人間達との初邂逅
妖ぷろ面接があってから丁度一週間が経過して、浮世鴉の設定画が完成したらしい。
出来るのがかなり早いと思い絵師の方、所謂母上に凄いですねとメッセージを送ってみたら、ビビッときたから頑張ったというのを伝えられた。
そして送られた画像の細かい拘りをこれでもかと説明してきてこの大妖怪を圧倒させた。
「あー凄いな――いや、それにしても……この絵師は何者じゃ?」
あまりにも熱量を感じさせる文のせいで気にも止めてなかったが、俺が参考にと送った画像は一応大人状態で、化けた姿の筈だったのに、完成し送られてきたのはあまりに本来の子供のような姿に近く……というか何処かで俺の姿を見たかのような再現度の絵。
それのせいで、自然と元の口調に戻ってしまったがそれは仕方ないだろう。
勝手に子鴉状態の俺を書かれたのだが、それ以外の衣装などは完璧すぎるほどに希望通りで、この絵を描いた方の凄さが覗える。
「それに俺が伝え忘れた他の能面の事を何も言わずに書いてるし……最早怖いぞ?」
予想を遙かに超え、伝えられた設定だけで浮世鴉を完全に再現するその手腕。
人間にはやっぱり凄い奴が沢山居るなと思いながら、改めてイラストを確認する。
何枚か送られてきたイラストに写るのは、黒を基調とした華などの刺繍が施されている鮮やかな着物。背中から灰色の羽が四枚生えていて、腰には喜怒哀楽を表す四つの面。喜である黒式尉から始まり、楽である片目のひょっとこ。そして手には鴉を模した天狗面、少年の見た目からは想像できぬほどに妖しく笑っていて、これこそが妖怪という事を瞬時に理解させるようなイラスト。
「設定というより、過去の姿を話していただけだったがよくもまぁ、ここまでやるよな。ほんと凄いわ――でもなんでショタ……」
とりあえず、確認したら連絡をくれと言われてたので既に開いていたタブを再度開き、絵師の方に連絡を入れる。
#雪椿
浮世鴉 今日 12:54
絵を見せて貰ったが凄いのう、お主
雪椿 今日 12:55
希望通り?
浮世鴉 今日 12:57
希望通りどころか、予想超えておったぞ、まあ一つ聞きたいことがあるのじゃが
雪椿 今日 12:57
ショタ化させた事でしょ、それは趣味
浮世鴉 今日 12:58
……業が深いぞ
雪椿 今日 12:58
それは貴方の送った設定がショタ化させるのに最適だったのが悪い、ので私は悪くない
とても速く入力されていく文章にはツッコめないような圧があり、なんか論破したみたいな雰囲気が流れ、この絵師の方の鋼の意志みたいのも感じてしまう。
とりあえず次やることと言えば【妖ぷろ】の方に、イラストを確認したと言うことを伝えそれに対しての返信を待つ事にした。
「返信早いな……えっと? 3期生のメンバーが全員決まったので、一度全員で打ち合わせでもしましょうと?」
そっか、俺以外のライバーも決まったのか……そう思い妖ぷろのHPを確認する。同期になるだろう二人の姿を確認する。仲間になるはずのライバー達は、今回は七本の尾を持つ狐の少女と鵺をモデルにしたであろう青年。これが新しい仲間だと思うと自然と笑みが浮かび、これからのライバー生活が楽しみになってくる。
「日程は……一週間後の日曜日か……服装は基本的に自由――浮世鴉は、メイド服………………え?」
見間違いではなくそう書かれていて、ここの会社大丈夫かと思ったが、メイド服を着た男を採用するような会社だ。正気なんてきっとないだろう。という事はまた俺はメイドを演じるのか…………やるのかぁ。
「一応ちゃんと保管はしてるが、また着るのはちょっと抵抗があるな――でも同期にインパクトは残せるだろうし……うんやろう」
そしてメイドを演じる為に色々インプットする一週間を俺は過ごして、またもや秋葉原の町中をメイド服で歩いて行き、前と同じように本社に入る。流石に二度目となると驚く人はすくないようだが、やっぱり何人かは驚いているな。正直妖怪として驚かせるのは好きなのだが、なんか男として負けた気がするのは何でだろうか?
