#6師匠のすすめ

「ならこれを使いな」


 突然玄関の方から声がしたと思うと、ルナの方へ隙間の殆どない網付きの棒が投げて寄越された。


「うわっと……。あれ? ギルド長? どうしてここに?」


 ルナは網付きの棒を受け取り、声がした方を向くと、そこには錬金術ギルドのギルド長であるアリシアが腕を組んで立っていた。

 そのままアリシアはルナの元まで歩いてくると、投げて寄越したばかりの網付きの棒を奪い取り、錬金釜に突っ込んだ。


 掬う様な動作を取ったかと思うと、アリシアの引き上げた網の中には数十個の弾が入っていた。

 それを一つ手に取ると、アリシアは舐めるように銃の弾を調べた。


「不純物が入っているね。鉱石は投入する前に混在物を分離させるんだ。それから調合中によそ見をしただろう。ごく僅かに歪んでいるよ。この程度なら問題ないが……一級品とはいえないね。良くて二流品だろう」


 そう言うとアリシアはルナへ網ごと弾を突き出した。

 網を受け取り、すぐにルナも弾を確認したが、全く問題があるようには見えない。アドルフから受け取った弾と比べても大差が無いように見える。


「あの。これで駄目なんですか? オレが貰った弾と大差ないと思うんですけど……」

「低級品を目標にしちゃ駄目だよ。確かにルナ、あんたが作ったものは初めてにしては素晴らしい出来さ、天才的な才能を見せつけるかのような素晴らしい物だ。だが、本物というのはこういうのを指すのさ」


 そう言ってアリシアポケットから五発の弾薬を見せつけた。


「私が作ったものだ。くれてやるから比較してみなさい」

「は、はい」


 ルナはアリシアから弾薬を受け取ると、自分の弾を比較してみた。

 その違いは歴然としていた。

 歪みの一切ないアリシアの弾薬は光沢がある様に見え、手触り、重量、光沢感全てが違っていた。


「お。おぉ! すごい。これ貰っていいですか?」

「お前の為に作ったんだ。好きにしな」

「ありがとうございます」


 ルナは宝物のように弾を握りしめると、ふとスレイクに言われた事を思い出した。


「あっ。ギルド長。オレのししょ──」

「駄目だ」


 ルナが言葉を言い切る前にそう言ったギルド長はくるりと背を向けた。


「私なんかがお前の師匠にはなれないよ。たった一回の挑戦で失敗もなく錬金銃の弾を作り出すお前の師匠になれそうな人間は今のこの世界に一人しかいない」

「……誰ですか? ルナイズム・フォリエンス?」

「死者の名前を出すんじゃないよ。今のこの世界に一人だけと言ったはずだ。生者だよ。今この国で国のエネルギーの源であるエーテルストーンを作り出している人物を知っているかい?」


「知りませんけど……」

「そうかい。じゃあ覚えておくといい。ロイナ・エレクトロという名だ。ちなみに指定手配犯だよ」


 そう言われルナの顔は引きつった。


「し、指名手配犯? そんな人に師匠になってくれとお願いするんですか?」

「ロイナくらいしかお前の師匠にふさわしい者はいないから仕方がないだろう? まぁいずれ奴もこの街に来るだろう。その時声をかけな」


 そう言ってアリシアは立ち去っていった。


「……し、指名手配犯。こわっ」


 ぶるりと身震いすると、小さくため息をついたルナは錬金術の窯の前に立ちスレイクの依頼品を作り始めた。

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