#4あ、あれがない!
「ちょ、ちょっとぉぉ! ステラ様助けるのに撃ってどうするんですか!」
「大丈夫だよ。これ睡眠弾だから。ステラが妨害すると思って作っておいたんだよ」
「い、いつの間に……。ところでルナ。ステラ様をこのまま放置するんですか?」
「いいや。フィーネに頼んでおいた。家まで運んでおいてってな。抜かりはない!」
ルナが街の大門に手をかけると、再び背後から声が飛んできた。
「ルナ。行くのか?」
声の主は正真正銘スレイク本人だった。
彼はルナ同様背中に大きなリュックを背負っており、腰には剣を携えている。
明らかにルナを止める為ではなく、守る為にここに来たのが分かる。
「なんだよ? スレイクも来るのか? てっきり止めると思ったんだけど」
「バカを言うな。俺はお前を守ると言っただろう? お前が死地へ向かうなら俺も共に戦おう」
「そうか。助かる」
それだけ言うとルナは街の大門に力を掛けゆっくりと扉を開いた。
その瞬間、背後から馬車の音が響いてきた。
「おやおや。こんな時間に皆さんお揃いで」
「っ‼ アドルフさん? どうしてここに」
思わずルナが叫ぶと、馬車に乗ったアドルフは嬉しそうに口角をあげた。
「お客様。これは補償制度に則った支援でございます。奴隷に初期欠陥があった事を確認したので、お望みの補償をさせて頂きます」
「た、助かる。それじゃあ、俺とステラが巨大オークを倒した場所まで向かってくれ。あそこにダンジョンがある」
「了解したしました。それでは奴隷に関しましては、こちらで介護させて頂きます。──フィーネ。後はよろしく頼んだよ」
「了解しましたっ! あらゆる手段を使って延命させて頂きますっ!」
フィーネの声が夜の街に響いたかと思うと、突如馬車の荷台からフィーネが飛び降りた。
フィーネは地面に倒れて寝ているステラを担ぐと、そのままルナの家の方へ歩いていった。
それを見送ったアドルフはルナたちの方を向く。
「それでは皆さん。行きましょうか」
馬車に揺られ、数時間。
たどり着いたのは視界の遮るものの無い平野と、近くに隣接する森だけがある場所だった。
何もない場所を見てスレイクは訝しげにルナの方を向く。
「おい。ルナ。ここにダンジョンがあるのか?」
「そのはずなんだけど……ほらっ。この方位磁石がくるくる回ってるし」
ルナは壊れた様に回転を続ける方位磁石をスレイクへ見せた。
「魔探知の磁石か。同一の魔力を辿る魔道具がここを示しているのであればここら辺で間違いないな。探そう」
そう言ってスレイクは注意深く周囲を見渡し始めた。
魔探知の磁石は同一の魔力を辿る魔道具、魔王刻印がついて長い時間が経ったステラは魔王の核から流し込まれた魔力を体内に馴染ませている。
よって魔王の核から発される魔力とステラの魔力はほぼ同等だということになる。同じ魔力であれば魔探知の磁石は反応する。
絶対にダンジョンが近くにある。ルナは確信を持ってスレイクと同じ様に周囲を見渡す。
コルネも合わせた三人でしばらく入り口を探していると、コルネの声が飛んできた。
「みんな~。ここに大きな穴がっ!」
「まじかっ!」
探し疲れてヘトヘトな顔をしていたルナは慌ててコルネの声がした方向へ駆け出した。
コルネの姿を捉えると、ルナは真っ直ぐ彼女に向かって走る。
「おっ。いたいた。どこに穴があるんだ?」
「そこ」
コルネが指を差す。そこはルナの足元だった。
次の瞬間、ルナは浮遊感を覚え、一直線に下に落ちていった。
「へっ? ぬあああああああああ!」
真っ逆さまに落ちていく途中、穴の壁を駆けながらスレイクが駆け下りてきたのが見えた。
次の瞬間ルナはスレイクにお姫様抱っこをされると、そのままスレイクに抱えられたまま地面に着地した。