「本当にメイド服で来られたのですね……あ、初めましてこの度浮世鴉殿のマネージャーをさせて頂く、
「社様ですね……こちらこそ浮世鴉と申す者です、これから今後ともよろしくお願いします」
待ち合わせの部屋にやってきたのは、とても大人しそうな印象を相手に持たせるような、なんというか一緒にいて落ち着くような男だった。気質がとても穏やかなその男は、一度礼をしてから名刺を渡してくる。
「あのこれは本当に気になったので聞きたいのですが、その声はどうやって出しているのですか?」
「あ、これは普通に出している感じです。出そうと思ったら割と色々な声は出せるので、今は女性を意識した声で頑張らせて頂いてます」
「その特技凄いですね、今度でいいのですがどこまでの種類の声を出せるのか聞いてみたいです」
「お望みとあらば、いつでもやりますよ――今の私はメイド、ご主人様方の命は出来るだけ叶えたいので……あ、そういえばまだ同期の方は来られない感じですか?」
一応待ち合わせより十分前には来たのだが、同期らしき奴らにはまだ会っていない。
早く仲間と顔を合わせたいので、さっきからちょっとそわそわしてるからそれを収めるためにも早く会いたいなと、そう思い聞いてみれば社さんはとても丁寧に答えてくれた。
「鵺モデルの
という事は自分が一番遅かったのか、みんな気合いの入りようが違うな。
正直、一番早かった自信があったのだが……まだまだ精進しなければ、次集まることがあったら四時間前ぐらいにここにこよう。
「それと今から会議室で顔合わせを行うのですが、何か気になる事は他にありますか?」
「いえ特にはありません」
「では行きますか」
そうやって社さんに連れられて、会議室に向かってみればそこには一組の男女が待っていた。
女性の方は大和撫子といった風な、青みがかった黒髪の人間でどこか同居人である雫と同じ雰囲気を纏っていた。男性の方は……なんというか、雫に前にあったら警戒しろと言われてた感じの金髪の男。
完全にその顔に髪色が合っていると言えるようなイケメンで、なんとも今時の若者というイメージを持たせるような人間だった。
「え? メイド?」
「……何か違和感が」
二人の反応は至極真っ当なものだろう、だって会議室に現れるはずなのはマネージャーと一緒に現れる最後の同期の筈なのに、現れたのはまさかまさかのメイド。まぁそれは驚くよな。
「初めまして同期の皆様……私は浮世鴉、この度貴方とライバーをやらせていただく妖です」
「え、あ? 同期の方……なのか? いや、え、メイド服なんで? 男って聞いてたけど違うのか」
「鶫様、私は見ての通り男ですよ?」
「見ての通りって……無理ですよ声も女性ですし」
「ならこれで大丈夫だな、ほら声ちゃんと男だろ?」
メイド服のままで普段の声を出してみるとぎょっとした顔をする金髪の青年。
もう一度試しに女性の声を出してみれば何度か瞬きして、どうにも信じられないような表情を浮かべている。
「詐欺だ。こんな男がいるわけない――あぁ一瞬推しそうになったのに」
「まあこんな現実もあるって感じで、改めてよろしく浮世鴉こと夜神楽紡だ。そっちは……あ、同年代っぽいしタメ口でいいぞ?」
「あ、はいわかり……分かった。俺は源鶫をやらせてもらう事になった
「仙魈推しかやるなお前、俺は無難とか安直とか言われるかもしれないが瓢鮎様推しだ。ついでにこの想いは負ける気がしない」
お互いの推しを言い合って牽制をし、睨み合うこと数秒間。
目の前の相手からは推しの為なら何でもやるという意気込みが感じられ、一瞬で同士であることを理解したとき、気がつけば俺達は握手をしていた。
「頑張ろうな盟友」
「そうだな盟友」
金髪の青年と灰色の髪のメイドが握手するという、異質な光景がほんの数分で出来上がったがこれはきっと妖ぷろという架け橋があったからこその出来事だろう。
今日俺はここに新たな友を得た。
「仲良くなるの速くないですか? まあそれはいいことなので何も言いませんが……それと霞様? 震えていますが何か言いたいことでも?」
「あるわ、男って馬鹿なのかしら……何故
心底馬鹿にしたような声でそう言ったかと思えば、自分の意志こそ絶対と言った風に瓢鮎様と同期である天狗モデルのVtuberの名前を出してきた。
最初は何で盛り上がってるのか分からないとでも思っていたが、違かったのか……つまりこいつも同士?
