#5爆弾を投げる時は常に楽しもう!

「ふんふん♪ ぽーい♪」


 ──ズドーン‼

 呑気なルナの鼻歌と破砕音が鳴り響くダンジョン内に粉塵が舞い床に大きな穴が生まれる。これを繰り返すこと数十回、上を見上げればダンジョンにできた穴が層のようになっているのが見えた。


「いや~。真面目にダンジョン攻略とかする必要ないよね~こっちの方が簡単だし」

「はいはい! 次私が爆弾投げたいですっ!」


 コルネはぴょんぴょんと跳ねながらルナが握った爆弾を奪い取ろうと手をのばす。

 しかしルナは爆弾をコルネの手の届かないところまで持ち上げると空いた片手でコルネの頭を叩いた。


「この爆弾は危ないから駄目だ」

「え~なんでですか? 私もやりたいです! 貸してください。絶対に大丈夫ですから!」

「ちょっと、掴むな! 危ないから。それに絶対に大丈夫とか言ってフラグ建築するなっ。絶対失敗するぞ」

「何言ってるんですか? 大丈夫ですから貸してくださいっ!」


 そんな会話を見ながらスレイクは大きくため息を吐いた。

 爆発音に怯え魔物は近づいてくる事はなく、魔物を討伐する役割を担っていたスレイクは自分の役割を見つけられずにいた。

 しかしそれを咎める訳にも行かない。なぜならダンジョンの内部をさまよい階段を降りるより、床を爆破して下階に飛び降りたほうが効率がいいからだ。


「っていうか……ダンジョンの床ってこんなに脆いのか? スレイク?」

「ん? あぁ……このダンジョンは生まれてからまださほど時間が経っていないだろうな。魔物の数も少ないし、ダンジョンの壁が硬質化していない。この調子なら強力な魔物はほとんどいないはずだ」

「なるほど。ならこのペースでいけば余裕だな!」


「まだ気を抜くには早いな。遊び気分もそろそろ終わりにしておけ。周囲の不浄な魔力が濃度を増してきた。ここら辺からその爆弾では床を破壊できないかもしれない。試してみろ」


 スレイクがそう言った瞬間、スキを伺っていたコルネがルナの手から爆弾を奪い取った。


「やった! よーし。爆弾爆発‼ とりゃあ!」


 コルネが爆弾を少し離れた位置へ投げ飛ばした。その瞬間凄まじい威力の爆風がルナたちを叩きつける。

 しかしダンジョンの壁に変化は無く傷すらついていない。よく見ればダンジョンの壁は上層と違い、薄い紫色をしていた。

 これが恐らく魔力によって硬質化した壁なのだろう。


「あ、ほんとだ。壊れないな。一体どんな素材でてきてるんだ? 採取したい」


 完全に思考が錬金術師のそれになっているルナはリュックから小型のピッケルを取り出し壁に叩きつける。

 ガンッ、という音が鳴り響くが壁はかなり固く到底掘れるとは思えない。


「……駄目だ。……というか冷静に考えたら爆弾でも壊れないのにピッケルで壊れるわけ無いじゃん」

「だろう? 気を引き締めないと一瞬で魔物に殺されるぞ」

「そうだな。そろそろ真面目にダンジョン攻略するか」

「えぇ⁉ 今まで真面目にダンジョン攻略してなかったんですか?」


 コルネは驚きを一切隠すこと無く両目を開きルナの顔を見た。


「いや、真面目にやってはいたよ? でもずっと緊張状態だと疲れちゃうから和ましてたんだよ。うん。決して自分が作った爆弾を使うのが楽しかったとかそんな爆弾魔みたいな理由で不真面目だったわけじゃないから」

