ぶっ壊れ魔法使い
#1 狂人登場
早朝、ルナが散歩がてら外に出ると、玄関に立て看板が立てられている事に気が付いた。
「なになに? 何でも屋『ルナのお店』……なにこれ」
ルナが困惑していると、背後に誰かの気配を感じた。振り返ると、そこにはステラが立っていた。
そして自慢げに看板を撫でる。
「あぁ、これ私がやりました。いいデザインでしょ?」
「え……うん。本当になんでも屋をやるのか?」
「嫌ですか?」
「いや、良いけど。なんで看板……こんなにガーリッシュなの? もっと無骨でシンプルなデザインでいいじゃん」
よく見れば看板は全体的にピンク色で、文字は可愛らしい丸文字で書かれていた。
「いやー。せっかく店員は女の子だけですし、そこを売りにすれば良いのかなって」
「……嫌だ。なんか恥ずかしい。それ、直しておいて。それじゃあオレちょっと出かけてくる」
「ちょ、昨日のことがあったのにまた一人でっ!」
「大丈夫大丈夫。今日は銃を離さないし、昨日の服買ったお釣りがあるし、ルナは留守番をしておくように。命令だっ♪」
そう言って楽しそうに鼻歌を歌いながら家から出たルナは、錬金術ギルドのある通りをふらりと散策をする。
「ふんふーん。一日寝たら大分この状況に慣れてきた気がする。そうだよな、せっかくの異世界そして元の世界に戻ることもできるなら楽しんでおこう……まぁ性別の方は半年の辛抱か……」
一晩時間を置いたことで状況を飲み込み、多少精神が安定したルナは楽しそうに街を歩く。
そもそも散歩はルナ、いや玲の数少ない趣味であった。ゲーム、漫画、そう言った趣味とは別に朝の気温が低い時に散歩をすると気持ちが良いので、毎日のように散歩をおこなっていたのだ。
それは異世界に来たとしても変わらず、ルナは見知らぬ街にワクワクしながら散歩をしていた。
錬金術ギルドを通り過ぎ、横道に逸れたルナは体格の大きな男たちや陽気な人達が通る活気の溢れた道に出てきた。
「たった一本道を逸れただけでこれだけ人が増えるのか……。なんでこっちの道は人が多いんだ?」
ルナは人の流れを注意深く見る。すると彼らがとある一箇所の施設へ向かっている事に気が付いた。
人々の流れについていくとルナは錬金術ギルドの二倍程度の巨大な建物を発見した。
「で、でっかぁ……何だこれ。何の施設だ? ……看板は無しか」
入り口で建物に入る人を観察していると、大きな体躯の男たちに紛れ、たまに魔法使いのような服装をしている人達が入っていくのを見て手を叩いた。
「冒険者ギルドか。頭わるっ……強そうな人がいっぱい入ってるし。ちょっと寄ってみよう。良い依頼があるかもしれないし」
ルナが冒険者ギルドに足を運ぶと、中のほとんどは酒場となっていた。
しかしよく考えれば良くできた構図だ、血気盛んな冒険者が魔物を倒す。その報酬を冒険者ギルドで受け取り、その足で建物内の酒場で酒を飲み疲れを癒やす。
建物内でお金が循環している為、冒険者ギルドは儲かり続ける。
「どうりでこれだけ大きくなっている訳だ。錬金術ギルドもこうすればいいのに」
昼間から酒を飲み大騒ぎをしている冒険者たちを見つめながら冒険者ギルドの中でウロウロしていると、ふいに声がかかった。
「なぁ。君みたいな女の子がこんなむさ苦しい所になんのようだ? 良ければ今からどこかに行かないか? 君かわ──」
ルナは声がした方を睨みつけた。
「なに? というかオレを女の子扱いしないでくれる? 撃つぞ? これで頭に風穴開けるぞ」
ルナは履かされたスカートの裾を僅かに上げ、太ももに装着したホルスターと錬金銃を見せつけた。
しかし男は一切引かず、むしろルナのしなやかな足を見て興奮したらしくルナの肩を掴み自分の方へ抱き寄せてきた。
その瞬間ルナの全身に鳥肌が立ち上がる。
「うわあああああ! 触るなぁ!」
──バンッ! バンッ‼
二度の銃声が冒険者ギルドに響き、ガヤガヤと騒がしたかった冒険者ギルドに静寂が訪れる。
コソコソとギャラリーの雑談が聞こえてくる。
「お、おい。あの女の子やばいぞ。こんな所で錬金銃ぶっ放しやがった」
「錬金銃持ってるって事は錬金術師だよな。今どき錬金術師になるとは……。ちょっと錬金術ギルドに依頼してみようかな。頭はやばくとも顔はかわいいし、チャンスあるかも」
「確かに、ほとんど老人しかいない錬金術ギルドに花が入ってきたのは嬉しいよな。錬金術ギルドに依頼をする意欲が出てくる。しかし、彼女は何をしに冒険者ギルドに来たんだ?」
「そりゃあ錬金術の依頼だけじゃあ、やっていけないから冒険者として依頼を受けに来たんだろ。ちょっと声かけてパーティーに入って貰うか?」
「いいな。スキを見て声をかけようぜ」
と、いった会話が聞こえてくるのを無視して、ルナは肩を抱き寄せてきた男から離れた。
