#6炎神プロメテウス

 親指を立ててそう言ったルナは先を進んで行ったスレイクに追いつこうと走る。

 ルナの背後から不安そうな声が飛んできた。


「ちょ、ちょっと待って! これ走って良いんですか? 走ったら爆発します⁉」

「大丈夫―」

「あー。もうっ! わかりましたよ」


 コルネはリュックを背負うとそのままルナを追いかけ走る。

 しばらく走っていると振動で口が緩んだリュックから先程の棒状の爆弾がこぼれ落ちた。

 次の瞬間凄まじい熱気と爆風が生まれた。


「わぁぁぁ! 爆発したぁぁぁぁ! ルナぁ! 無理、やっぱ無理ぃぃ!」


 コルネは爆発から逃げるように全力でルナとスレイクに向かって駆け出した。

 焦って走ったせいか振動で更にリュックから一つ二つとルナの作った爆弾がこぼれ落ちる。

 コルネの走り去った道は花火大会のような騒音を奏で、爆炎に包まれ、雷が走り、そして全てを凍りつかせる氷で覆われる。地獄絵図のようになっていた。

 恐らくこの爆発でルナ達を後から迫っていた魔物達は絶滅しただろう。


「ルナぁ! 助けてぇぇぇ!」

「こっち来るなぁ!」


 コルネの助けを拒絶するようにルナとスレイクは凄まじいスピードで魔物を捌きながらダンジョンの奥へ突き進む。

 銃声、魔物の叫び声、爆発音、ルナ達の悲鳴、骨を砕く音、全てが混じった複雑な音がダンジョン全体に響き渡る。

 迷路のようになったダンジョンで迷わずに正確な道を選べているのは、スレイクが音の反響から正確に正しい道を選択しているからだ。

 そんな快進撃が続き約十分程度経った。


 その僅かな間に下層に続く階段を十階分は駆け下り、コルネの背負ったリュックから爆弾が尽きる頃には最下層と思われる場所にたどり着いた。

 爆弾が尽き、走る必要も無くなった三人は不気味な壁を眺める。


「うわっ……壁が紫に光ってるぞ。気持ち悪っ」

「ここが最下層だな。この階層だけ不浄な魔力の量が桁違いだ。この階層に魔力の根源そして、魔王の核を守護する強力な魔物がいるだろうな。ここからは警戒していくぞ」


 スレイクは目の前にある巨大な扉を見上げながらそう言った。


「なるほど。それにしても案外サクサクたどり着いたな」

「それはほぼルナの功績だろう。ダンジョン破壊による近道、これが──ってなぜ扉を開こうとしているんだっ! ちょっと待て! この奥にいるのは今までの魔物と桁が違──」

