#2環境破壊をするなっ

「……そ、それで? なんでお金に困ってるんだ? 冒険者なんだろ? 魔物を倒せばいいじゃん。魔法使いじゃないのか?」

「よく分かりましたね。確かに私は魔法を使えます。だけど、誰も私をパーティーに入れてくれないんです。魔法使いは後方戦闘要員。一人じゃ戦えないんですよ」

「ふーん。そうか……まぁいいや。それじゃあお金ここに置いておくから後は好きにしてくれ……えーと代金は銀貨一枚⁉ 一人でどれだけ食べてるんだよ! 二十人前は食べてるじゃん。そりゃあ誰もパーティーに入れないよ。食費バカみたいにかかるもん」

「ふんっ。私を侮らないでください。それだけの理由で私が仲間に入れてもらえないと?」


 自慢気に口角をあげると一枚の紙をルナに突き出してきた。

 見れば、その紙は冒険者ギルドの依頼であった。難易度は星一つで掲示板に掛けられていた依頼より遥かに低い難易度だった。


「どうです? 今から魔物討伐でも。ジャイアントスネークの討伐です」

「実際に見てみろって事か? でもオレ本格的な冒険者になる気無いんだけど……そもそも戦闘の才能がないって言われてるから」

「誰にですか?」


「それは言えない。だけどオレ剣術とか魔術に才能がないらしくて……」

「だから錬金銃を持ってるんですか」


 コルネが首をかしげ、ルナの太ももに装着されたホルスターをチラリと見た。


「そうそう。FPSなら得意だったし」

「えふぴーえす?」

「……じゃ。オレ帰るな」


 あまり深堀りされたくなかったルナは椅子から立ち上がると、机の上に銀貨を一枚置き、その場から立ち去ろうとした。

 その瞬間コルネはルナの手を力強く掴み引き寄せる。


「駄目ですっ! ルナは錬金術師なんですよね? だったら素材を採取するのに護衛がいるはず! 私を雇ってください!」

「い、いや。うちには優秀な奴隷がいるから……巨大オークをほぼ単身で倒せるくらい強いから」


 ルナがそう言うと、コルネは激しく首を振った。


「駄目ですっ。……と、取り敢えず私とこの依頼を受けましょう! 報酬は折半で! 折半で!」

「なんで二回言った? そんなに大事なことなのか?」

「大事です! それじゃあ行きますよ。ルナっ」


 食事を取ってすっかり顔色が良くなったコルネはそう言ってルナを町の外へ連れ出した。


*****


 町の外の南東部は広い草原となっていて、少し離れた場所に少し大きい森があった。

 うっそうと茂る木々によって陽の光は殆ど入らず、森は暗い。

 そんな森の中で恐ろしげな光を放つ物が一つ。


「……ねぇ? ずっと聞こうと思ったんだけど、そのお面なに? 怖いんだけど」

「このお面ですか? これは私の宝物です。私が目標を忘れない様に常に付けているんです。父の形見ですよ」

「目標?」


「はい。世界一の魔法使いになることです。……なんで世界一の魔法使いになりたいか知りたいなら私を雇ってください」

「じゃあいいや。興味ないし」

 ルナはあっさりそう言うとサクサク森の中を進む。

「ちょちょちょ! ちょっとは興味を持ってくださいよ! 勝手に森の中を進まないでください。危ないですよ? ジャイアントスネークがいるんですよ?」

「大丈夫、大丈夫。いざとなったらこの銃で──」


 言葉をきったルナは口をあんぐりと開け、後ずさった。

 目の前にはルナの身長の三倍程度の巨大な蛇がとぐろを巻いて、眠っていた。


「じゃ、ジャイアントスネーク出てきちゃった。に、逃げろぉぉぉ!」


 想像以上の大きさに驚いたルナは素早く踵を返すと、来た道を戻るように全力で走る。

 すぐにコルネもルナと並走して逃げ始めた。

 しかし、ルナの声で目を覚ましたのか、木々を倒しながら背後をジャイアントスネークが迫り寄ってくる音が聞こえてくる。


「ちょ、ちょっと! その銃で倒すんじゃないんですか? 早く殺ってください」