続けて上からコルネが落ちてくるのを確認すると、スレイクはそのままコルネを受け止め、地面に下ろした。
しかしルナはスレイクに助けてもらったことより、衝撃的な事実に気が付き戦慄していた。
「お、おぉ。すごいことに気が付いた」
「なんだ?」
「玉ヒュンがない。むしろお腹がキュッとしたぞ」
ルナは驚いた顔をしたまま下腹部を押さえた。
その様子を見てスレイクはこめかみを抑え、一気に疲れた顔をしてため息を吐いた。
しかし、コルネは笑顔でルナの肩をポンポンと叩く。
「分かる! 分かりますよ!」
「あ、やっぱ分かる?」
「はいっ! 意外と──」
という会話をしている横でスレイクが声をあげる。
「おい! 前を見るんだ!」
「なんだっ──」
「なんですかっ──」
ルナとコルネは顔をあげて固まった。
「「あっ……」」
ルナとコルネの目の前にはこの世界に来た直後に見た巨大なオークと同じ姿をした魔物が佇んでいた。
「に、逃げろぉぉぉ」
慌てて巨大なオークから逃げようと、人工物のように綺麗に整えられた通路をルナとコルネは並んで逃げる。
と、その時──。
ルナの背負っていたリュックから手のひらサイズの球体がこぼれ落ち、ルナたちを追いかけていたオークの前で止まった。
──ドッカーン‼ という鼓膜を破り裂くような音と共に、凄まじい熱風が小さな球体から生まれ、オークを一欠片の肉片すら残さず粉々にした。
「……へ?」
目を丸くしたコルネはルナの肩を叩き、黒く焦げた爆心地を指差す。
「な、なんですか? あれ」
「あれ? あれはありったけの爆薬を詰めた爆弾だけど? 力素素材で作ったから特に効果のない爆弾だな。これ以外にもまだいっぱいあるから安心してくれ」
「お、おぉ~」
「さぁ行こう! 目指すはダンジョンの最奥!」
「いぇ~い!」
ルナとコルネは握りこぶしをあげ、まるで遠足に行く子供のように呑気にダンジョンを進み始めた。
「お、おい! ルナっ。コルネ。勝手に先を行くんじゃない!」
ルナの想像以上の錬金術の腕の向上っぷりにスレイクは驚きつつ慌てて、二人を追いかけた。
しかし、スレイクの足は一歩進んだところで止まった。ルナも静かにスレイクの方を向いて困った顔をする。
「どうしよ。爆発で道ふさがっちゃった」
*
ルナ達がステラを助ける為にダンジョンに潜って数時間が経った。
「けほっ。ルナもまだまだですね。魔素素材で作った睡眠弾に力素素材が混じってるせいで、効果は半減。着弾箇所がすごい痛いです」
ステラは肋骨の辺りを抑えると、ふらつきながらベッドから起き上がった。
たった数時間でステラの頭部に生えていた狐耳は既に禍々しい角に置き代わり、肌も一部が人ではない紫色に染まっている。
とはいえ、まだ動くには問題がない。今からルナ達を追いかけてもまだ間に合うはずだ。奴隷の為に命を捨てに行くなんて冗談じゃない。
覚悟を決めたステラは危なげな足どりで歩く。
「助けに行かないと」
ステラはそう言うと家を出て、街の大門へ向かった。
外は朝焼けが登り始めた頃合いで、ステラは思わず日を隠すように手を伸ばした。
と、その時。
「ステラさん。そこまでです」
フィーネが大きな袋を持った姿でステラの前に姿を表した。袋の中にはタオルや薬、食料品などが入っているのが見える。
フィーネがここまで介護をしていたのだろう。
……そうは思うが、ステラは一切フィーネの静止を聞く気はなかった。
「申し訳ないですけど、私はルナの元へ行かなくては行けないんです。そこを退いてください」
「いいえ。駄目です。私のご主人さま、そしてルナさんと約束したんです。ステラさんを守ると! ここを通りたければ私を倒すことですね。言っておきますが私はかなり強いですよ」
*
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