「よっこらせっ!」


 スレイクの静止を聞かずルナは扉を開き、そして──。


「あ……。し、失礼しました」


 すぐに扉を締めた。


「GURYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼」


 扉の向こうからこの世のものとは思えない声が響いてくる。

 しかしそれに構わずルナは早足で下ってきたばかりの階段へ足を乗せた。


「それじゃ。帰ろっか。用は済んだし」

「待てぇぇ! 私にここまでさせておいて帰るんですか? 魔王の核は⁉」


 コルネがルナの胸ぐらを掴みながら叫ぶ。


「い、嫌だってさ……。それと戦うとか無理じゃね?」

「へ?」


 コルネがルナの指差した方へ顔を向けると、そこには四足に人形の胴体を持ったケンタウロスのような魔物が扉を開きルナたちを見ていた。

 大きさは一〇メートルを超える巨体のため、ほとんど顔しか扉から出ていないが、それでもその巨体は恐怖を煽られるモノだった。

 魔物は体に炎を纏っており、両手には巨大な炎の槍を持っている。赤い毛並みがこの世ざるもののような威圧感を与えてくる。


「炎神プロメテウスだと⁉ 不味い。古代種だ」

「古代種ってなんだよ! それに炎神って⁉」


 ルナはアリシアから貰った錬金銃の弾を炎神プロメテウスへ向けて発砲しながら叫ぶ。

 それだけで炎神プロメテウスは僅かに後ずさるが、見た目に一切ダメージは入っていない。


「炎神プロメテウスは最初に生まれた魔王が従えていた最強の魔物のうちの一体だ。なぜこんな所にいるか知らないが、気をつけろ」


 そう言いつつスレイクが剣を構えた瞬間、炎神プロメテウスが更に一歩後ろに下がり、扉の隙間から槍をルナとコルネがいる場所へ目掛けて突き立ててきた。


「「ぬあああああっ!」」


 ルナとコルネは頭の上に突き刺さった槍に驚き、同時に叫んだ。更に槍に宿った炎が焦げ付きそうな熱波を放つ。

 熱々の鉄板の上で焼かれている様な熱にルナとコルネは汗をかきつつ、攻撃を加えてきた炎神プロメテウスを睨みつける。

 すると炎神プロメテウスが大きな口を開き低く、威圧のある声で空気を震わせた。


『脆弱な人間どもが、我を永劫の闇の中に閉じ込め、今度は忌々しい神の子を引き連れてきたか。許さん許さんぞ! 貴様ら全員皆殺しだ‼』


 次の瞬間、炎神プロメテウスから不思議な魔力の波動が放たれルナたちを飲み込んだ。

 気がつくと、ルナ達は一面が真っ赤のドーム状の空間へ閉じ込められていた。

 ドームは炎神プロメテウスが余裕で入るほどの大きさをしており、ドームの真ん中に炎神プロメテウスが佇んでいる。


「え? あれ? 転移⁉」

「いや、魔力に寄る空間改変だ。これを解くには炎神プロメテウスと同等の膨大な魔力の固まりをぶつける必要がある。それが出来ないならこの空間の創造者であるあいつを討伐するしかない」


 スレイクは剣を構えてルナの前に出ると鋭く炎神プロメテウスを睨みつけた。

 しかし今先程スレイクが挙げた手段はルナとスレイクにはどう考えても不可能だった。

 この場からの脱出方法が思いつかないルナは頭を抱えた。


「……どっちも無理そうなんですけど⁉ どうすんだよ! 爆弾も使い果たしちゃったし、持っているアイテムなんて錬金銃と弾それからギルド長から貰った毒ナイフくらいだぞ! 倒せるのか⁉」

「あの~私のこと忘れてません?」

「ならば再封印をするという手段もある。必要な魔力は相当に高いがこれが先程挙げた方法より現実的だ。ただ、封印するなら奴を弱らせる必要がある」


「じゃあどの道、封印には大量の魔力がいるって訳だな。……難しいな」

「あの──私……」

「くそっ! どうすればっ‼」


 ルナは悔し涙を浮かべ、地面に怒りを叩きつける。

 そんなルナに目掛けてコルネの飛び蹴りが飛んできた。


「だから私がいるっていってるでしょ‼」

「ぐべっ‼」


 コルネの飛び蹴りを顔面で受けたルナはそのまま地面を何度か跳ね、地面に頭を打ち付け──。


「いててて……何すん……」

 ルナは顔をあげると言葉を切った。

「「あっ」」


 加害者のコルネと被害者のルナ二人の声が重なる。


 なぜ、バカみたいな会話をしているルナ達に怒り狂った炎神プロメテウスが攻撃を加えなかったか……。

 それは炎神プロメテウスが灼熱の火の玉を両手に集約させ、ルナたちを狙っていたからだった。


「逃げろぉぉぉ!」


 スレイクが叫ぶのが聞こえ、ルナは動き始めた。

 素早く錬金銃を炎神プロメテウスの顔に目掛けて発砲する。

 その数は一や二発どころではきかない。


 数多の銃弾は偶然炎神プロメテウスの瞳に炸裂し、炎神プロメテウスから放たれた炎の固まりは大きく逸れ、大爆発を起こした。


 爆発範囲自体は直径五十メートル程度の大きさだった。しかし威力は炎神という名前に負けない威力をしていた。

 炎神プロメテウスが放った攻撃は巨大なクレーターを作り上げ、あまりにもの高熱に地面が溶けマグマのように粘度の高い赤い液体が穴に溜まっていのだ。

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