「お前が殺るって言ったじゃん! 早くその魔法でなんとかしてくれよ!」

「詠唱に時間が掛かるんですよっ! せめて時間を稼いでください」

「くそっ。仕方がないな!」


 ルナはなけなしの勇気を振り絞ると、ブレーキを踏み、迫りくるジャイアントスネークを睨みつけた。


「これでも喰らえっ!」


 ルナは錬金銃を取り出すとその引き金を引く。

 ──が、それだけだった。


「あ、あれ? ……もしかして、弾切れ?」


 すっとルナの顔に影が差し、全身から冷や汗が滝のように流れる。

 すぐに錬金銃をホルスターに戻すと、ルナは全力で逃げ始めた。


「無理無理無理! 銃がないと太刀打ちなんてできない!」

「ちょっとぉぉぉ! 時間を稼いでくださいって言ったじゃないですかぁ!」


 ルナの背後で隠れるように詠唱をしていたコルネも慌ててルナの背後をつけて走ってきた。


「いや無理だから。死んじゃうから!」

「大丈夫です。ジャイアントスネークは獲物に巻き付いて、ゆっくりと窒息死させます。その間に詠唱を終えるのでなんとか餌になってください!」

「はぁ? 死んでも嫌だ! ってか死ぬぅ! ──わっ!」


 大声をあげるのに必死になっていたルナは地面への注意が疎かになり、木の根に引っかかり盛大に転んだ。


「……やべっ」


 足を擦りむいたルナは痛みを堪えながら立ち上がる。すぐ背後にジャイアントスネークが這い寄っている音が聞こえた。

 振り向けばジャイアントスネークはルナを取り囲むように周囲を周っていた。

 次第にルナを包囲するジャイアントスネークの体は近づいていき、ゆっくりとルナは全身を縛り付けられた。


「わっ……こ、コルネっ! 早く詠唱をっ!」

「わ、分かりました! 見ていてください。──我が内に眠る魔力の奔流よ。内なる力を開放し、悪神百鬼を打ち払う力となれ! ライトニング‼」


 その瞬間、想像を絶する光と轟音を奏でながら雷が森を駆け抜けていった。

 雷に直撃したジャイアントスネークはその瞬間に丸焦げになる。しかしコルネが魔力の制御をしたのかルナは感電しておらず、まる焦げになったジャイアントスネークの死体からルナは這い出た。


「うっ。ひどい目にあった……。なぁコル──え?」


 ジャイアントスネークの死体の山から這い出たルナの眼前に広がっていたのは、森ではなく、砂漠のように乾いた大地だった。

 光すら入らない程隙間なく生えていた木々は影も形もなく、始めから砂漠にいたかのような周囲の変化にルナは絶句した。


「え? 幻覚? 何だこれ。コルネ……あれ? コルネ?」


 周囲を見渡してもコルネはいない。あるのは辺りに散らばっている木炭だけだ。

 恐らくコルネの魔法は全方位へ拡散して、森を一瞬のうちに消し炭にしたのだろう。

コルネのやった事に驚愕しながらも、よくよく周囲を見渡してみると、近くの岩場の影にコルネが倒れていたのを見つけた。


「お、おい。大丈夫か? コルネっ」


 慌ててルナはコルネのもとへ駆け寄る。コルネの顔色は青ざめており、更にお腹をグルグルを鳴らしていた。


「お、お腹が空きました……何か食べ物を……」

「さっき食べたばっかだろ! 何言ってるんだよ?」

「私、魔法を使うと、生命力を魔力に変換してしまうので、お腹がすくんです。なにか……食べないと餓死しちゃいますよ~」

「燃費わるっ! あれだけ食べておいて魔法一回撃ったらまた食事しないと駄目なの?」


 道理で誰もパーティーに入れたがらない訳だ。コルネを戦闘要員にすると食費がかかって仕方がない。

 ルナは餓死寸前で動けなくなったコルネを背負うと、街に向かって歩く。

 コルネは軽いとは言え、今のルナは非力な女子。足どりはとても遅くなかなか街に戻る事ができなかった。そしてルナは日が沈む頃にようやく街にたどり着いた。

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