#2決断
突然のステラの発言にルナは思考が停止した。それはスレイクも同じだったようで、困惑した顔のままステラの次の発言を待っていた。
しかし一向に話を切り出さないステラを見てスレイクは懐疑的な目をステラへ向ける。
「……どういう事だ? 理由を話せ」
「……」
ステラは相変わらず顔色の悪い顔をして沈黙を貫く──が、沈黙に耐えられなくなったのだろう。ゆっくりと口を開いた。
「これを見てください」
深刻な顔をしてステラは自分の着ていた服を捲くると、服の下に隠された白い肌をあらわにさせた。
「な、何をしている! 服を着ないか!」
スレイクは素早くステラから顔を逸らすが、ステラは肌を見せたまま動かなかった。
しばらくそのまま動かないステラを見て、ルナは首を傾げた。
「どうしたんだよ? ──ん?」
ルナは少しだけ立ち位置を移動すると、ステラのへそより少し下の部分に禍々しいコウモリのような紋様があるのを見つけた。
その紋様は薄っすらと魔力を宿している様に見え、ルナは戸惑いながら問う。
「それは……今朝の入れ墨か?」
「……今朝にも言いましたけど、これは入れ墨じゃないです。魔王刻印だそうです」
「ま、魔王刻印だと⁉」
顔を逸しながらルナとステラの話を聞いていたスレイクは、ステラの方へ向き直りつつ叫んだ。
そして今度は目を逸らさずステラの腹部にあったアザを凝視し、紋様に軽く手を伸ばした。
「……本物だ。これはまずいことになったな」
「ええ。だから殺してください。ルナの腕力じゃ私は殺せません」
勝手に進む話をルナは見て、ルナは自分がどこか別の世界に置いていかれた様な気分になり焦って声をあげる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! どういう事だよ? なんでその魔王刻印があると死なないといけないんだよ!」
「私も今さっき病院の先生に聞いたんですけど、この刻印が流行り病の正体らしいです。ずっと気が付きませんでした」
「流行り病? じゃあ治るんじゃないのか?」
「いや、魔王刻印が付いた者は治らない」
スレイクが静かにそう言った。
「ど、どういう事だ? 全く状況が分からないんだけど」
「……俺は昔、魔王刻印についてかなり調べていた。だから一般に出回っている情報より、詳しく知っているんだが、聞きたいか?」
スレイクは困惑し続けるルナを見て静かにそう言った。
「た、頼む」
「そうか。なら話そう。『魔王刻印』とは、古の錬金術師ルナイズム・フォリエンスが作り出した『魔王の核』。それが刻印を刻みつけた者を宿主と定めた証だ」
「はぁ? どういうことだよ?」
「分からないか。そうだな……誰かが変な噂を流しているせいで、魔王の核は実物と大きく乖離している。今までに聞いた事がある話は真実に近い嘘話だと思ってくれ」
スレイクはそう言うと、ソファーから立ち上がり錬金釜の周囲を周り始めた。
「魔王の核の真の効果。それは人を魔王化させる事にある。そもそも魔王の核とは概念的な存在だ。破壊して消滅する物じゃない。魔王の核はこの世に魔王を生み出すシステムの一部だ。だからこそ、魔王の核は様々な場所で確認される」
「ん? 魔王の核が概念なら誰にも物質として確認されるのはおかしいだろ? 時間とか空間とかそう言ったモノと同じって事だよな?」
ルナがそう言うとスレイクは静かに首を横に振った。
「システムである魔王の核は、不浄な魔力の集まるダンジョンの奥深くに具現化する。だが出現した魔王の核は本体ではない。だからダンジョンの奥深くに出現した魔王の核を破壊したところで、魔王刻印を持つ者はこの世に生まれ続ける」
スレイクが捲し立てる言葉を聞いてルナは必死に情報をまとめた。
「あー。つまり、ステラは魔王に成りかけていて、それを阻止するために死のうとしていると……。概念的存在である『魔王の核』が地上に出現した時は魔王を生み出す時。ってことでいいのか?」
「あぁ。それでいい。そして地上に出現した魔王の核が内包する魔力のすべてを魔王刻印の付いた者に流しきった時、印の付いた者は魔王化する。止める方法は刻印に対応した魔王の核を破壊することだけだ」
暗い鬱々とした雰囲気の中、突然ステラを助ける方法が出てきてルナはパッと顔を上げた。
「な、なんだよ。助ける方法があるじゃん。それならすぐにでも探し出せば助けられるんじゃないか?」
「魔王刻印が刻まれた者の寿命は一年だ。ステラは既に一年前からソレがあるんだろう?」
「……はい」
その事実はステラの寿命はもうもう幾ばくもないという事実を示していた。
しかしそれを認められないルナは必死に解決策を模索する。
「……でも、魔王の核とステラは魔術的な繋がりがあるってことだよな? それを辿れば目的地は分かるはずだ。後はダンジョンを踏破すれば──」
「それが一番難関なんだ!」
普段は感情を表に出さないスレイクが突然怒りを露わにして怒鳴った。
しかしそれも一瞬で次の瞬間にはスレイクは冷静な顔をして咳払いした。
「俺は一度それで失敗している。魔王の核が生まれる程の強力な魔力が集約しているダンジョンの踏破は簡単な事じゃない。命が何個あっても足りない。それをたった数日の間に踏破するなんて不可能だ」
そう言ったスレイクの瞳には怒りや憎しみ、未練など様々な感情が映り込んでいた。
それを見たルナは気が付いた。
「スレイク……お前過去に──」
「その話はするな。今話すべきはいかに楽に苦しませずにステラを殺すかだ。この方法はステラの主であるルナに任せる。既に体調不良を訴えている。期限は数日もないだろう。それまでに判断してくれ──俺は店に戻る」
スレイクはそう言い捨てて玄関へ向かう。玄関を出て数歩歩くと、玄関の壁に背中を預け、静かに話を聞いていたコルネの姿を見つけた。
「何をしている? 家に戻らないのか?」
「ふんっ。今戻ります。──ただいま~」
コルネは先程までの話を聞かなかったかのように演技をすると、そのまま家に戻っていった。
「あれ? ルナ、どうしたんですか? 暗い顔して」
「な、なんでもねぇよ。それよりオレ今から作るものがあるから邪魔しないでくれ。──ステラ、お前は変なことを考えずにベッドで寝ておけ。それと命令だ。絶対に自殺だけはするなよ。──コルネ。シャリーの魔道具店で買ってきて欲しい物がある」
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