「えっ。爆弾を使うが楽しかっただけなんですか⁉」

「だから違うって言ってるじゃん。口に爆弾突っ込むぞ」


「上等ですよ! 私が魔法を撃つ方が早いです。それにルナ、もう爆弾もそこまで持っていないんじゃないですか? 私の口に爆弾を突っ込むだけの余裕があるんですか?」


 コルネはパンパンだったルナのリュックが少し膨れた程度の状態になっているのを見て、そう言った。


「ふんっ。オレが爆弾しか持ってきてないと思ったら大間違いだぞ。錬金銃の弾、複数種類と試作品の魔法発生爆弾を持ってきた。後は回復のポーションを十数個」

「ま、魔法発生爆弾⁉ ちょ、ちょっと待ってください! そんなの作ったら私の仕事無くなるんですけど⁉」


「いや、だってコルネ魔法一発撃ったら終わりじゃん」

「終わりじゃないですっ! そんな産廃作る暇があるなら強力な栄養剤でも作ってくださいよ! お腹が一杯になれば何発でも魔法撃てますからっ!」

「おぉ! そのアイデアはなかった。団子みたいな栄養剤を量産すれば爆弾よりリュックの幅を取らないで済む」


「は、はい。完全に私の事を魔法を放つ道具と同じ様に考えているのが癪ですけど……お願いしますよ?」

「はいはい。それじゃあ正攻法で進もうか……。並びはどうする?」


 ルナはスレイクとコルネの方を見て尋ねる。

 するとスレイクがルナの前に出てきた。


「俺、ルナ、そしてコルネの並びで行こう」


 スレイクが言うとコルネが不満そうに頬を膨らませる。


「なんですかっ。そのルナを守るための布陣みたいな並び。私が真ん中が良いですっ!」

「落ち着け。この並びにはちゃんと意味がある。魔法使いのコルネは詠唱が終わるまで時間が掛かるだろう? その間もし俺が突破されてもルナのアイテムで時間稼ぎが出来る」

「な、なるほどっ」

「納得したなら行こうか。ルナも問題ないな?」

「あぁ。大丈夫だ」


 ルナはコクリと頷くと、そのままスレイクの後ろをピッタリと並んで歩く。


「……」

「……」

「……おい。ルナ。いくらなんでも近すぎだ。歩きづらいんだが」

「わ、悪い。実はお化け屋敷って結構苦手なんだよな。この薄暗い通路がお化け屋敷に似ているというか……」

「なるほど。だがステラを救いたいなら我慢しろ。この下の階層がどこまで続いているか分からないんだぞ?」


 スレイクはそう言いながらいつの間にか接近していたゴブリンを両断した。

 そのままスレイクはコルネの方へ振り向いた。


「コルネ。お前も魔法を放つ準備はしておけ、油断はす──」


 スレイクがコルネの方を向いた時にはルナがスレイクの方へ錬金銃を向けていた。


「なにをっ──」


 ──バンっ‼


 ルナの放った乾いた銃声と共にスレイクの背後でドサリという何かが倒れた音がした。


「油断するなよ。スレイク。後ろががら空きだぞ」

「……すまない。油断をしていたのはこちらだったようだ」


 それだけ言うとスレイクはルナの横を通り、ダンジョンの奥へ進み始めた。


「しかし、まともに攻略をすると結構魔物と出会うんだな。あっ魔物」


 ルナは銃の引き金を引き、馬車よりも早い速度で近づいているチュパカブラのような姿をした魔物の脳天に弾を放った。

 同時にコルネがルナへ錬金銃の弾を手渡す。


「はい。どうぞ」

「おぉ。サンキュー」


 弾を受け取ったルナは錬金銃に弾を詰め直しながら、背負っていたリュックを地面に下ろした。


「コルネ、お前の魔法はここじゃ使えないし、荷物持ってくれるか?」

「え……じゃあ中にある爆弾使っていいですか?」

「うーん。まぁ一個だけなら良いよ──これ使え」


 ルナはリュックから炎の印が付いた棒状の爆弾をコルネに手渡した。


「これは?」

「衝撃が加わった瞬間、その場で約二〇〇度くらいの炎が生まれる魔法爆弾だけど」

「こわっ! サラリと恐ろしいもの渡さないでくださいよっ!」

「でもそのリュック似たようなモノがたくさん入っているぞ?」

「え……。む、無理ですっ! こんな恐ろしいもの持てないですっ!」


 コルネは両手を突き出すとイヤイヤと手をふる。

 しかしルナは突き出したコルネの手にリュックを掛けるとそのまま背を向けた。


「それじゃあヨロシクー。俺は錬金銃で戦うから任せてくれ」

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