「そんな仲間を見るような目で見ないでくれないかしら、認めはするけど別の推しの時点でライバルみたいなものよ」
「そういう道もあるな……とにかくこれからは仲間なんだ仲良くしようぜ?」
「そうね……よろしく頼むわ」
そんな事もあって始まった打ち合わせ、最初にちょっと騒いでしまったがそれからは何の問題もなく会議が進んでいき、お互いのキャラを共有するためにプロジェクターで俺達が声を当てるキャラ達が設定と共に映された。
浮世鴉の説明は大体こんな感じ。
【長い時を生きる一種しか存在しない大妖怪。噂と共に名と姿を変えて生き続けていたが、あまりにも長く生きていたせいで楽しむと言うことを忘れてしまい、自堕落に生きていたがこの妖ぷろ百鬼の存在を知り娯楽を求め満を持して参戦した】
それでお試しの台詞には「儂の名は浮世鴉、主ら待たせたな」という物が用意されており、そこを押せば声が流れるようにもなっている。ちなみにその音声は事前に送ったもので、何故か雫監修の元で何度も録り直したのはいい思い出だ。
それが暫く映された後、次は源鶫の設定へと画面が変わりそこには、猿の面を頭に着けている鎧を着込んで弓を背負った獣人の青年の姿と、そのプロフィールが表示される。
【過去からやってきてしまったまだ年若い鵺、戻ろうとしていたものの現代の娯楽、主にゲームにハマってしまって、現代に永住する事を決意した変わった妖怪】
紹介台詞は「僕に人間風情が勝てるとでも思ってるのですか?」
本人の性格とはあってる気がしないが、ここに来た時点でその演技力は認められている筈なので、心配することはない。
そして最後である七尾玲那のイラストとプロフィール。
【由緒正しき陰陽師の家系に代々勤めていた式神の末裔。普段は女子高生をしているが、その生まれもあってか、気に入った相手に仕えようとしてしまうクールだけどちょっと抜けている狐の妖怪】
そして台詞は「七尾玲那……まだ九尾には成れてない若輩者だけど、見守ってくれると嬉しいわ」
今映されたこれらが俺達のプロフィール一覧のようだ。
俺より後に紹介された二人は既に公式HPに記載されているのだが、俺はサプライズ枠なので配信を始めるようになってから載せられるらしい。
そしてそれを確認した事で詳しい配信日などを決めていく事になり、最終的には打ち合わせの結果、二週間後の月曜日に糀の配信を最初に行うことになった。
そしてその二日後である水曜日に霞さん、そして金曜日に俺といった感じでやる事になった。
「じゃあ今日は解散ですね。また何か用事がありましたらお呼びするかもしれませんので、これからもどうかよろしくお願いします」
それに対して全員でよろしくお願いしますと礼をして解散する事になったのだが、帰りの電車に乗る直前、仲間になったとはいえほぼ初対面である霞さんがちょっと来て欲しいと頼んできたのだ。
この後の用事などは特になかった俺はその誘いを受けることにして着いていったのだが、辿り着いたのはなんか不思議なかなり豪華な神社。
こんな所で何の用なのだろうかと思った瞬間、どこからかお祓い棒を取り出した彼女はそれを俺に向けてきて、
「ねえ一つ聞かせてくれないかしら? 貴方……妖怪でしょ?」
そんな事を敵意を持った目で聞いてきた。
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