第2話 かつ丼を作ろう
真守はデスクで真剣な表情でパソコンに向かっている。
壁の時計を見ると定時まではあと10分ほど。なのでビルの入り口で待ち構えることにする。
「弟さんといくつ離れてるんですか?」
「一卵性の双子なんです。だから同い年。ヘアスタイルは違うけど、顔は同じですよ」
「へぇ。双子の人ってあまり見ることが無かったからちょっと楽しみです。あ、死神さん、敬語じゃ無くて良いですよ。私より年上でしょ?」
「そうか? じゃあ普通に話させてもらうな。楽で助かる」
「私も年上の人に敬語とか使われるのこそばくて〜。呼び方も良かったらマコトって呼んでやってください。周りは皆そう呼んでくれるので」
「じゃあマコトちゃんで」
和やかにそんな話をしながら真守を待つ。するといつの間にか定時を回っていて、少し疲れた顔をした真守が姿を現した。
「真守」
「もしかしてご飯?」
「そうなんだ。頼めるか? こちら杉原マコトちゃん。マコトちゃんって呼んであげて」
「よろしくお願いします」
マコトちゃんはにこっと笑顔を浮かべて小さく頭を下げた。
「よろしくお願いします。弟の真守です。女の子が好きそうなおしゃれなご飯は難しいかもだけどね。オムライスとかならなんとか」
「かつ丼なんだ」
「かつ丼」
真守は目を見張ると「うーん」と少し考える素振りを見せる。
「難しいか?」
マコトちゃんも少し不安げな表情でそわそわしている。すると真守は「ああ、違う違う」と微笑んだ。
「うん、大丈夫。買い物して来るから先に帰っててくれる? ゲームでもやって待っててよ」
「分かった。じゃあ待ってるな」
拓真は軽く手を上げ、マコトちゃんはぺこりとお辞儀をして、帰るべく空に浮かんだ。
真守が買い物を済ませて家に帰り着くと、拓真とマコトちゃんはテレビゲームに
襲いかかって来るゾンビを銃で撃退するゲームだ。拓真は普通のコントローラ、マコトちゃんは拳銃型のコントローラを手に、瞬きも忘れた様に熱中している。
「ただいまー」
真守が言うと、拓真は「おかえり」、マコトちゃんは「お邪魔してます!」と迎えてくれるが、視線はゲーム画面に釘付けのままである。
「ふたりとも、ご飯にしても良い?」
「ああ」
拓真は応えると、ちょうときりが良かったのかコントローラを置いた。その横ではマコトちゃんが「やったー! クリア!」とガッツポーズで歓声を上げている。
マコトちゃんはゲームを続ける様だが、拓真は立ち上がってキッチンに入って来た。
「また無理言って悪いな。かつ丼行けるか?」
「うん。大丈夫だよ。家でとんかつ揚げるの難しいから、お店で買って来たんだ。奮発してとんかつ屋さんのロースだよ」
真守はとんかつ屋のロゴがプリントされた耐熱性のポリ袋に入れたまま、所々油が染みた紙袋を開ける。揚げたてを買って来たのでまだ温かい。
「やっぱり揚げ物って大変なのか? 母さんが良く作ってくれてたからさぁ」
「大変だよ。自分が料理をする様になったら良く解るんだ。使った油の処理も大変だしね。特にひとり暮らしの揚げ物はハードル高いねぇ。揚げ焼きって言う手もあるんだけど、とんかつは厚みがあるから揚げる方が美味しいと思うしね。だからちょっと手抜きになっちゃうんだけど」
「全然。真守でも料理で面倒だって思ったりすることあるんだな」
「そりゃああるよ。拓真がここにいてくれるから、俺も頑張ってご飯作ろうって思えるけど、ひとりだったら出来合い買ってくることもあったよ。疲れた日とかはね」
「そりゃあそうか。母さんは専業主婦だったけど、真守は仕事あるもんな。だったら俺だって出来合いとかでも良いんだぜ」
「どうしても作るのがしんどい時にはそうさせてもらうね。とりあえず今日はかつ丼。丼つゆは作るからね」
「頼むな」
「うん」
真守はシンクの下から片手鍋を出し、水を入れて火に掛ける。沸くまでの間に玉ねぎをスライスする。
お湯が沸いたらだしの素を入れ、お砂糖、日本酒、みりん、お醤油を入れて調味をして丼つゆを作る。
まな板にとんかつを乗せて適当な幅に切っておく。まだ温かいからかざくざくと良い音がする。音だけで美味しそうだなんて、揚げ物の特権の様だ。
小振りのボウルを3個出し、それぞれに卵を2個ずつ割り入れる。白身は切り過ぎない様にふんわりと混ぜた。
続けて小振りなフライパンを出す。そこに丼つゆを3分の1ほどお玉で入れて火に掛け、玉ねぎを入れる。
ぐつぐつと沸いて来たらとんかつを1枚分そっと置く。温めている間にどんぶり鉢に炊きたてのご飯をふんわりと盛った。
さてとんかつの衣が割り下をまとった頃。卵をまずは半分回し入れる。途端に鍋ふちから卵が固まって来るので、全体に行き渡る様にフライパンを揺すってやる。
そしてあらかた卵が固まったら残りの半量をまわし入れる。
とろりと半熟になったらできあがりだ。こうした卵を使う丼は、卵を入れたら強火で一気に仕上げる。そうすると卵がふんわりと仕上がるのだ。
それを手早くご飯の上に乗せる。フライパンから
「お、旨そう」
拓真が目を輝かせて覗き込んで来るので、真守は「へへ」と少し得意になってしまう。
「あとふたつ、すぐに作るからね。マコトちゃんにはできたてを食べてもらいたいな」
真守は言うと、丼つゆをフライパンに移した。
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