#3マッチポンプな真実

 街についたルナは小さくため息をつく。


「……コルネ。今回のジャイアントスネークの討伐報酬は全部お前にやるよ」

「ほ、本当ですか?」

「あぁ。その代わり、二度と関わらないでくれ。オレも元気にやるからコルネも元気にやってくれ」


「い、嫌です‼ そんな事なら報酬はいりません! お願いします。荷物持ちでもなんでもしますから、雇ってくださいぃぃぃ」


 コルネは必死な形相でルナの首にしがみつくと、ルナの上で暴れ始めた。


「ちょ、やめろっ。そもそも錬金術の素材採取に向かってもお前が魔法を撃ったら、その時点で採取したい素材が消滅するんだろ? やくたたずにもほどがあるだろ!」

「そんな事ないです! ま、魔法の威力も調整できるので、大丈夫です」

「へー。それで? 威力を調整した魔法はどれくらいの威力があるんだ?」

「……そうですね。家一軒が吹き飛ぶくらいですかね?」

「……え? 手加減してそれ? い、いらねぇ……」


 ルナは心の底からそう呟いた。

 錬金術師であるルナは基本的に家で仕事をすることになるだろう。その場合、大飯食らいのコルネは仕事がない。さらに洞窟などへ素材収集に向かった場合、コルネの魔法は洞窟の崩壊を招くことになる。

 そんな事を考えている間にルナは冒険者ギルドへたどり着いた。


「……それじゃあここでお別れしてもいいか?」

「えっ? 駄目ですよ‼ 絶対に逃しません! 私はルナと一緒にいたいです」

「ふざけんな。オレは逃げたい!」


 と、ルナが叫んだ瞬間、ルナの脇にコルネの細い手が入り込んだ。


「へっ?」


 続けて身悶えするほどこそばゆい感覚が全身を貫いた。


「ちょ、あははははは。くすぐるのやめろっ。あっやめ、ああああああっ‼ 死ぬっくすぐったくて死んじゃうっ」


 コルネはルナにしがみつき、くすぐり続ける。


「にゃああああああ! やめてぇぇぇ。この体すぐ感じちゃあっ!」


 公衆の面前であることなど気にする場合ではないルナはコルネを振り落とそうと暴れるが、体力の限界が来てへにゃへにゃとその場に座り込んだ。


「た、たしゅけ……何でもするからぁぁ」

「じゃあ私を雇ってください」

「分かった。分かったからっ」


 ルナが肯定した瞬間、コルネはあっさりとルナから離れた。


「……くすぐったくて死ぬかと思った」

「ふふん。私を侮らない事ですね。子供の時から親や兄妹、そして近くに住んでいる住人に散々喰らわせて磨いた技術です」

「クソガキじゃん……。はぁ。もういいや。じゃあ最初の命令な。報酬受け取ってこい」


 ルナは冒険者ギルドの受付を指差すと、コルネを向かわせた。

 そしてコルネが受付で手続きをしているのを確認して、ルナは冒険者ギルドに背を向けた。


「よし。帰るか」


 ルナはコルネをそのままに放置してステラの待つ家に戻っていった。


「ただいま。ステラ」

「あ、おかえり~」


 疲れ果てたルナが家に戻ると、そこにはコルネがまるで我が家にいるようにふんぞり返って床に寝っ転がっていた。


「な、なんでここにいるんだよ……」

「どうしたんですか? 私を雇ってくれるって言ったじゃないですか。何か問題でもありました?」


 悪い笑顔を浮かべるコルネはぐいっとルナに顔を近づけた。

 恐らくルナがわざと置き去りにしたことを分かって言っているのだろう。


「……べ、別に問題ないけど。というかうちに住む気なのか?」

「駄目ですか?」

「駄目っ。この家そこまで広くないし、家賃半分払ってくれるならいいぞ?」

「いくらですか? 銅貨一枚くらいなら出せますけど」

「銀貨一枚渡してくれ」

「……む、無理です。くぅ……分かりました。取り敢えず住所は特定したので今日のところは帰ります。それじゃあ」


 そう言ってコルネは立ち去っていった。

 それを見送ってルナは大きなため息を吐いた。


「はぁ。さんざんな一日だった……。寝よう。っていうかルナはどこに行ったんだ?」


 と、その時、玄関の扉がゆっくりと開いた。

 そして妙に疲れた顔をしたステラが家に入ってきた。


「あれ? ステラどこ行ってたんだ?」

「どこ行ってたじゃないです。なんでも屋としての依頼が来たので仕事をしていたんですよ。捻り潰しますよ?」

「ご、ごめんなさい」

「で? 私が肉体労働をしている間、〝ご主人様〟は何をしていたんですか?」


 言葉を間違えれば殺す、そんな殺意の籠もった視線を受けながらルナは生き延びるために頭を回転させる。


「あ、あれだよ。冒険者ギルドで仕事探してた」


 ルナの回答はステラの怒りの堪忍袋を引きちぎる事はなかったらしい。ステラは不思議そうな顔をして首を傾げていた。


「冒険者ギルド? 錬金術ギルドには行かなかったんですか?」

「う、うん。散歩がてら冒険者ギルドを覗いたら、魔法の才能がある人を見つけたから雇うことにしたんだ」

「雇う? お金に困っているこの状況で? 余裕ですね。……まぁいいです。私は奴隷、主の判断に文句を言う訳にはいきませんしね」


 ステラは大きくため息をつくと、そのまま家の中に入ってきて正面からルナと向き合った。


「ほら。報酬です。私が一日かけて稼いだお金です。大切に使ってください」


 ステラはそう言ってルナに銀貨二枚を突き出してきた。


「え? こんなに? 何の依頼を受けたんだ?」

「なぜか住処を失ったジャイアントスネーク達が街に襲撃しにきて、人手が足りなくなった冒険者ギルドが依頼を……」


 と、ステラがそう言った瞬間、ルナの顔から血の気が引いていった。

 心当たりがありすぎる。というか……コルネの仕業だった。

 コルネの強力すぎる魔法が森に住んでいた魔物の住処を奪い、そして最終的にルナ達の収入になった。


「なんてマッチポンプ……」

「マッチポンプ?」

「い、いや。なんでもない……本来ならこのお金は返したほうがいい。けど、この家にはベッドもないんだ。申し訳ないけど使わせてもらおう」


「何言ってるんですか? もしかしてジャイアントスネークの住処が無くなった事に関係しているんですか?」


 ステラの目がすっと細くなり、探るような瞳がルナを見つめてきた。


「い、いや。なんでもない。取り敢えずもう少しお金が溜まったらこのお金でベッドとか生活必需品を買おう」

「それは良いアイデアですね。ルナにしては」


 ステラはそう言うと話は終わりだとばかりに背を向けた。


「じゃあ寝るのでこっち見ないでくださいね」


 そう言ってその場に寝転んだステラは疲れているのかすぐに寝息をつき始めた。

「……オレも寝るか」

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