだよなぁ――どこだったか」


 それで話は変わってしまうが、俺は今先週あった陰陽師の名字に心当たりがあったので、それを思い出す為にちょっと昔の品を整理していた。なんか一時期、戦った陰陽師の名を記録するみたいな暇つぶしをしていたし、きっと心当たりがあるのなら手合わせした奴なのだろう。

 そう思って色々探してみたのだが……。


「ないかぁ……でもなんか記録した覚えあるんだよなぁ……なんだっけ?」


 まあ今は気にしても仕方ない。覚えていないという事は、どうでもいいことだろうし今は迫ってきた配信に向けて少しでも心構えをしておかないといけないし、この件は落ち着いてから片付けよう。

 

「まあ多分それは一番いいだろうしな……うん、これ一人で片付けるのか」


 荒らしすぎた倉庫を見渡してもう一度溜息を吐く。

 綺麗に片付けられていた倉庫は今や見るも無惨に散らかっていて、俺が今いる場所とちょっとした周り以外に床が見えず、小規模のガラクタ地獄が生まれていた。古い本や奥にしまっていた小物なども引っ張り出していたせいで、散らばった物の量は半端なくてこれを片付けきるのは骨が折れそう。


「雫には頼めないし……あぁ頑張るかぁ」


 今日はあの陰陽師の配信があるから、出来れば夜八時までには終わらせたいんだよな。

 だけどこの量を今から五時間で片付けられる気がしないし……もう面倒くさいし、これ明日やるか。前回というか今週の月曜日にあった盟友の配信にもちょっと忙しかったせいで遅れしまったし、もう遅れないためにも今日は十分前から待機しておく事にしよう。


「…………やべぇ、あと三十分で太郎丸45さんとの約束の時間じゃん」


 配信までに少しでもゲームの腕を上げるために、最近はずっと太郎丸さんに付き合って貰ってるんだよな。自分が手伝って貰っている手前、これにも遅れる訳には行かないし速く部屋に戻らなければ。


 部屋に戻ってパソコンを起動し、メッセージアプリのアイコンをタップしてそれを開く。

 そしてホーム画面から圧倒的な圧を放つ天狗の面のアイコンをタップした俺は、慣れた手つきで彼に向かってメッセージを送ることにした。


#太郎丸45世                                     

一般鴉A     今日 12:51   

儂参上!  

太郎丸45世  今日 13:01   

おはようでござる鴉氏、相変わらず元気ですなぁ

一般鴉A     今日 13:04   

主とのゲームは楽しいからのう。それに今日は格ゲーの練習じゃろう? 新キャラも追加されたばかりじゃしテンションあがるに決まってるのじゃ! 

太郎丸45世  今日 13:07   

まあそれもそうでござるな、追加されたキャラは我の推しでもありますしその気持ちは正直分かりすぎますなぁ

一般鴉A     今日 13:09   

じゃあ、早速やるぞ、ゲーム機を持てぇ! あ、パスワードはいつものでな

太郎丸45世  今日 13:10

おkでは殺るでござるか!


 ちょっと最後のメッセージは怖かったが、ここからはいつも通りのゲームの時間。

 ロビーを作ってからメインキャラである魔王を選び、彼が入ってくるのを待つ。そして彼がリングに上がった途端に試合を開始する。どうせさっきの流れからして今回は新キャラを練習すると思っているだろうが、そうしてしまえば俺の思うつぼ、この本気の魔王で潰してやる!


「ふはは、昨日のようには行かんぞ太郎丸ゥ!? 待って、新キャラじゃないんか!?」


 始まった瞬間に画面に映ったのは世界的に人気な配管工のゲームの主人公の弟。

 俺はこいつの即死コンボが本当に苦手で、どのキャラでも抜け出すことが出来ないのだ。だけど違う、俺は昨日ずっとレートに潜って腕を磨いたんだ。


「かかってこい太郎丸ゥ! あ、待ってやっぱり即死コンとか避けられ――――」


 だけど哀れ、俺の野望は掃除機によって砕かれて気付けば蹴って踏まれるの繰り返し。そして最終的には空に弾き飛ばされて、俺の魔王は空の星……いや、まだだ。

 まだ負けてない俺の残機はまだ残ってるんだ即死コンボさえ気を付ければきっとやられることはない!


「だから俺は諦めないぞ、太郎丸!」


 そんな風に覚醒系主人公を真似るように叫んでみたのだが、即死コンボなんて関係なくボコボコにされて敗北へ。その後何度もキャラを変えて再戦するも、今度は新キャラによって何体ものキャラを弾き飛ばされる。

 そしてそれが四時間ほど続いた頃、俺は真っ白に燃え尽きながら通信を切り、彼に向かってまた今度というメッセと適当に作った絵文字を送りつけ、不貞腐れながら動画配信サイトを開き心を癒やすために推しの切り抜きを見ることに……。


「あ……もう始まるのか」


 そうやってサイトを開いたタイミングでスマホに設定していたアラームが鳴り見て見れば、配信開始十分前。元々十分前には待機していると決めていたし、速く待機しなければな。

 そう決めて俺は部屋の扉とカーテンを閉め、この部屋の鍵を閉じ何が何でも邪魔されないように配慮し、動画をクリックした。


 サムネにはリアルの姿からは想像できないようなどや顔の七尾玲那が映っていて、見てるだけで清々しいほどに煽られた気分になってくる。だけどその吸引力は凄いのか、既に配信には五千人を越える視聴者が集まっており、彼女がかなり期待されていることが理解出来た。

 前日にあった源の配信もかなり頭に残るような謎のOPから始まって、最終的にそのトーク力で同接二万を達成するという偉業をなしたのだ。その時から【妖ぷろ】三期生への期待は高まっており、そんな背景のせいで今日の彼女はとても期待されているのだろう。

 そう思いながらヘッドホンをつけ、出来るだけちゃんと聞けるように音を上げていく。


 だけど配信が始まった時、しばらくの間黒い背景しか表示されず。あまりにも無音だったことからコメントで事故か? 大丈夫ですか? 等のコメントが流れた瞬間突如として赤い文字が画面に現れて――――。


【最終鬼畜全部私、七尾玲那歌います】


[!?!?!?]

[正気かこの狐!?]

[流石に草]

[聞こえないから音上げたら鼓膜ないなったわ、何も聞こえねぇ]

 

 コメント欄を見てみるが最後のやつには心の底から同意してしまった。だって俺は、あまりの高音に初っぱな鼓膜に破壊的なダメージを与えられたからだ。それから暫く、彼女の声のみで構成されたその歌と曲が流れ続ける。

 一人で七役こなす彼女は瞬く間にSNSのトレンドを掻っ攫い、ちょっとページを更新すれば阿呆みたいな速度で増えていき、それに合わせるように登録者が増えていった。

 そして同接が四万を越えた頃に歌が終わり、彼女が姿を現した。


「皆待たせたわね、私よ!」


 


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