「それ以上近づいたら次は当てるからな」
「す、すみませんでしたぁ!」
叫びながら男は走り去っていった。
「ふんっ。これだから男は……あれ? 今女の子みたいなこと考えた? ──気の所為だよな。うん」
ルナはそのまま酒場から離れ、依頼の掛けられた掲示板の前まで向かった。
掲示板にはいくつかの紙が張ってあるが、その紙には大量の星が記されていた。
見た所星が多いほど難易度が高いようだ。星に比例して報酬も高くなっている。一番上の依頼は『西のダンジョンの最奥にある宝石を持ち帰る』という依頼で報酬は金貨一枚となっていた。
ステラから聞いた金貨の価値から推察するに相当難易度が高いものだろう。
そうルナは判断して小さくため息をついた。
「はぁ……簡単そうな依頼があったら受けとこうと思ったんだけどなぁ……」
「あの~。すみません。依頼を探しているんですか?」
突然背後から女の子の声が聞こえ、素早くルナは振り向いた。
そこには側頭部に鬼のお面を付け、黒いローブを羽織った黒髪のちんまりとした少女が立っていた。
少女の手には杖が握られており、そこから彼女は魔法使いだと察することができる。
胸はつつましやかで未熟な体には曲線は殆どない。
しかし顔は整っており、可愛らしい容姿をしている。だが彼女の頬はコケていて、まともな食事を数日間取っていないように見える。
「……あの~。聞いていますか?」
「ん? あぁごめん。なんだっけ?」
「だからご飯を恵んでください~」
「最初と言ってること違うよな。都合が良いように話を変えるな」
「聞いてるじゃないですか! なんで聞いてないフリしたんですか!」
少女は手に持った杖をブンブンルナに向けて振り回す。
それを避けながらルナは話を続ける事にした。
「ごめんって。オレが冒険者ギルドの依頼を探しているか否かって話だろ? 聞いてたよ。うん。だから帰っていい?」
「なんで帰るんですか! 私の顔見ました? こんな少女が飢えているんですよ? ご飯くらい恵んでくれてもいいじゃないですか!」
「お、オレもそんなにお金持ってないし、借金あるし。オレじゃなくてそこら辺の強そうな冒険者に頼めよ。あといい加減に杖振るのやめろっ。当たったら痛いんだぞっ」
少女の振り回す杖を避け続け、体力の限界が近づいていたルナは肩を揺らしながら叫んだ。その瞬間少女の振り回す杖がルナの眼前でピタリと止まった。
見れば少女は恥ずかしそうにもじもじ体をくねらせていた。
「いやぁ。ここの冒険者って強そうじゃないですか……」
「つまり、オレが弱そうだから声をかけたって事か?」
「えへへへ。すみません。という訳でおごってくれますか?」
「嫌だっ。借金あるって言っただろ!」
「でもあなた私と違ってちゃんとご飯食べてますよね! 私も生きるために必死なんです。なんでもします。なんでもしますから、私にご飯を恵んでくださいぃぃぃ!」
少女は大きな音をお腹から放ちながらルナにしがみついていてきた。
「わ、分かった。分かったよ。奢る。奢るから離れろぉ!」
暴れる少女を押さえつけ、酒場まで少女を引きずったルナは机に肘をつき、猛烈な勢いで皿にもられた料理を口に運ぶ少女を見つめる。
「それで? お前、名前は?」
「わふぁしでふか? わらふぃはふぉるねでふ」
「飲み込めぇ! 飲み込んでから喋れ!」
「ん、んくっ……。私コルネです」
コルネは名乗ったかと思うと再び口にすさまじい速度で料理を詰め込み始める。
「コルネ……ね。オレはルナだ。ところでコルネは何歳だ? 見た所子供みたいだけど」
「十二歳ですが? 私のスタイルの良さでもう少し大人に見えますかね?」
「……話聞いてた? 体格が……あれだからもっと若いと思ったって言ってるの!」
ルナがそういうとコルネはフォークとナイフから手を放し、ルナの胸ぐらを掴んだ。
「あれって胸のことですか‼ 胸のことを言ってるんですか⁉ ちょっと大きいからって馬鹿にしてるんですか!」
「く、苦しっ。胸があるのは不本意だからっ。欲しいならあげたいっ」
「馬鹿にしてるんですかっ! くれるっていうならよこしてください! おりゃあああ」
コルネはルナの胸を掴むと力任せに引っ張り始めた。
「痛い痛い痛い! ごめん、やっぱ胸あげるのなし!」
「なんですか! くれるって言ったじゃないですか! 寄越してください!」
「いたぁぁぁぁぁい!」
ルナはコルネから離れると自分の体を大事に抱きしめた。
「ふん。渡せないなら最初から渡すとか言わないでください」
不機嫌そうにコルネは頬を膨らませ、再び料理に口を運び始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます